お正月用 小話 お芋さんきんとん
明けましておめでとうございます。
お正月なので、小話を書いてみました。
これは本編とは関係ないお話です。
時期も全く関係ないお話です。
季節ものの小話だと思って楽しんで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
「栗きんとんが食べたい」
私は突然そう思った。もう少ししたらお正月ということで思い立った。お正月は3日後だ。お正月なら、栗きんとんだよね。
ということで、私は栗きんとんを作ろうと思った。以前から栗きんとんが大好きで毎年作っていた、だからこそ食べたいと思ってしまったのだ。今ならお芋さんがあるのだ。作るのは簡単だ。と思ったが大事なことに気がついた。
栗がない、栗に似た物も見つけていないのだ。正確に言うと新しい食品は商人がいつも見つけてくれるのだが、栗っぽいものは今まだに見つかっていないのだ。
どうするか?
諦める? 諦めない? 私は迷った。迷った、が諦められない私は試行錯誤で作成することにした。
栗きんとんもどきを作ろう。
諦められないなら作るしかない、というわけで栗の代用品を考える。
大きな問題として私の作る料理はいわゆる家庭料理だ。しかも抜けるところは手を抜く派の家庭料理だ。当然、以前作っていた栗きんとんもネットのレシピを参考に作っていたお手軽栗きんとんだ。
今、この時点で作ろうと思うと材料がなく大変なことになる、栗の甘露煮も売っていないし、そもそも栗がない。
どうしよう。
私は真剣に考える。
今は新年を迎える3日前だ。そんな頃から作る方法を真剣に考えているので筆頭が心配するほどだ。
心配してもらっているのに栗きんとんをどうやって作ろうか考えている、なんて正直に言えず「なんでもないの」というしかなかった。
筆頭もそんなことで悩んでいる、と言われても困ってしまうと思うし、これ以上心配をかけたくなかったので、早めに栗きんとんもどきを作ってしまおう。私はそう結論をだし筆頭に心配をかけないように、本格的に調理方法を考えることにした。
その夜、私はベッドに潜り込むと以前見ていたネットレシピを思い出す。栗きんとんの作り方か似たようなレシピはなかっただろうか? と考えていたら2種類思い出した。
一つはお芋さんだけで作る栗きんとんもどき、もう一つはりんごで作る栗きんとんもどきだ。
思い出した私は細かいところも思い出すようにしたが、思い出せなかった。ネットでなんとなく見ていただけなので、材料や分量は思い出せなかったのだ。
細かい部分が思い出せなくて困ったが、思い出せないなら仕方がない。自分なりに作ろうと決めた。どうせ食べるのは私なのだ。失敗しても誰も困らない。
私は明日から栗きんとんもどきの試作に入ることにした。
今日の私はキッチンに一人だ。
いつもなら隊長さんがついてくれるのだが、今日は試作なので外に出てもらっている。隊長さんは渋ったが試作なので諦めてもらった。試作なので失敗する可能性が高いのだ。なるべくなら人には見られたくないな、って思っている。
今日の予定はお芋さんだけで作る栗きんとんもどきだ。多く作ると失敗したときに食べるのが大変なので、大きめのお芋さん1本で作ることにした。
お芋さんを乱切りにして蒸していく、蒸した半分を裏ごしして、残した半分とざっくりと合わせる。
そしてはちみつで甘みを足していく。工程としては簡単だ。というかそれ以外に作る方法を思いつかなかったというのが正しい。
ほかに思いつかないので、取り敢えず作って試してみることにしたのだ。
「これでどうかな。大丈夫かな」
正直初めて作るものだ。なんとなく問題がないか気になりながら味見をする。
心配したが、これが意外に悪くない。
「あ、いいかも」
思っていたよりも食べやすかった。乱切りのお芋さんもほっこりしていたし、栗とはまた違う味わいがある。これは悪くない。
どうしようか。正直に言うと私は満足していた。それほどお芋さんもどきが意外に悪くなかったのだ。りんごのやつは作らなくても良いかも。
そんな事を考えていたらノックが聞こえる。
このノックの仕方は隊長さんだ。入室を促すと思った通り隊長さんが入ってきた。
「何かあったかしら?」
「いいえ、特に何もなかったのですが、長い時間お一人はどうかと思いまして。何を作られていたのですか?」
私のすぐそばに立ち手元をチラチラ見ている。気になるのだが素直に言えないようだ。
その行動に呆れたが隊長さんが本音を言えるように水を向けてみる事にした。
「隊長さん。素直に新作が気になって、味見がしたかった、って言ったらどうかな?」
「新作が気になりまして、味見をしてみたいです」
「素直ね」
私が待ちきれない隊長さんに向かって水を向けつつ若干嫌味っぽく言ったのだけど、隊長さんはそれをものともせず言われたとおりに繰り返していた。
よっぽど気になるらしい。私の手元を覗き込みつつ頭にクエスチョンマークを並べている。隊長さんには私が何を作っているかわからないらしい。無理もない。普段は料理をしないので出来上がった状態ではわからないだろう。材料も不明のようだ。お芋さん料理を作った時も裏ごしした料理は作っていないはずだ。
私は種明かしをすることにした。
「これはね。お芋さんよ」
「お芋さんですか? 全部ですか?」
「そうよ、今回の試作品はきんとんっていうの。お芋さんだけで作るか、お芋さんとりんごで作るか迷ってて。初めてだからお芋さんだけで作ってみたのよ」
「きんとんですか? 味見はされたんですか?」
「もちろんよ。まずまずのできだったわ。食べてみる?」
「ぜひ」
栗がないので栗きんとん、と言えなかった私はきんとん、とだけ説明した。きんとんと言われてもなんのことかわからないだろうけど、そこへの追求はなかった。
味の方が気になるようだ。
いつの間にか手にお皿を持っている。
味見に隊長さんが遠慮なんてするはずがなかったわ。私はお芋きんとんをお皿に盛りながら隊長さんへ渡す。ついでにお茶も淹れておいた。
お礼を言いながらも、嬉しそうにお芋さんきんとんを食べる隊長さんは幸せそうだった。
美味しいものを食べるときは何よりも幸せよね。隊長さんを見ながら私も心のなかで頷きつつ、感想を待つと隊長さんの感想はいつもと同じだった。ただ違うのはお皿を差し出されたことだ。ここに誰もいないからできる事だな、と思いながら念のために確認する。
「足りなかった?」
「はい」
キリッとしながらおかわりを要求する、本人に要求じゃない? と言うと「お願いです」というのだろうけど、婉曲な要求だよね、と思ってしまう。
だが、おかわりは美味しいと思っている証拠なので、私としても悪い気はしないから、おかわりをついでしまうのだ。
ただし、今日はお芋きんとんは試作品なので、量を作っていないから残りは半分こだ。
隊長さんはお皿を見て、ちょっとだけしょんぼりしながら次はいつ作るのか? と聞いてきた。要は心置きなく食べたいらしい。その意見には私も同意なので明日作る予定だと伝えておく。
それを聞いた隊長さんは商人のお店からお芋さんを買ってくると言ってきた。
「大丈夫よ。材料はあるんだから」
「いえ。私もご一緒させてください。作り方を覚えたいのです」
「隊長さん。そんなに気に入ったの?」
「おいしいので」
「まあ、それは間違いないわよね」
おいしい点には同意をしつつ、お芋きんとんは作るのも簡単なので覚えるのは悪くないかもしれない。
「じゃあ、一緒に作る?」
「ぜひ、お願いします」
どうやら、私のおいもきんとんは隊長さんと作ることになりそうだ。
隊長さんと作ったお芋きんとんの量が信じられないくらい多かったのは特筆しておきたいと思う。





