親って、心配するものなのね
「お父様もお元気そうで嬉しいです」
どうにかこうにか、感動の再会攻撃から抜け出すことができた私は二人をテーブルへ案内する。そこには、しっかりと筆頭がお茶を用意してくれていた。
この場で筆頭を紹介しようと思ったが、筆頭はテーブルのセッティングが終わると速やかに退散。家族との再会を邪魔しないようにとの配慮のようだ。私はその心遣いをありがたく思いながら久方ぶりの家族団らんを楽しむ、よりも陛下との会談内容をさぐりにかかろうと本腰を入れることにする。
と思っていた時もありました。
自分の計算なんて役に立たないのだと今、実感している。
私から会話の口火を切るまでもなく、両親からの心配という名のもとにお説教? 愚痴? なんと表現してよいのかわからない攻勢を受けている。
いや、攻勢は正しくないだろう。
私は今まで隠蔽、いや心配をさせたくなくて内緒にしていた諸々が白日のもとにさらされ、その真偽について確認されているのだ。
自分の目算が甘かったことを再認識させられている。この事は予想していなかった。正確には予想はしていたが、私から切り出されるまで話題に上がることはないと考えていたのだ。
甘かった。ケーキのように考えが甘かった。
そして正直に、この予想外の展開に困っている。婚約話を匂わされ殿下とのことを聞かれる予想はしていたが、ここに来て横領問題や離宮のこと、料理についてや農家のいちご問題について確認されるとは思っていなかった。私の感覚では遠い昔の出来事で、話を蒸し返されたような気分になっているが、親側から見ると初めて聞いたフレッシュな話なので昔話ではないのだろう。
誰から聞いたんだ? と言いたいが情報源は一つしかない。間違いなく陛下だ。なに余計なことを言ってくれてんだ。ふざけるな。と声を大にして言いたいが、黙っていて後からバレると面倒なので先に話したのだろう。それを予想していなかった私のほうが問題だ。
私は冷や汗が背筋を流れるのを感じる。陛下や隊長さん、筆頭たちには【子供の頃に知っていた】という事にしてある。が、実際は違うのだ。子供の頃から知っている? それは違うよね? ということは勿論両親が知っている。陛下は子供の頃から知っていて、云々とか話してないよね? そうなると辻褄が合わなくなってしまう。この口ぶりからは聞いていないようだけど。どうやって誤魔化そう。
今までのつけが回って来た感じだ。
「二の姫。陛下から話を聞いたが、料理をして皆さんをもてなしていたとか」
「それに農家の方に支援をしたということだけど?」
両親はどういうことなのかと問い詰めてくる。これで終わりのはずはない。
「搾取されていたとか。どうして」
母はそのまま黙ってしまった。言いたいことは色々あるのだろうけど、最後はそこに行き着くらしい。
横領問題に気が付かなかった事を申し訳なく思っているのかもしれない。
「お母さま。申し訳ありません」
「二の姫が謝罪する事ではないわ。親であるわたくしたちが悪かったのよ」
今日の母は謝ってばかりだ。謝らせたいわけではないのに。その思いを言葉に乗せる。
「お母さま。お父様も。知らない事はどうにもなりません。わたくしがお知らせしていなかったのです。分からなくても無理はないと思っています。心配してほしくありませんでしたし。この国に来た時から、名目はともかく実情は違うと思っていました。だからこそ、その扱いを当然だと思っていたのです。気にしていなかったので。だからお知らせするほどのことではないと思っていました。それにそれほど悪くはなかったですよ」
最後は冗談めかして軽く言う。気にするほどの事ではないと感じてもらえたらいいのだけど。
「二の姫」
「そうだったのか。何も知らずに慌ただしく旅立ったから」
私の思いと裏腹に両親は軽くは捉えてくれなかったらしい。そして、そうか、私の考えは常識ではなかったらしい。ここでの体験はそんなものなのだろうと、気にしていなかったけど。思い込みって怖い。
私は自分の勘違いを反省しつつ、今度は終わった事だと告げる。覆水盆に返らず。終わった事は覆らない。今更何を言っても変わらないのだ。それよりも建設的な話をした方がいいと思っている。
その思いのままに話を切り返したのだが、父たちは陛下から予想もしていなかった横領話を聞かされ、その席で無表情になってしまったそうだ。驚きすぎて表情を隠すことはできなかったと。
交渉中に表情がバレるなどと、あってはならないことだ。交渉ができなくなってしまう。そして両親がそんな失敗をするなんて初めて聞いた。その話からも両親の衝撃がわかろうというもの。私の話が原因で、その失態が周辺諸国に知れ渡れば両親の信用は下がってしまうだろう。
私の行動で申し訳ないの言葉しか出てこない。両親は私に謝罪してきたが私のほうが謝るのが筋というものだろう。その気持ちのままに謝罪をしていた。
「申し訳ありません。私が原因でそんな事になってしまうなんて。なんとお詫びをすればよいのか」
「二の姫が気にすることではない。それは私達の問題だ。そのことは良いのだが、横領の話も二の姫がしてきたことも事実なのだな? その事のほうが気にかかる。その件でどなたかに迷惑をかけたりしていないのか?」
「それに、横領問題は片付いたと陛下は言われていたけど。間違いないのね?」
「お母様」
両親の話は息をつく暇もない。
母は私の環境について言及していた。やはり娘の現状は気になるのか、心配かけてばかりで申し訳ない。
正直に言えば、ここまで心配されるとは思ってもいなかった。手放した娘だ。気にかけるだろうけど、ここまで気にするとは思ってもいなかった。申し訳ない。私は、今日、この言葉を何回口にすることになるのだろうか。こんなつもりではなかったのに。
行き当たりばったりの行動のツケが回ってきた気がする。
私は自分の行動を密かに反省していた。
だが、その時の事をもう一度考える。反省はするが同じ状況になったのなら、私は同じ選択をするだろうと思う。両親や周囲に迷惑や心配をかけるのは本意ではないけれど、眼の前に困っている人がいて、自分にできることがあるのなら、それを行動に移さない選択肢はないと思っている。差し伸べられる手があれば差し伸べるのが大人というものだ。私はそう思っている。人によっては、これをおせっかいというのだろう。でも、それでいいのだ。情は人の為ならず。私の信条はいくつもあるが、その一つでもある。それに従うだけなのだ。
だが、迷惑と心配をかけて申し訳ない。その気持ちにも嘘はない。
これから、どうすればいいのだろうか?





