人質生活から始まるスローライフ 久々のピンチ到来 おまけ付
いつも読んでいただいて、ありがとうございます。
今回は流れの関係で短くなってしまいました。
ですので、おまけをつけています。
ときどき、見習い君は? みたいなコメントを頂きますので
少しだけ見習い君の心境を覗いて頂けたらと思います。
よろしくお願いいたします。
「姫。今年のプレゼントなんだが、私としては良い事を思いついてな。今年はそれにしようと思っている」
陛下のいい笑顔は揺るがない。私へ何かをアピールしているのだろうか?
「いい事? でございますか?」
陛下の前に座っていた私はこの言葉に首を傾げるしかなかった。陛下は【いい物】とは言わず
【いい事】と言った。ということは物ではなく、事象である、ということだ。だが【私にいい事】と言われるほどの事象がもたらされる事が思いつかない。
なんだろう? 物ではなく事柄? となると。旅行とか? 一日お出かけ? とか。他にはなんだろう?
物だったら何となく思いつく物品はあるけど、まさか誕生パーティーを開くとか? 人質相手にそんな面倒なことはしないか。
私は頭の中で思いつくことを検討しては端から否定していた。それくらい思いつかないのだ。ここは一人で思い悩むくらいなら面倒くさいから直接聞いてしまおう。
「陛下。いい事? とは? 申しわけありません。わたくしでは思いつかないようです」
「そうか、姫でも思いつかないか。いいことを思いついたようで私としては嬉しくなるな」
陛下はニッコニコだ。相当自信があるらしい。陛下の顔を不敬にならない程度に眺めつつ返事を待っていた私は、意外すぎる言葉を聞いて固まるしかなかった。
「姫。今度の誕生日にはご両親をお招きしようと思っている」
「え?? 両親、ですか?」
「そうだ。姫もこの国に来て長いだろう? そろそろご両親に会いたいのではないかと思ってな」
「いえ。大丈夫です」
思わず失礼な聞き返しをしてしまったくらいである。
私は思わず日本人的な返答していた。これが通じるはずもないが他に返答のしようもない。
第一私の国からここまではそこそこ離れている。移動時間だけでも半月はかかるはずだ。それに曲がりなりにも私の父は国政を預かっている身、久しぶりに娘に会ってはどうか? と言われて【はいそうですか、ありがとうございます】と来れるはずもない。数年ぶりに会うのを久しぶりと称するかどうかは個人の感覚だとして、私にとっては久しぶりと言う感覚だ。それに呼ぶとして、仮に母一人ならまだしも両親ということは父母ともに呼ぶつもりということになる。
簡単に来れないということを陛下も理解しているはずだ。それを押してまで、ということはなにか理由があるはずだ。わざわざ両親を呼ぶ理由はなんだろう。
理解できない。
私は一度も両親に会いたいと言ったことはないはずだ。寂しいとも、不安だとも言ったことはない。帰りたいと誰かに愚痴ったこともない。
体はともかく、精神的に両親を必要としていなかったのだから。
理由が思い付かないのなら改めて聞いてみよう。
「陛下、わたくしの両親を招くとは、どういう事でしょう?」
「どうとは?」
私の質問に陛下は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべなから質問で返してきた。しかも嬉しそうにしている。意趣返しができると思っているのだろうか? そんな事を思われるいわれはないのだが。
私の困った様子にも動じる気配のない陛下は笑みを絶やさない。
横に控えている宰相も笑顔を浮かべている。この人の笑顔を見る機会が少ないので、なんとなく居心地が悪い。宰相も両親を呼ぶことに賛成しているのだろうか? 二人してなにか企んでいる?
笑顔の二人がわからない。
私はこの件については真意不明で困惑している、というのが正しい表現なのかもしれない。
ここは正攻法でもう一度聞いてみよう。そして正直に断ろう。無理して来てもらう必要はないと。
おまけ 見習い君の様子
「この荷物を運んで頂戴」
「はい」
僕は侍女さんに指示された荷物を持ち上げる。ちょっと重いけど頑張れば運べるくらいの重さだった。
僕がこの離宮に移動になってから季節が2つくらい進んでいる。
姫様に害をなそうとした僕だ。離宮の人たちから嫌な顔をされると思っていたし、その覚悟もしていた。料理長様からも覚悟をして、そのつもりでいるようにとも言われていたし今度は姫様からかばってもらえることはないという事も、何度も言い含められていた。
それに今度は助けてもらえない事は僕も当然だと思ってる。
僕のしたことをなかったことにしてくれただけでなく、厨房全体をかばってくれたのは姫様で。僕がしたことに一番嫌な思いをしたのも姫様で。もう、なんて言って良いのかわからないくらい姫様に助けてもらったことになる。
離宮に来たら、どんなに辛い仕事でも、誰に何を言われても頑張ろうと思っていた。でも。驚くくらい何もなくて、僕がしたことも何も言われなくて、逆に僕がびっくりするくらいだ。
どうしてこんなにしてもらえるかわからなかった。誰に聞けば良いのかもわからないし。
そんなある日、悩んでいたら護衛騎士さんたちの話が聞こえてきた。盗み聞きはいけないし、こっそりその場を離れればよかったのに、話していることが気になって動くことができなかった。
話の中身は僕のことだったんだ。
騎士さんたちは、僕が離宮に来たことに納得いかない、みたいなことを話していた。その内容は当然のことだから驚きはしない。僕が驚いたのはその次の内容だった。
「そう言うな。気持ちはわかるけど姫様が決められたことだ。理由があるのだろう。それに言われているだろう?」
「分かってる。見習いに変なことを言うなって言うんだろう? 分かってるよ。でも、姫様にしたことを思うとな」
「姫様が良いって言っているんだ。俺たちがとやかく言うことじゃないだろう?」
二人の騎士さんたちが話していることは僕のことで、怒っている騎士さんをもう一人の人がなだめていた。
その内容に僕は一番驚いた。姫様が僕をかばってくれていたんだ。知らなかった。
僕がしたことを皆知っているのに何も言わなかったのは姫様のおかげだったんだ。
どうして姫様はここまでしてくれたんだろう?
聞きたいけど、僕が姫様に会えることはないから聞くこともできないし。それに僕の身分では姫様に会えるはずもない。
姫様は気さくな方で身分で人を区別する方ではないって、聞いていて。管理番様や商人の方とも気さくに過ごされるって。だけど離宮に来たときに筆頭様からきつく言われていた。
姫様の決定だから離宮で働くことは構わないが、姫様にお会いすることはないって、僕は当たり前のことだから頷くしかなかった。
本当はお礼だけでも言いたかったけど、悪い事をした僕みたいな立場では会えるはずもないし、そんな事を言い出す雰囲気でもなくて僕は口をつぐむしかなかった。
筆頭様は他の侍女さんたちと同じ様に怒りもしなくて仕事だから、って感じだった。こんな感じをなんていうのか僕は知らないけど、何を言っても聞いてもらえないっていうのはわかった。
ここでの僕の仕事は食材を運んだり、キッチンの床掃除とか食材の下ごしらえとか、そんな感じ。僕が別な場所で下ごしらえしたものを侍女さんが姫様のキッチンへ運ぶようになっている。
僕が一人でキッチンに入れないし、食材の下ごしらえをするときも一人ですることはなかった、直接見張られるわけではないけど、別の人と一緒に仕事をするようになっている。
その人は離宮内で使うお茶の葉やお皿を管理する人で、姫様とは別の方面で食材を管理してる人だ。僕はその人の部下? みたいな形になっている。他の仕事はその都度言いつけられるみたいな感じだ。
誰も僕に意地悪をしないけど、話もしない。でも返事はちゃんとしてくれるし、無視されることはない。意地悪もされない。
僕のしたことを考えると有難い環境なんだと思う。
僕はできることは少ない。姫様に迷惑をかけないこと。頼まれた仕事を何でもして、他は掃除なんかはすごくきれいにしようとか、そんなことしか思い浮かばなかった。
荷物を運びながら、厨房の先輩たちと僕を助けてくれた姫様に、少しでもほんのちょっとでも何かを返せることを思い付けたらいいな、って思ってる。





