閑話 管理番の考え
いつも読んで頂いて、ありがとうございます。
今回は管理番の考えです。
本来なら、本編の続きになるはずだったのですが、話が纏まらない・・・
ですので、閑話になってしまいました。
お付き合い頂けたら助かります。
よろしくお願いいたします。
私は王宮の管理番を勤めています。
最近の仕事内容では、姫様の御用や商人の持ち込んだ新商品を確認することが増えています。
王宮内では姫様の存在が少しずつ公になっており、そのためか姫様のうわさ話も増えてきている状態です。
王宮内の姫様の評判は二分されています。
一つは変わった方だが、この国にとって利益になる方、という見方。これは陛下が筆頭的な存在で。積極的に国内に取り込みたい、というもの。
もう一つは危険分子、というよりはあの方は自分たちの利益にならない、邪魔な存在。という考え方。これは国のためではなく【自分たちの利益にならない】という点が問題で、筆頭的な存在は宰相閣下。閣下は邪魔な存在、という箇所では同じですが国にとって問題、と思っているので、その点は貴族たちと同じではないはずなのですが、閣下は貴族たちの考えを利用する気なのか、その点については言及されてはいない様子です。
管理番にすぎない私が、なぜこんな話に詳しいかと言うと、私が【姫様とお話しする機会が多いから】に他なりません。
私から情報を引き出したいと思っているのか、多くの方に話しかけられる機会が増えました。それも明らかに、私の身分ではお話をできるような方ではない方々からです。時には自分の家に、と招待されるような話も出てくるほどです。
あからさまに、姫様の情報や橋渡しを望んでいるのは明らかで、あまりの露骨さに言葉もありません。
そのような依頼を受ける事はできないので、角が立たないように断るのに一苦労、はしていません。
理由は簡単で、隊長様が姪に入れ知恵してくださったように、私にも困らないようにと言い訳を用意してくださっていたからです。
内容は簡単です。
自分の立場では姫様に人を紹介するお声掛けができない、というものでした。
昼食会で姫様にお声掛けできない。そんな事はありえないのですが、実情を知る人は私達以外いません。ですので、私と姫様との身分差を考えれば、当然と思われる内容だったので、一度お断りすると二度と声をかけられることはありませんでした。
隊長様は冷たいような感じがする、冷たい人だ。そう見えるのですが、実際はお優しい方です。
私のような者にも気を遣ってくださっている、前は感じられなかったのですが、最近はそう理解できることが増えました。
とは言っても、姫様が私を気にかけてくださっているから、という理由が多分に含まれているのでしょうけれど、それでも私のような身分のものを気にしてくださっているので、十分に優しいのだと思っています。
実際、離宮に向かう時もわざわざ迎えに来てくださるのです。姫様が心配されるから、と言ってはおられますが、無用な争いごとに巻き込まれないようにとの気遣いなのだろうと思っています。
迎えに来て下さる前は、他の貴族たちに王宮内で何度声をかけられたことか。無理難題を言われたことも多々あります。
招待もされていないのに離宮に連れて行け、とか。姫様に心付けを渡すように、とか。無茶もいいところだと思います。
これが陛下の耳に入ればどうなるか、考えたくもありません。
お断りに四苦八苦していると、離宮に来るのが遅い、と心配された隊長様が迎えに来てくださって事なきを得ました。来てくださらなければどうなったことか。想像するのも怖いことでした。
ですが、このような事を思うと姫様の護衛に隊長様を、と判断された陛下の考えが英断だと思ってしまいます。もしかしたら、こうなる事が予想できたのかもしれません。
陛下は先を見通せるのだと思ってしまうのは仕方がない事だと思います。
そんな日々を送り、姪が姫様とご縁を頂いてありがたいとおもっていました。
その姪が姫様や殿下とダンスの練習をすることになった、と隊長様から伺ったときはなんの冗談かと思い、失礼ながら聞き返してしまいました。
隊長様も私の訝しげな気持ちをわかってくださっているのか、特に嫌な顔をすることもなくダンスの練習について教えてくださいました。
冗談でも聞き間違いでも無いようです。
その話を聞いた瞬間、断ろうと思ったのは私の身分では当然の事だと思います。
私は、姪もそうですが。貴族とは名ばかりの、端っこに引っかかっているような状態です。その私達が殿下や姫様とダンスの練習なんて考えられない話です。
断りの言葉を出す前に、姫様のご希望で、ご令嬢と筆頭様の後押しがあった、と聞いていなければ、断りの言葉を飲み込むことはできなかったと思います。
それくらい私のような身分のものではありえないことなのです。
私の家は貴族とは名ばかり。裕福な商人の方が貴族らしい身だしなみを整えていると思うほどです。
実際私もダンスの練習はデビュー前と学校で練習した程度、その後は使うこともないので忘れてしまいました。姪のデビューのときは、付け焼き刃でなんとか思い出したほどです。
姪も同じ立場、自分が練習会に参加するなど思ってもいなかったはずです。
そんな身分の我々が、殿下や侯爵家の令嬢が参加される練習会に出席させていただくなんて、光栄だと思う前に何かしでかさないか、その心配しか出てきません。
姪は城下の外出の時も、姫様やご令嬢に砕けた態度が多すぎて失礼な事を数多くしていた姪です。今回もその事が予想されます。兄夫婦に注意されているので改善されていると思いますが、無意識にしている事です。問題を起こすことは十分にあり得ます。一人で出席させる事は危険。
私から兄に礼儀作法は今から覚えれば良い、と言いましたが、それは寛容な姫様に対するものであって、殿下に対するものではありません。
殿下が短気と言う話を聞いたことはありませんが、姫様の中では印象が悪い事は知っています。
その姫様が殿下とダンスの練習をするのです。よっぽどの理由があるはずです。あの賢い姫様のことです、断る理由なんて、いくらでも考えつくはずです。
断れない姫様のお気持ちを思うと、私や姪の参加でお気持ちが楽になるのなら、とも思います。
印象の悪い殿下とダンスの練習会、何があってこんな事になったのでしょうか。私のようなものでは原因をうかがい知ることはできませんが、気まずい練習会のはずです。
そんな中で姪がトラブルを起こす可能性は十分考えられます。
断りたい、切実にそう思います。ですが姫様のお気持ちや仲良くさせて頂いている姪の気持ちを考えると、私の独断で断るなんてできません。
悩みましたが受けることにしました。というか、断るということは無理でした。なにせ隊長様からの相談と言う名の要請です。後ろにいるのは姫様です。
姫様なら相談をすればお怒りになるという事はありえません。ですが、普段から私や姪、商人の事を気遣ってくださる方です。私達から姫様にできることなど数が少ないのです。気遣ってくださることを数えると圧倒的に姫様の方が多いはず。それを思えば、少々胃が痛くなるくらい、姪が姫様や殿下に失礼なことをするのでは、と心配することぐらい、なんてことはないのです。
姫様は、とても微妙な立場におられます。宮殿内では姫様の事を噂されています。
姫様が考えられた料理のことも、新しく発見された調味料のことも少しずつ広まっています。宮殿内でも周知され始めているのです。
一番大きな理由は、料理長がその調味料や料理をメニューに組み込み始めたからだと思っています。料理長が使うということは、その料理の実力というか美味しさが認められたという事です。
陛下も姫様に肯定的。さらに陛下が気に入り殿下との婚約を望んだ、という噂もありますし、それを裏付けるように離宮に居を移されています。となれば、今後の姫様の立場は考えるまでもないのですが、宰相閣下が否定的。その関係で微妙な立場になっているのです。
陛下は殿下との婚約を本気で望んでおられるようです。ですが、姫様は殿下のことは否定的に考えていらっしゃいます。
私としても、姫様にはこの国に残って頂きたいのですが、殿下との婚約は素直には喜べないのです。
姫様はこの国にお一人でいらしています。忘れがちですが、姫様はまだ子供です。両親が恋しくてもおかしくはありません。
姫様は、ご自分のお立場を理解されているのか、家族に会いたいとか、帰りたいとかは一言もおっしゃいません。ですが、そう思っていてもおかしくはありません。
そんな姫様に、これ以上の気苦労はしてほしくないとも思うのです。自分でも矛盾を抱えているのですが、この気持ちはどうすることもできません。
姫様に残って頂きたい、でも殿下との結婚はどうかと思ってしまっている。
姫様がこの国に残ってくださるのなら、お国の外交官として残ってくだされば良いのではないか、と思ってしまいます。
私ごときの立場では口出しできないのは承知なのですが。考えてしまうのです。
私はため息が出てしまいます。
姫様はご自身の立場の難しさをお気づきなのでしょう。でなければ、練習会の参加を私や姪に頼むような事はないはずです。
やはり、練習会は参加するべきなのだろうと結論がでます。
私や姪はなんのお力にもなれませんが、参加する事で姫様の気が紛れるのなら、その点だけでも意味があるのではないかと思うのです。
これからも、姫様の難しいお立場は続くでしょう。
微力な私ですが、少しでも姫様のお力になれればと思っています。





