対策
どんなに嘆いても、どんなに悪態をついても明けない夜はない。必ず朝は来る。
それは誰にとっても平等で。それは勿論私にも適用される。
陛下の爆弾発言の翌日、私は重々しい気分で朝を迎えた。その理由は陛下への、というか自分の親への対策が立てられなかったからだ。
ここは自分への反省が必要だ。陛下への愚痴が止まらず、思考が内向きになって【対策を立てないといけない】ということに思考が向かなかったのだ。
コレを反省と言わずしてなんというのか。
私は覚醒しているのに何度も寝返りをうちゴソゴソとしながら、ベッドから起き上がる事もせずにウダウダしていた。
ウダウダしていても時間は確実に過ぎていて、筆頭が寝室へと入って来た。
「おはようございます」
「おはよう」
筆頭の挨拶とともに私も支度を始めようと起き上がる。ウダウダしていても仕方がないので諦めたとも言う。そんな冴えない気持ちの私を察したのか、目の下に隈でもできていたのか筆頭の眉間が寄っていた。
「姫様、昨夜はお休みになれませんでしたか? 陛下とのお話で何か?」
「ええ。ちょっと気になることがあってね。眠れなかったの」
「それはいけません。今日は学校はお休みになりますか?」
筆頭からの思いもよらない提案にびっくりする。睡眠不足で学校を休むなんて思いもよらなかった。
休んじゃう? ちょっと邪な思いが湧き上がる。正直学校に行く気分じゃない。陛下の思惑、宰相の寝返り、そして両親への対応をどうするか。その事が気にかかる。学校に行ったって勉強どころじゃないと思う。
休んじゃうか?
そして宰相に陛下の考えを聞くのもいいと思う。
それに陛下と話をしていた時、隊長さんは部屋の外に出されていなかったし、筆頭は離宮にいて不在だった。二人はあの話を事前に聞いていて知っているのだろうか? 知っていたら陛下の考えも聞くことができるかもしれないし、二人の考えも知っておきたい。
何かをしてもらう気はないけど考えそのものは知っておく必要がある。
二人はこの国の人間だ。私の行動一つで迷惑をかける可能性がある事を頭に入れておく必要があると思っている。
私は予定を思いつくと休みたい気分になった。
よし、休もう。せっかく筆頭から言い出されたのに休まないなんてもったいない。
私は駄目な社会人丸出しの考えで休むことを決定した。
今の私は社会人ではないのだ。休んだって許される。
普段は優等生を決め込んでいるし、今日休んだぐらいサボりなんて思われるはずもない。
私はサボりを決めると、心のなかで自分への言い訳を行いつつ筆頭に休むことを伝える。
学校をサボるのは前の人生を含めて初めてのことだ。だが、今日のサボりは許して欲しいと思う。なにせ私の人生が、今後のスローライフがかかっているのだ。
「おはようございます」
部屋を出ると今度は隊長さんの挨拶を受け、それに返しつつも宰相への面会の申込みをお願いをしておく。依頼を受けた隊長さんは意外な顔になった。
その様子からすると隊長さんは陛下との話を知らないようだ。私の依頼を聞いていた筆頭も不安そうな表情。
この様子から二人は何も知らないのだろう、確定だ。
考えてみればあの陛下が宰相以外に相談するとも思えない。
二人には陛下の提案を話しておいたほうが良さそうだ。情報共有は大事です。
「二人共、その様子から見ると陛下からの話は知らないのかしら?」
「陛下が何か?」
「いいえ。何も伺ってはいません」
二人は同時に否定する。私の思い違いではなかったようだ。
「そうみたいね。昨日の陛下の話は、簡単に言うと私の誕生日に両親を招いてくださるというの」
「それはよろしゅうございました。姫様もご両親様もお久しぶりにお会いできるなんて、喜ばしいことです」
筆頭は満面の笑みで、即答で良かったという。気持ちが優しい彼女は陛下の行動に何かあるとは思わないのだろう。100%善意で動いていると思っているのかもしれない。善意がないわけではないのだろうけど。100%善意という事もないだろう。そこまで優しい陛下ではないはずだ。そしてそれを信じられるほど私も善人ではない。裏があると勘ぐってしまう。それは仕方ないことだと思っている。
隊長さんの方は私と同じ考えのようだ。眉間に眉が寄っている。
「姫様。陛下はご両親をお招きするとしか言われなかったのですか? 他には?」
「いいえ。何も。その場には宰相閣下も同席していたわ。反対もしなかった。二人共笑顔でお招きしたいと言っていたわ」
「姫様はどのような?」
「隊長様?」
隊長さんが私の考えを確認しようとすると筆頭が何言っちゃってんの? みたいな意外な表情となる。両親が来るのに喜ばないなんて? 拒否するの? 家族と会うチャンスを逃すなんてありえない、と思っているのだろう。
そう考えると筆頭の家族は仲がいいのかもしれない。ご夫君との関係性も良好のようだし。筆頭の家庭環境を思いながら、私としては、わざわざここまで来る必要はないことを明言しておく。
「私としては来て貰う必要はないと思っているわ。ここまで来るのにも時間も手間も費用も馬鹿にはならないし。何より両親は小さいと言えど国政を担っているのよ。それを私のためにわざわざ遠い国まで来る必要はないと思っているわ」
「姫様。そうはおっしゃいますが、こちらに来られてから随分時間もたっております。ご両親様もご心配かと。娘の様子を見たいと思うのは当然かと思います」
「そうね。言う意味は理解できるのだけどね。責任ある立場であることも理解できる以上感情だけで話はできないわ」
筆頭の親としての立場は理解できるし言う意味も理解できるけど、ソレだけで片付けてよい話ではない。
一瞬、私が一度帰国すればいいんじゃね? と思ったけど宰相の言葉から帰国できないことを思い出す。【帰せない】と言われたばかりだった。
私が思い悩んでいると隊長さんが建設的な意見をくれる。
「姫様としてはご両親に迷惑をかけたくないと思っていらっしゃるわけですね?」
「そう。そうなのよ。来るだけでも大変なのに招かれている以上それなりの支度も必要でしょう? そうなるといらぬ出費も出てくるし予定外の出費ってね、大変じゃない? 小さい国だと余計にね」
隊長さんの迷惑をかけたくない発言に私は全力でのっかった。筆頭の手前、全面的に両親を心配していますアピールをしておく事にしたのだ。善良な母親としての、優しい心配をしてくれるこの人に後ろ暗い事を話しにくかった、という思いもある。
筆頭は私の発言をどう思ったのかはわからないけど、ソレ以上の言及は避けた。国政を預かる側の発言と費用の面を心配していると聞けば、軽々しい発言はできないと思ったのだろう。
隊長さんは宰相の方へ面会を入れてくれると言うのでお願いしておく。
「急なことだけど大丈夫かしら?」
「問題ありません。本来なら姫様は自分を優先しろと言えるお立場ですから。予定を合わせると言うだけでも十分なお心使いです」
「そうかしら?」
「はい」
どうやら私が気にすることはないらしい。
どうやらボス戦再び、となりそうだ。
勝てないまでも引き分けに持ち込みたいところだ。





