お友達紹介 ②
全員というか4人しかいないが、同級生2人が緊張して食事が進まない様子だ。2人はサラダをソッと食べている。なるべく音を立てないように、空気になろうと徹しているのが感じられた。
仕方がないと思う。この場には自分たちより身分が高い人間ばかりだし、なにか問題を起こしては大変だと緊張しているのが感じられる。
自分たちのミスが家族や家に迷惑をかける、と考えるのは貴族社会の常だろう。
その緊張を感じ取る私は、ここで緊張感を和らげるようにしてあげたいのだが話題をどうすればよいだろうか? 共通の話題で空気を和らげたいところだが、彼女達とは他のクラスで交流がないので共通の話題も見つからない。
それを思えば姪っ子ちゃんは随分と頑張っていたのかもしれない。管理番がいるとはいえ緊張しつつも話をしよう、打ち解けようとする雰囲気があった。その姿勢があったからこそ私達と仲良くなることができたのだと思う。
それを思えば、眼の前の彼女たちは緊張しているだけだ。この場に馴染もうとする姿勢は感じられない。
まあ、初対面の態度で全てを決め付けるのは良くないだろう。まだ子供だし。そう言った機微を感じられるようになるには経験が必要だし。経験を積むのはこれからだ。
私はそう考えると、こちらから積極的に話しかけることにした。
まずは準男爵家の子からだ。正面の席にいるので話しかけやすい。ちなみに隣はご令嬢だ。
「今日は急にごめんなさいね。お隣のクラスよね?」
「は、はい。そうです」
うん。一言で終わらせたらだめよ。話が続かないでしょう。一言コメントを残そうか。
私はそう思いながら、続きの言葉を探す。こういう時は共通の人物を出すのが一番良いのだ。会話の基本ですな。
「お姉様が伯爵家の方と親しいとか。伯爵家の方とは、わたくしもお会いしたことがあるのだけど、貴方もお会いしたことがあるのかしら?」
「はい。お茶会に招待していただいた事があります」
うん、会話が続かない。私は諦めた。仕方がない。隣の子に話題を振ってみよう。令嬢の反対隣が侯爵家の方だ。
「初めまして。侯爵家のお嬢様でしたね。勉強不足で申し訳ないわ。領地はどちらになるのかしら? 特産はどのような?」
「え。あの。申し訳ありません」
彼女は下を向いてしまった。ん? どういうことだ? 自分の領地の話題は失敗だった? えっと。自分のお家の事だから知ってるよね? 私はそういう認識で話しをしたのだけど。まずかった?
私は心配になって令嬢の方を向く。令嬢は微笑みをたたえつつも困っているような感じだ。
まさか、ここまで話題が続かないとは思っていなかったのだろう。
「姫様。彼女の侯爵家の領地は海側になります。わたくしの家の領地とは反対側ですわ。海側だけあって。海産物が有名です」
令嬢がスラスラと答えてくれた。そうそう、私はこういう答えを求めていたのだけど。難しい話題選びだったのだろうか?
そう思っていたら令嬢の答えを聞いた彼女はますます下を向いてしまった。
困った。これって、どうすればよいの?
私は打開策が見つからず、いまいちな空気のままランチ会は終了となった。
どうしてこうなった? お友達をつくるのって、こんなに難しかったっけ?
やっと放課後になった。
今日はさんざんなランチ会だった。令嬢や姪っ子ちゃんとの食事会が楽しいものだけあって、彼女たちとの進まない会話が辛かった。
あの後は令嬢が間に入り、なんとか会話の糸口を作って話を進めたのだけど盛り上がりや楽しさは欠けていて、とても辛かった。
子供と接するのって、こんなに大変だっただろうか? 私が大人の姿だったらまだ違ったのだろうか? それとも身分の問題?
原因不明なだけに手の打ちようがない。私は困惑を隠せず、明日のランチで令嬢に相談することにした。
本当なら今日の放課後に話をしたかったのだけど、放課後は隊長さんが迎えに来るし、令嬢は総会の仕事があるので難しいのだ。残念だ。
放課後と言えば今は無理だろうけど、もう少し慣れたら女子会とかもしてみたいと思っている。
私は密かな野望を持ちながら隊長さんの迎えを待つ。
そうしているとクラスの入り口がざわついた。隊長さんが来るとざわつくので迎えが来たのだと思って確認したら、侯爵家のお嬢様が来ていた。
他のクラスの子が来ることが少ないのでざわついたのだろう。
侯爵家の子がなぜ? 私に用事だろうか? 不思議に思いながらその子を見ると、私を見つけて会釈をしてきた。
やはり、私に用事のようだ。なんの用事だろうか? 彼女が会いに来る理由が思い付かないのだが。
まさか、クレーム?
席を立ち、入り口に行き彼女に会うともう一度会釈をされ俯かれてしまった。まるで私がいじめをしているようだ。周囲がこちらを伺うような様子が感じられる。
「わたくしに何か?」
「はい。お詫びをお伝えしたくて」
涙目になりながら小さな返事が聞こえ彼女は顔を上げた。
会うなり涙目になったのを見て私は焦ってしまった。私が泣かせちゃった?
焦った私は周囲を見回す。本来ならこんな場所(教室の入り口)で話をするのもどうかと思う。だが私も立場上遠くに行けない理由がある。スクリーニングの終了した相手とはいえ、いきなり二人きりになるのも問題だろう。
安全管理に関しては隊長さんに口酸っぱく言われている。そこを守らなければ学校も行かせてもらえなくなりそうな勢いだ。
その事もあり、考えた私は入り口から少し離れ廊下の方に出る。これが限界だろう。ここなら隊長さんもすぐにわかると思う。そんな事を考えながら侯爵家の子と向かい合う。
「どうなさったの? お詫びって、何かあったかしら?」
「ランチの時にせっかく話しかけてくださいましたのに。わたくし、失礼な態度で。それで、申し訳なくて」
俯きがちに小さな声で返事が返って来る。
これは、どうするべきだろうか? 本来なら謝罪に来たのに俯いて小さな声だというのはアウトな態度だろう。しかも目を見ず俯いたままだ。しかも身分的に私の方が優位。私的にはスルーできる態度だが他の人に同じ事をしたら問題になるだろう。
この様子を見ると彼女としては頑張っているのだと感じる。謝罪に来た気持ちも本物だと思う。ここは私が謝罪を受け入れ機会があるときに訂正するほうが良いだろうと思う。今、この場で指摘すると彼女は何も言えなくなってしまうだろう。今後の関係性を考えると悪手だと思う。
友達になれるかどうかは別にして、対人関係を良くしておきたいと思う。学校生活を楽しく過ごすためには当然な考え方だと思う。
「そんなに気になさらないで、あの場では仕方がないと思うわ。こちらこそ、急な事で驚かせてしまいましたね。私や令嬢がいては緊張して上手くお話できないのは当然だと思っています」
「お心遣い。ありがとうございます。ですが、あのような態度は失礼だったと反省しております。どうかお許しください」
「お気持ちは十分感じられます。これ以上は気になさらないで。よかったらまた、ランチをご一緒にしてくださる?」
「はい。喜んで」
侯爵家の小さな令嬢はやっと微笑んでくれた。謝罪しても許してくれないのかも、と心配していたのかもしれない。
可愛い。年齢にふさわしい可愛らしさだ。子猫? リス? そんな小動物にある可愛らしさだ。
ちょっと、というか。かなり羨ましい。私にもこんな素直な可愛らしさがほしいと思う。
羨ましくて彼女をマジマジと見つめてしまっていると時間切れのようだった。
隊長さんが迎えに来たようだ。
廊下の奥の方が騒がしくなってきている。





