美味しいBBQの食べ方とは ③
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隊長さんと話している間におにぎりも焼けたので、焼きおにぎりを配ることにした。
「焼けましたよ〜 お皿を持ってきて」
「いいのか?」
「楽しみです」
「美味しそうですね」
殿下、令嬢、姪っ子ちゃんのコメントだ。ウッキウキでコンロの前に並ぶ。みんなここの流儀に慣れたのか、何も言わなくてもきちんと並んでくれる。ありがたいことだ。
並んでもらえたので、そのお皿におにぎりを乗せていく。
もらった生徒組は感想を言い合いながらおにぎりを半分にして冷ましている様子が見えた。熱いものを食べる事の危険性が定着したらしい。その中にはお嬢様もいる。
お嬢様はおにぎりを眺めている。興味津々のようだ。
「これが醤油とお米というものなのですね」
「とても美味しいんですよ」
「香りも香ばしく、美味しそうです」
令嬢がお嬢様に美味しさを語っていた。焼きおにぎりを作ったっけ? と思ったがおにぎりが美味しいと言いたいのだろう。
お嬢様は頷きを返しながら焼きおにぎりを2つにわり、その一つをもう一度割って、食べやすい大きさになった焼きおにぎりを一かけフォークに乗せると、軽く息を吹きかけ冷まし上品に食べ、顔を綻ばせる。
その表情は美味しさを表していた。感情がそのまま出てしまうタイプなのだろう。素直だな、と思ってしまう。スれていない感じで好ましいと思える。生粋のお嬢様なのだろうけど、どちらかと言えば姪っ子ちゃんに近いタイプだと思う。姪っ子ちゃんをおしとやかにした感じではないだろうか? 素直な人はお付きあいがしやすいのでありがたいと思う。できればこのままでいてほしい、なんて親戚のおばさんみたいなことを思ってしまった。
私がジッと見つめていたせいか、お嬢様が視線に気がついた。
「姫様?」
「なんでもないのよ。お口に合うかしら?」
「はい。とても美味しいです。おにぎりは初めてなので」
そう言ってニッコリ笑うお嬢様は同意見を姪っ子ちゃんへ求めている。
同じ年だけあって二人は打ち解けるのも早いようでクスクスと楽しそうに笑い合っていた。
令嬢もそんな二人を微笑ましく見ていたのだが、私が見ているのに気がついたのか令嬢がこちらへ寄ってくる。
「姫様、新しいことが経験できて嬉しく思っています。ありがとうございます」
「こちらこそ、畑仕事を手伝うことになるなんて思っていなかったでしょう。ありがとう」
「いいえ。姫様のお手伝いでなければ私が土を触ることはなかったでしょう。いい経験ができてよかったと思っています。わたくしは気になっていた事がありました。その一端に触れることができてよかったと思っています」
「気になっていたこと? そんなに気になることがあったのかしら?」
「はい。姫様。覚えていらっしゃいますか? 草の実のことです」
「いちご農家のことね。ジャムの」
「はい。わたくしは気になっていました。食べ物は毎日いただくものです。それなのに作っている人たちが冬に寒い思いをするなんて、おかしいと」
「令嬢」
あのいちご農家は令嬢の領地の人たちだった。自分の領地の人たちなのであのときも気にしていたが、今も気になっていたのだろうか?
令嬢は少しだけ声を落としながら続ける。
「それに、わたくしは農業は大変だと聞いてはいましたが、その大変さを理解することができませんでした。ですので少しでもいいから経験したいと思っていたのです。経験すれば、農家の方たちの大変さを理解できるのではないかと思ったのです」
「そうだったのね。それでどうだった?」
「わたくしが今日、経験したのは楽しいことだけでした。土を起こしたりと大変な部分は殿下や、次男さんたちが行ってくださったので。楽しいことだけを経験したはずなのに、これが毎日続いたりしたら続けていけるのか心配になりました。わたくしはそんなに仕事の大変さを経験していないのに、農家の方たちは休みがないとも聞きます。そんな大変な思いをしているのに、冬の心配をしないといけないなんて、納得がいかないといいますか」
令嬢はそれ以上は言葉にならない感じだった。自分の思いを言葉にできないのか、これ以上口にするわけにはいかないと思っているのか。
私は代弁するわけではないが令嬢の代わりに話してみる。
「そうね。令嬢の言うとおりだと思うわ。豊作なら豊作で量が多いと買い叩かれ、天候不良で作物が思うように育たなくて少ないと、量が少ないと文句を言われるのよ。それに税金もかかるわ。収入は不安定なのに税金は変わらない。その上仕事をバカにされるのよ。彼らがいなければ口にできるものはないのにね。誰でもできるというのよ。だったら自分でやってみたらいいと思ってしまうわ」
「理不尽です」
「私もそう思うわ」
「わたくしにできることは何でしょうか? 考えてもわからないのです。わたくしは侯爵令嬢です。人に敬われてはいますが、それは父の立場があってのものです。だからこそ、立場に恥ずかしくない人であろうと気にしていました。ですが、それだけでよいのかと思うようになりました。わたくしは何ができるのでしょうか? 彼らに報える人でありたいと思うのです」
「令嬢」
立派な考えだと思う。学生なのに人に寄り添うことができるのだ。思うだけなら誰でもできる。だが、そこから自分にできることを探そうとする姿勢は本気の現れじゃないだろうか? 立場が人を作る、というが令嬢もそうなのかもしれない。だが、ここで私が答えを出すのは違う気がする。
令嬢が自分の中で探して考えて決めることではないだろうか。私の考えを話せばそれは私の考えだ。令嬢のものではなくなってしまう。だが、何も言わずにすませればこの思いは育たないかも知れない。それはもったいない気もする。
私はよく考えて言葉を発する。注意して私の考えが混ざらないようしたい。
「令嬢は彼らに報いたいのよね?」
「はい。少なくとも生活に困らないと言いますか。寒くて子供が風邪をひくかも? なんて心配がない生活をしてほしいと思います」
「なるほど。そのためには何があればいい?」
「安定した収入、でしょうか?」
「そうなるためには?」
「作ったものが売れれば問題ないかと」
「さっきも言ったけど。天候が悪かったり作物が病気になれば売れないわね」
「作物が病気になることもあるのですか?」
「そうよ。それが原因で実ができなかったり、大きく育たない事もあるわ」
「知りませんでした」
「関わらないと知らないわね。さっきの質問に戻るけど、売るものがないときはどうするの?」
「病気は彼らのせいではないかと」
「でも、売り物がないのは事実だわ」
「はい」
「どうする?」
令嬢は考え込む。私が答えを出すわけには行かないので待つのみだ。令嬢は長考の構えだ。それは構わない。いい加減な答えでは意味がない。令嬢の考えが大事だから。
令嬢は途方に暮れたような表情で私を見返した。そして忌憚のない答えが帰ってくる。
「姫様。わたくしにはわかりません。どうすればいいのですか?」
「令嬢。私は答えを出すのは簡単だわ。自分で考えることに意味があるのよ? 自分なりにはどう思うの? 売り物がない時はどうすればいいと思ったの? 人の意見は関係ないわ。自分の答えが必要よ」
「わたくしは、天候は自己責任ではないので保証しても良いのではないかと思います」
「では、その意見に自信が持てなかったのはなぜ?」
「不公平だと思ったのです。商人のように商売をしている人たちに売るものがないのに、保証することはありません。農業を生業にしている人だけ保証をするのはずるい、と言う人もいるのではないかと思いました」
「公平の観点ね。大事なことだとも思うわ。人は不公平なことには敏感よ。自分が優遇されていないことには文句を言う人は多いと思うわ」
「平等であることは何事においても必要不可欠だと思っています」
「では天候不良や野菜の病気で作物が収穫できないことは彼らの責任かしら? 商品が売れなくて収益が上がらない、それは本人の責任でしょうけど天候不良は彼らの責任?」
「天気は誰の責任でもないと思います」
「では、どうする?」
「どうすれば」
令嬢は考え込む。私は答えを出せない代わりにヒントを出す。
「一人で決められないなら、相談したらどうかしら?」
令嬢はその言葉に周囲を見回し、殿下に視線を定めると心細く声を出す。
「殿下」
「令嬢?」
隊長さんと話していた殿下は令嬢の声かけにためらうことなく心配そうに返答する。令嬢の表情が麗しくないことに気がついたようだ。
「どうしたのだ? なにかあったのか? 姫?」
「令嬢は相談があるようです?」
令嬢の機嫌が麗しくないことの原因が私にあると思ったらしい。咎めるまではいかないが、何があったのだと視線で問うてくる。私に対して、いきなり咎めることを言わず確認してくるので、いろいろな方面で人に気を使うことは覚えたらしい。
「僕に?」
「そのようです。令嬢?」
俺じゃないんだ? と思いながら令嬢から相談があるのだと令嬢に説明を促す。令嬢としては相談する相手の選択肢が他にないからの殿下なのだろうけど、私としてはいいことだと思っている。
殿下は取り繕っているのか{僕}なんて言っているけど令嬢に違和感はないようだ。
令嬢は切り出しを迷っているようだが、それでも話をすることは止めなかった。
令嬢は私から答えを聞けなかったかわりに殿下から何かの答えがほしいのだと感じている。
殿下はどんな答えをだすのだろうか?





