陛下と宰相閣下
いつも読んでいただいてありがとうございます。
皆さんも予想されていると思いますが、まあ、こうなるよね。
と言う感じです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
いつもの昼下がり、国の責務を一身に担っている二人の男性が仕事に励んでいた。
普段は淡々と仕事をしているのだが、進言したいことがあるようで部下が主君に質問を投げかける。
「陛下、姫様のことはどうなさるおつもりですか?」
「突然だな、どうした? 珍しい」
宰相が陛下に姫様の今後を尋ねていた。
姫様について陛下から言い出すことはあっても、宰相から話題に出すことは珍しかった。そのいきなりの質問に陛下もいささか驚いている。なにか企んでいるのではないかと疑ってしまうほどだ。その考えは一部は正しくて、一部は間違っていた。
今の宰相閣下は、姫様に関して考えを大きく方向修正をしており今後の方向性を陛下とすり合わせたい、との思いから出てきた質問だった。
「いえ、もうすぐ姫様のお誕生日です。今年はプレゼントや予定など、どうなさるおつもりかと思いまして」
「面倒なやつだな。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ? その様子だとなにか考えがあるのだろう?」
陛下は言葉遊びをするつもりはなく宰相が直接的なもの言いをしないので、しびれを切らしたようだ。言いたいことがあるならハッキリ言えと答えを欲しがってしまっていた。
宰相も焦らすつもりはないのか正直に考えを口にする。
「姫様がこちらに来られてから随分経ちますが、ご両親にお会いしていません。姫様に帰国していただくわけにはいきませんので、ご両親をこちらにお招きしてはいかがかと。久しぶりに会っていただくのはどうでしょうか? 良いのではないかと思うのですが?」
「何を考えている?」
陛下は眉間に皴を寄せながら宰相の真意を引き出そうとしていた。本気で姫を案じているのか、それとも何か考えがあるのか。
宰相の言葉から陛下は2つの相反する考えを想像するしかなかった。
宰相の提案は姫様を案じているような話し方だが、その限りではないだろう。だが、その先にある考えがあるはずで、姫を気にいらない派閥の急先鋒は宰相なのだから。
陛下は椅子に身体を預け本格的に話をする体勢に入った。片手間に話すような内容ではないと思えたからだ。
「理由はなんだ? 姫の事に関して、お前が理由もなくそんな事を言い出すなんて考えにくいんだが?」
「先日殿下とお話をする機会がございました。お話をさせて頂いて殿下は随分と変わられたと実感いたしております。自分にできることは何なのか、国民に国に貢献するということは何なのか。自分なりに考え答えを出そうとされていました。なにより驚いたのは自分で考えたことに拘らなかった事です。今までの殿下では考えられなかった事です」
「どのような問題について話したのだ?」
「きっかけは令嬢の問題提起からだそうです。農民の子どもたちが寒さで風邪を引くことを心配している親がいる、という事でした。そのような家庭をなくしたい。良い方法はないかとの話し合いだったようです。その過程で殿下は自分にできることを探され、自分なりの答えを出されていました。もちろん、全てが良い提案だけではありませんでしたが、それでも大きな進歩かと」
「以前に姫と話して随分と変わったと聞いていたがそこまでか? そんなに急に変われるだろうか?」
「私も初めはそのように思いました。ですが、殿下の成長は確実のようです。それに今回も姫様が大きく関わっているようでした。殿下の話では直接話し合いに関わることはなかったようですが、要所要所で助言をされていたようです。殿下や令嬢もそれを受けて考えを深めたようでした。もちろん、すぐに答えが出るものではありません。だからこそ、殿下は自ら私のところに来られ、聞きたいことがあると相談を受けました。その上で思慮不足な部分を教えて欲しいと言われたのです。その内容や考えにも未熟な部分は多くありましたが、それでも目を瞠るものがありました」
「そうか。随分といや、まだまだだろうが、それでも成長したな。だからか、姫の両親を招こうと思ったのか?」
「はい。殿下自身の素養や今までの蓄積もあるのでしょうが、それでも姫様の存在がなければここまでの変化は望めなかったかと。それに護衛たちの話でも、話し合いのとき姫様はじっと様子を見守り話し合いを促し、いき詰まる考えを導くようにいくつかの提案だけを行っていたということでした。考える力を伸ばそうとしているようだったとの報告です」
「そうか。それは素晴らしい手法だな」
「はい。教師でもあり見守り役でもあるようです」
「いいのか? 姫の後ろ盾が危ういことを気にしていたが?」
陛下としては宰相の心変わりは嬉しいが、心配の種は減らしておきたいという思いもあり、宰相が気を揉んでいた事を確認していた。宰相が姫様の事に関して反対していたのは後ろ盾が少なく立場が弱い事を気にしての事だった。
宰相はその問に答えを用意していたのか、流れるように考えを述べていた。
「はい。それについては気になることではあります。できればもう少し、と思う事もありますが、なんとかなるのではないかと。今のまま交友が続くのであれば、隊長がいずれ当主となる公爵家、それに侯爵家が2家。その令嬢たちが嫁げばその家も姫様の交友関係となるでしょう。伯爵家の次男もおります。それに城下の商会の会長である、商人もいます。商人の店の者たちも姫様には好意的だとか。城下の支持がある点は大きいかと思っております。そういう意味では姫様の後ろ盾は大きいものかと」
「そうだな、直接的な後ろ盾は隊長だけだが、それに付随する形で交友関係が広まれば姫の立場は安泰だろう」
陛下は宰相の肯定的な言葉をとらえ追随する。
宰相は陛下の用意されていたような口調に、もしやと思わずにはいられなかった。
「陛下。まさかとは思いますが、そこまで考えて学校への入学を許可されたのですか?」
「いや、ここまでは考えていなかった。姫の行動がどうなるか気にしてはいたがな。それに息子の件は良い意味で大きな誤算だったな。あれにここまで大きな影響を与えるとは思ってもいなかった」
陛下は宰相の言葉を否定するがそれは届かなかったようだ。宰相の中では陛下が計算づくで行動したことに変換され小さな齟齬が生まれていた。
陛下は陛下で宰相が考えを改めたことに驚いていたが、姫を逃がすのは国にとって損失と判断した事、自分と考えを同じくしてくれたことはありがたい心変わりだと考えていた。
今度の【誕生日プレゼント】という名目で姫の両親を招き、さっさと婚約させてしまえと言いたいらしい。
陛下は宰相の心変わりに驚くしかなかったが、宰相が味方についてくれたのならこっちのものだ。
宰相の言う通り、姫の両親を招いて婚約させてしまおう。
陛下は宰相の提案を承認した。





