晩餐会と、その後で
随分とご無沙汰してしまいました。
時間を見ながら少しずつ再開できればと思っています。
お付き合いいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
私は自分の思考に浸りそうになる事に気が付き、考え込みすぎないように注意する。考え込みすぎると周囲で何を話していたか聞き逃してしまうからだ。そう思っていたら案の定、父から令嬢に話しかけていた。
今は晩餐会中なのだからと気を引き締め直す。
「令嬢は殿下と同じ学年でいるとか、学校ではまとめ役も担っているそうですね」
「はい。拙いながらも殿下の補佐を務めさせていただいております。初めは軽く考えていましたが、実際に行うと難しい事なのだと、毎日考えさせられる事ばかりです」
「そうですわね。わたくしも同じ気持ちですわ。日々考えさせられる事ばかりです。ですが学生の頃から補佐をしているのなら将来同じ役目を担ったときに役に立つ事でしょう。同じような事があれば今を思い出し対策を考えることができるはずです。今努力していることは必ず自分の実力になります。何も無駄なことなどはありませんよ」
「ありがとうございます。そのようにお話いただけると今後も努力を続けようと思えます。とても嬉しく思います」
母からも追従があり、嬉しそうな令嬢は二人でにっこり笑って頷きあっている。補佐同士気が合うのだろうか? そんな難しいことに関わっていない私には理解しがたい心境だ。
この話題はこのまま終わることはなかった。父が深堀をしていく。
「殿下の補佐をされているとは優秀な方なのですね。お二人は同じ年齢とか。昔から親交があるのですか? 親交があれば相談をしやすいでしょうし、補佐もしやすい部分もあるでしょう。私も妻には助けられていますし」
「そうなのです。わたくしは有り難いことに殿下とは子供の頃に遊ばせて頂いていました。そのお陰もありまして少しだけ意見しやすい部分もあるかと思っております」
「そうですわね。意見がしやすいという事はとても大切ですわ。わたくしも嫁いだ頃は慣れない事が多く夫に迷惑をかけていたので、自分の意見を伝える勇気がありませんでした。話しやすい関係というのは一番重要な部分です。長く助け合っていると長所も短所も分かってきます。良い関係を築いていけると嬉しいことですね」
「ありがとうございます」
令嬢は頑張っていることを褒められたのが嬉しいのか、頬を紅潮させていた。
両親は、その流れで令嬢をヨイショしながら助け合うと良いよ、と話している。娘と同じ年頃の令嬢が頑張っていることを微笑ましく思っているのかもしれない。何なら私も同じように思っている。心境としては親戚のおばちゃんだ。令嬢は両親の返しを受けてテレテレしていた。そんなことありません、なんて謙遜しているが。令嬢、その返しは無意味だ。かえって初々しいわね。という親戚モードを発動されるだけだよ。と教えてあげたい。実際そうなっている。両親が何を思っているのか私には検討がつかないが、親戚モードを発揮していることはわかる。それとも令嬢から殿下の情報をつかもうとしているのだろうか? デレデレしている令嬢と楽しそうに話をしつつ周囲にも話題を振っていた。所々に殿下の話が入っているので情報収集も兼ねているのは間違いなさそうだ。
明日から今後に向けての対策が始まるのは確実だ。何事も成り行き任せの私には苦行となりそうだ。
そこから話しが膨らんで、姪っ子ちゃん視点で学校の様子が話される。まぁ、これは目新しい事はなかった。学校でのお茶会の話なんかに終止した。令嬢と同じような内容で胸を撫で下ろすことができた。
どうにかこうにか食事も進み、晩餐会と言う名の交流会も終わろうとしている。この感じはなんとか無事に終わりそうな感じではないだろうか? まあ、大丈夫だろうとしていると思わぬ落とし穴が待っているもの。気を引き締めていかないと、と思いつつもそこまで警戒はしていなかった。後は食後の飲み物とデザートで終わり。きっと大丈夫だと信じたい。それなりに時間も経過しているのだ。
デザートが運ばれてきた。
運ばれてきたデザートに目を奪われる。私は基本的にザートは無難なものしか作れない。なので人に教えることはない。正しくは教えることができないという。こちらは料理長作のものだ。美味しそうなケーキに気持ちが上向く。
私がケーキの美味しさにほっこりしていると、今まで大人しかった陛下が父に話しかけている。
なんの話をするのだろうか?
私は警戒心マックスで猫のように毛を逆立て、耳をそばだたせていたが、ケーキ美味しいね、的なことを言っている。私が勝手に警戒していただけで今夜は動きがなさそうだ。陛下も今日の今日で何かを言い出す気はないのかもしれない。私の取り越し苦労だったようだ。
実態はともかくとして私の心労が大きいだけの晩餐会はこうして幕を閉じたのだった。
晩餐会のその後で
晩餐会のあと、陛下は宰相と飲み直しをしていた。その陛下は姫様の様子を思い出しているのか楽しそうだ。
その感想を宰相と共有したいらしい。
「今日の姫は子猫のようにキョロキョロしていて、普段の落ち着いている様子からは考えられない姿だった」
「そうですね。あの様子には私も驚かされました。なにか知られたくない話でもあるのでしょうか? それとも陛下が婚約の話を持ち出すのではないかと心配していたのでしょうか?」
宰相は不思議そうにしていた。
宰相からしてみれば、姫様の行動は予想外で不思議でしかない。唯一考えられるとすれば婚約話しか思い付かないのだ。
「まあ、姫としては断りたい話だろうからな。私が両親に何か言い出すのかとヒヤヒヤしていたのだろう」
「らしくない判断ですね。あんな席で話題を持ち出すと思っていたのでしょうか? 本決まりにならないと言いにくいものですが」
陛下と二人だからだろうか、宰相の口調は普段よりは気安いものになっていた。それをと咎めるつもりはないであろう陛下も楽しそうだ。
「まあ、姫は外交の経験はない。決まらなければ公にはならない、とは思っていも不安があったのだろう。心配するのも分からなくはないがな」
「まあ、そうですね」
陛下の分析に納得していた宰相もこのままで終わらせるつもりはなかった。
「で、いつ話を切り出されるのですか?」
「そうそうだが、二、三日うちにでも話をしようと思う。だが、その前に息子と話す機会を作ろう。できれば好印象を持って婚約に望みたいからな」
「承知しました。明日にでも機会を作ります」
「ああ。頼む」
陛下と宰相の下準備は着々と進んでいく。
両親は
晩餐会終了後、両親は着替えをすることもなく娘について話していた。
「あなた。二の姫は何をしていたのでしょうか? わたくしたちは支援の方法を教えたことはありませんし、仕事の話をしたこともありませんわ。どこから学んだのでしょう? 料理も。一度も教えたことはありません。ピザとか唐揚げとか話が出ていましたが、なんの事なのでしょうか?」
「そうだな。まあ、支援の方は一の姫から聞いたことがあるのかもしれん。わたしたちが知らないだけなかもしれないな」
「そのようなことがあるでしょうか? 本当にあの子はわたくし達の知る二の姫なのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「離れていたせいなのでしょうか? わたくしの知らない姫に思えて」
「そのように言うな。私達や国のために尽くしてくれたのは二の姫だぞ」
「ええ。申し訳ありません」
母は素直に謝罪する。自分でもわかっているのだ、冷たいことを言っていると。母として残酷な事を言っている。だが、思ってしまうのだ。自分の娘に何があったのだろうかと。
「わたくしたちが知らないだけで、あの子は勉強していたのでしょう。埒外の事を言ってしまいました」
母は無理矢理自分が納得できる答えを導き出す。
母親の勘なのか? それとも持って生まれた嗅覚か。母親は娘から感じる何かを感じ取っていた。
その頃、姫様は。
終わった。やっと終わった。
私は今夜の食事会が終わった事に喜びを感じていた。ただ、これは今夜だけの話で。わかってる。次は本格的な晩餐会になる。どうなるかは未知数だけど。とりあえず今日が終わったことを喜ぼう。そう思っていた。
明日には両親と今後について話さないといけないことも、今まで何をしていたんだと問い詰められることも置いといて、私は眠りについた。





