美味しいBBQの食べ方とは ②
いつも読んで頂いてありがとうございます。
今回は少し短いです。
続きの部分をつなげると中途半端なるので分けました。
お付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
次男くんは私が思う以上に勢いよくかぶりついていた。
その食べ方では服が汚れるなあ、洗濯担当の方が困ると思うけど、なんて思っていたら次男くんは目をぱちくりと瞬かせていた。
その反応に私のほうが驚くと同時に、殿下が次男くんに話しかけていた。
苦手な野菜を食べると大変な事になる事例もある。大丈夫だろうか?
「どうした? 大丈夫か? 無理しなくてもいいんだぞ」
「でんか、おいしいです。あまいです。はじめてです」
次男くんはびっくりしたようにカタコトになって殿下に報告している。殿下はその反応に驚いたのか、楽しかったのか吹き出して笑い出していた。殿下の爆笑に困ったのは次男くんだ。
自分の反応がたどたどしい事に気がついたのだろう、顔を真っ赤にして反論していた。
「殿下、笑わないでください。でも、本当なんですよ。すごく甘いんです。匂いもしなくて青臭くないんです」
「いや、悪い悪い。すごく驚いているのがわかったから、笑って悪かったよ」
「いえ、自分でも思うので仕方がないです」
耳まで赤くしながら次男くんは下を向く。自分の行動が恥ずかしかったみたいだ。
でも、この年の男の子ならこんなもんじゃないかな? 嫌いな野菜が思ったより美味しかったなら、驚いて声を上げるのは無理はないと思う。それに頑張って食べたら美味しかったなんて食わず嫌いは良くないってわかってもらえたんじゃないかなあ。
私は一人でそんな感想をもっていたのだが、殿下と次男くんは後輩と先輩って感じで、その後もやいのやいのと騒いでいた。
二人は年相応でなんというか、お母さんポジションで思うのは可愛いなあ、だった。
だが、他の面子ではそうは思わないのか、令嬢も隊長さんも管理番もおまけにお嬢様までぽかんとしている。その様子に衝撃具合がわかろうというものだ。
こんな殿下は見たことがないんだろうな、私はそう思って隊長さんの方へ少し寄って聞いてみる。
「楽しそうな殿下って、珍しい感じ?」
「ええ。あまり見かけません。入学してからは尚更です」
「そうなのね。次男くんとも気が合いそうで良かったわ。楽しんでもらえているみたい」
「ええ。いいきっかけになってもらえるといいのですが」
隊長さんの方はお兄ちゃんポジなのだろう。
このままうまく行くといいなあ、という感じだった。
どちらにせよ殿下にいい刺激になったのは間違いなく、次男くんの方は殿下を頼れるお兄ちゃん、と思ったのかキラキラしたお目々で殿下と喋っていた。
正しい形の【先輩後輩】って感じだ。
一方、女子組も違う形で楽しんでもらえているみたいだ。私には入れない空気感のキャッキャうふふ、な感じなので遠くから見守ることにする。
私は管理番と穏やかに美味しくBBQを楽しもう。
しかし、高位貴族の中で姪っ子ちゃんは大丈夫かな? と心配したけど3人娘で楽しそうにしていた。お嬢様は若干恥ずかしそうにしながらもニコニコしている。これが演技でなければいいのだけど。
同じ侯爵家とはいえ令嬢のほうが歳上だし、お姉さんの友達なら嫌な顔もできないはずだ。
その点に関しては少し様子を見たほうがいいのかも知れない。
なんて遠巻きして全員を観察していると管理番が焼きおにぎりを心配していた。
「姫様。おにぎりはこのままでよろしいので?」
「いい感じで焼けてきたわね。このままタレを塗るわ」
「醤油味ですか? おにぎりには合いそうですね」
「そうなの。とっても合うのよ。美味しいの」
管理番に美味しさを語りながらタレを塗っていく。焼きおにぎりを焼いてると隊長さんも焼いている様子を眺めていた。
眺めながらも殿下の様子をチラチラと見ていて、気になって落ち着かない様子。落ち着かないなら殿下の方へ行っていいことを伝えたが断られてしまった。
ここから様子を見ていたい、ということだった。
近くにいすぎても良くないということなのだろう。
納得していたら隊長さんからこのBBQの件について確認があった。
なんて大層な事を言い出すのだろう。そんなことは一ミリも考えていない。だいたい私は文化を広めたことなんて一回もないはず、はず。
私は考え込んでしまう。自分を振り返るとみそと醤油ははからずも城下町に新しい習慣を根付かせた形になったのかも知れない。
そう思うと文化を広めたということはあるのか?
疑問符を持って考える。
だが、今回のことに関して言えば私はおもてなしとお礼のために今回のことを考えただけだ。そのへんの事を力いっぱい力説していたら、思いっ切り否定する形になってしまった。隊長さんは私の否定に驚くこともなく逆に納得しているようだった。
数回頷いた後、逆に私に提案してくる。
「では、姫様。これを騎士団で取り入れてもよろしいでしょうか? 団員には喜ばれる催しだと思うのですが」
「そうね。BBQはだれでも楽しいものだけど、特に男の人には喜ばれると思うわ」
私はタレを塗ったおにぎりの様子を観察しながら隊長さんへもう一つの提案をする。
「隊長さん。騎士団では演習とか模擬訓練とかもあるのよね? 演習は前も行ったことがあったし」
「はい。ございますが」
「だったらね。演習とか、模擬訓練とかの後にBBQをすると良いと思うわ。とくに団体戦の後とか」
「団体戦の後に行うとなにかあるのですか?」
「効果というか、気持ちの問題と言えばいいかしら。団体戦だと、どちらも勝とうと頑張るでしょう? 負けた方は仕方がないと思っていても、なんとなく悔しいし気持ちが残ってしまうでしょう?」
「それはありますね」
「だから、その後の反省会として一緒にBBQをするのよ。一緒に食事をしながら反省したり、お互いを褒めたりすれば気持ちが違うと思わない? 俗世間に言う、同じ釜の飯を食う、というやつね」
「浅学で申しわけありません。同じ釜の飯を食う、という言葉を知らないのですが。なんとなく同じものを食べるということでよろしいのですか?」
「そうよ。大まかな意味で言えば、一緒に作ったものを食べると仲間意識が生まれるということよ。だから、模擬戦や団体戦の後は仲良くなれると思うわ。わかっていても負けるのは悔しいから、そこをこいつ等なら負けても仕方がないな、って思えるようにするのよ。そうやって仲良くなれれば、仲間同士の絆はもっと固いものになると思うわ」
「確かに。それは重要ですね」
「でしょう。試してみることはいいことだと思うわ。BBQの道具は騎士さんたちにお願いして作ってもらったものだから、作るのはお願いできると思うの」
「それは問題ないかと。では騎士団の方で採用させて頂いても?」
「それはかまわないけど、隊長さんの独断で大丈夫なの? 誰かの許可を取らなくてもいいの?」
「はい。今回は大丈夫です。私の部隊内だけで行うので」
「護衛騎士さんたちの中だけでBBQをするなら大丈夫ね。だったらもう一つ作らなくても、ここを使ったら? ここだと場所が悪いかしら?」
「ご好意はありがたいのですが、さすがに、姫様のものを使わせていただくわけには。それと、隊員が気に入れば定着するかもしれませんので、場所を検討して設置したいと思います」
「分かったわ。隊長さんの都合もあるだろうし、おまかせするわ。それと材料はわかるかしら? 必要なものとか?」
「今日、見せていただいたので大まかなものは問題ないかと。ただ、タレの方だけは教えていただくことは可能でしょうか? 不躾だとは思うのですが」
「構わないわよ。作り方も教えるし、多めに作って渡すわね」
「よろしいので?」
「もちろんよ。みんなで楽しんでほしいわ。慰労にもなるだろうし」
「ありがたく」
「どういたしまして」
私と隊長さんは意見がまとまって良かったなと思うのと同時に、騎士さんたちにも気にいってもらえたら嬉しいなと思っていた。





