娘との再会
「お父様、お母様。お久しぶりです」
「二の姫。元気にしていたか? 手紙ではそう書いてあったが。会えて良かった」
「会えてよかったわ。心配していたの」
「お母様。お元気そうで嬉しいです」
私は本当に久しぶりに両親に会っている。
場所は離宮の客間だ。両親に会うのに客間なのか? と思わなくもないが、そこに設定されてしまったので仕方がない。
そして、あまりに久しぶりに会う両親に、こんな感じだったっけ? と思っている私がいる。忘れていないつもりでも、何年も会っていないと違和感が出るものだと実感していた。その実感が勝りすぎて感動の再会に浸れないでいると母親は私の顔をマジマジとのぞき込んでくる。感動の再会、というにはあっさりしていると感じているのだろうか? 両親も戸惑っているのかもしれない。
これもお互い様というのだろうか?
挨拶はしたものの、どう話せばいいのか、なにから切り出したものか私は困惑していた。そのせいか愚にもつかないことを考えている。両親も話を切り出さないので同じだと思っていたら違ったようだ。
母は唇を噛み締めながら私を見て、両手で私の頬を挟み瞳をのぞき込んでくる。その視線には熱が籠もっているようで逸らすことはできなかった。
どうしたのだろうか? 母親からこんな熱視線を送られる覚えはないのだが。
「お母様?」
「二の姫。あなたには申し訳のないことをしてしまって」
言葉を詰まらせながら、母から突然の謝罪だった。急にどうした? と思ったが、この内容から察するに私を一人で長期間人質にしてしまった事への謝罪だろう。
母は微動だにせず、ポロポロ泣き出してしまった。その涙に私の方が狼狽えギョッとする。
まさか、泣かれるとは思っていなかった。
今回の訪問で私を一人にしてしまった事を実感したのだろうか? 私としては自分から言い出したことなので謝罪は不要なのだが。親としてはそうも言っていられない心境なのだろうか?
さっきから憶測しか出てこないが、親との関係性が出来上がる前に、こちらに来たので両親の考え方がよくわかっていないのだ。その事実に今さっき気がついてしまった。
家族と言っても日頃の関係性は大事なのだと痛感している。
「お母様、そんな事をおっしゃらないで。私が行きたくてしたことです。自分で決めたことなので。気になさらないでください」
「二の姫」
母は静かに涙を零しながら私の頬を慈しむように撫でる。私の存在を確認するかのようだった。こうなると次の行動は想像できる。頬をなでている手は背中に回るのだろう。想像できるのだが久しぶりに会うためか、元は日本人だからなのかスキンシップに戸惑ってしまう。それと勝手が違うと感じている両方の理由で、どうすればよいのかわからない。
為すすべなく立ち尽くしてしまったのだが、母はそんな事も構わずに私を抱きしめる。
想像できた行動なのだが反応はできなかった。
「二の姫」
「お母様。わたくしは大丈夫です。心配なさらないでください」
母はしっかりと私を抱きしめて離さなかった。ぎこちなく母を抱きしめ返しながら、この先をどうするか考えていた。母は私の存在を確認するかのように抱きしめたまま離すことはない。
正直にどうしよう?
母の気持ちはわかるが、このままでは埒が明かない。話が進まないのだ。
久しぶりの再会が嬉しくないわけではないが、それよりも気にかかることがある。
私よりも先に陛下に会ったのだと聞いている。何を言われたのだろうか? まさか、初日に会う早々、婚約話を持ちかけられたとは思いたくない。私からの根回しも済んでいないのだ。何を話したのか気にかかる。情報がほしい。そんな事を考えていたら、この再会に父も絡んできた
「二の姫。今までありがとう。苦労をかけたな」
「お父様」
父はそういったかと思うと母ごと抱きしめる。外から見たら感動の再会かもしれないが、私は別件が気になりすぎて喜べなかった。
誰かどうにかしてほしい。
私から話があると切り出すわけにもいかないし。
誰かに助けを求めたいがそうするわけにもいかず、私は両親に抱きしめられたまま立ち尽くしてしまった。





