人質生活から始めるスローライフ 家庭菜園の始め方 3
私はBBQの説明をしていなかったので、知らないであろう全員に、外で炭火を使って肉を焼きながら食事をすることだと説明をする。
令嬢は察しが良いので、この場で食事をすることを理解したようだ。
「ここで、食事をするのですか?」
「そうよ。キャンプや、ピクニックだと思ってほしいわ」
「きゃんぷ? ぴくにっく?」
令嬢はおうむ返しに言葉を繰り返しながら周囲を見回している。
今日は晴天なので青空の下で食事をする予定だ、私の中では。
この反応ではキャンプやピクニックの習慣はないようだ。筆頭も外での食事は否定的だったし。気にしていなかったのは隊長さんだけだったと思う。騎士団の人だけあって外での食事に忌避感がないのかもしれない。
私は外での食事の楽しさを語ろうと思ったけど、経験にまさるものはなし、ということで早速実践することにした。
「令嬢。何事も経験よ。試してだめならやめればいいわ」
「姫様。外で食事とは、どのような?」
姪っ子ちゃんからも質問が飛んでくる、姪っ子ちゃんも不思議らしい。ということは町中の人でも、ピクニックはないようだ。
だが、外で食事はそのままの意味なので追加での説明は難しいと思ったので実践するしかない。
という事で、全員で食事を楽しもう。
私は用意の段階から全員を巻き込むことにした。
準備を始めた途端、一番に手伝ってくれたのは次男くんで、その次は姪っ子ちゃん、どちらも積極的だ。
バスケットに入れていたお皿やカトラリーを作業台に乗せてもらう。
「姫様。これは運べばよいのですか?」
「そうよ。レンガの台の方に置いてもらえるかしら?」
「承知しました」
「わたくしは、お皿を並べれば良いですか?」
「こちらも?」
「ええ、二つともお願いね」
お手伝いに関しては殿下も負けてはいなかった。
私がお願いする前に空気を読んだのか、自分から手を伸ばしてくれる。火付けと一緒でやる気を感じた。
「姫。このカトラリーは皿に乗せればいいのか?」
「そ、そうですね。お願いします」
そして、お願いしなくても手伝ってくれるので仕事を振ってみる。
「殿下、お皿とカトラリーを運んでいただいても?」
「敷布の上に持って行けばいいのだな」
殿下は嫌がる様子もなくお皿を運んでくれる。
殿下の様子を息を飲みながら令嬢と次男くんが見ていた。二人の様子から殿下の態度は珍しいものだと理解できる。
姪っ子ちゃんは殿下の様子は気にならないのか、手伝います。と言って殿下の皿運びを手伝っていた。
姪っ子ちゃんは殿下への態度は普通だった。ダンスの練習で関わりに慣れたのかもしれないし、意外にたくましいのかもしれない、それとも殿下が思ったよりも怖くなかったのか、どちらにせよ人懐っこいので誰とも仲良くできるのだと思う。
私も見習いたい部分だ。
姪っ子ちゃんはお嬢様とも仲良くなれそうだし、交友関係は心配なさそうだ。
殿下や次男くんが必要物品を運んでくれて、令嬢や姪っ子ちゃんたちがお肉を並べてくれたりしていた。
隊長さんや管理番は基本的に、お目付け役的な感じで見守っている。
生徒の自主性に任せている、と言った様子だろう。
2人の雰囲気は子供を見守る大人の姿勢で、食事会の時とは違う様子だった。いつも楽しそうでワチャワチャしている事が多くて気易い雰囲気しか知らないから、とんでもないギャップを感じてしまう。こんな事を思うのは失礼なのだろうけど、大人なんだな、と思ってしまった。
いや、間違いなく大人なんだけど。久しぶりに実感した。
そんなこんなでBBQのスタートだ。
耐火レンガの横に作業台があって隣り合わせにテーブルを置いてもらっていたので、そこを焼き上がったお肉を置くスペースに、さらにそのちょっと奥に敷布を敷いて食事をするスペースにしている。
準備を手伝ってもらっている間に炭火もなじんで、網も温まってきたので、さっそくお肉を焼くことにした。
網にお肉を並べ、空いたスペースに野菜を並べていく。
そうしていると、お肉の焼ける音と匂いが広まっていく。
青空の下BBQとは最高の贅沢で、私は網の前に立ちながらニマニマしてしまう。
お肉の前でニヤついている私は不審者で間違いないだろう。
お肉を焼き始めると殿下は私の横に立っていた。
この人はさっきから何なのか、何故、ここにいるのだろう? 疑問しかない上に正直やりにくい。できれば後ろで待機しててほしいと心から思う。
「殿下、座って頂いて大丈夫ですよ? 殿下に座っていただかないと他の方たちも座れないので」
「しかし、姫一人になんでもさせてしまうのは申し訳ない。なにかできることはないか?」
そう、殿下が座らないので、他の人達も座れない。みんな近くで立ちん坊なのだ。
固まっているのを良い事に、令嬢たちはお喋りに興じている。それはそれで楽しそうなので良いのだが、私としてはただ待っているだけなので、申し訳ない気分になるのだ。
子どもたちのことに口を挟む気はないのか、隊長さんも管理番も口をつぐんでいる。困った。
見られているので居心地が悪い。どうしようか?殿下に手伝ってもらうことはないのだ。
BBQは焼きながら食べるもので、焼きあがるのを待つだけなのだ。
それを正直に話してもひいてはくれなさそうで、困っていた私だが、いいことを思いついた。
「殿下、でしたら、味見をお願いできますか? 隊長さんもお願いできる?」
私は後ろの方にいた隊長さんも呼びつけて、二人に味見をお願いすることにした。
隊長さんがいれば殿下も拒むことはないだろうし、隊長さんは味見を断るはずもない。そうして、敷布の方へ誘導してもらえば万々歳だ。
BBQは本来なら網の横で食べるものだが、馴染みのない皆にはハードルが高いだろうから、敷布に座って食べて貰う事にした。だから殿下も敷布の方へ行っていただきたい。
味見作戦が上手くいくといいのだけど。
「お呼びですか?」
「BBQは初めてでしょう? 味見をお願いできる?」
「味見ですか? 勿論です」
隊長さんは待っていました、ということはないのだろうけど速やかに来てくれて、その隊長さんに私が遠慮をするはずもなく、流れるように味見をお願いする。お願いされた隊長さんも味見を断るはずもなく、隊長さんが引き受けるのなら殿下も断れるはずもなく、2人に味見をお願いすることができた。
と、その時に気がついた。
毒見っているの? 陛下に毒見がいるから、殿下にいるのかも?
気になった私は本人に聞いても大丈夫って言うだろうから、ここは隊長さんに聞いてみた。
「隊長さん、殿下に毒見って必要かしら?」
「殿下にですか?」
「そうよ。陛下に必要だもの、殿下にも必要ではないかと思ったのだけど」
「そうですね。確かに必要ですので私が毒見をします。その後に味見という形にしてはいかがでしょうか?」
隊長さんと話をしていると予想していた通りの事を言い出した。
「従兄弟上、自分は気にしません」
「殿下、お立場上、そういうわけにはいきませんので、私の後でお願いします」
「わかりました」
殿下は、はじめは渋っていたけど、隊長さんの一喝で引き下がってくれた。本当はもっとごねたかったと思うし、こういう場だったら皆と同じように過ごしたいと考えるのは普通のことだと思う。
でも、殿下の立場ではそうはいかないのが当然で、そこだけは弁えないといけない部分だ。もう少し渋るかと思ったら、意外にも聞き分けが良かったので、その点は驚きだった。
私がそう感じていたら、隊長さんも同様の考えだったのか殿下を温かい目で見ている。
これを機に殿下への態度が軟化してほしいと思うけど、隊長さんにも考えがあるのだろうからお任せだ。私が口を挟む事ではないだろう。
まあ、二人の関係は二人のものだ、他人が口出ししていいものではないとも思う。
ここはみんなで BBQを楽しんで親睦を深めよう。
「みんなで楽しいご飯を食べましょう」
私は食事の開始を宣言した。





