対策
私は殿下とのダンスの練習問題について対策が取れずにいた。そして隊長さんの後見人発言に驚いてもいた。その結果対策を決め損ねたという側面もある。
だが、このままで良いはずはないので入浴の時間に目の前にいた筆頭に相談することにした。
他に選択肢がなかったとも言うが、目の前にいたので正直に相談してみよう、という気持ちになったとも言う。
筆頭は私の正直な気持ちを黙って聞いてくれていた。
肯定も否定もしない。その反応を逆に不安に思いながら話を終える。
筆頭は私が相談する事を予想していたのか、あまり時間をかけずに答えを出していた。
「姫様のお気持ちは当然かと存じます。今年の目標の事も伺っていますし。殿下のお気持ちを大事にしたい、と思っておられるのであれば複雑になるかと。ですが、姫様にはダンスの練習が必要な事は間違いありません」
「そうね。殿下へ思いやりを大事にするよう言ったのは私だし、ダンスが上達しないといけない事も本当だし、どうすれば良いのかしら?」
「はい。どちらも必要な事かと。ですので、お二人で練習を行うのではなく、参加する方を増やして行う方が良いかと存じます。殿下も合同でとおっしゃられていたので。苦手な方を増やして行うのが良いのではないでしょうか? 形は整うかと」
「問題ないかしら?」
「合同でしたら、殿下が講師と一緒に指導するという形も成り立ちますし。姫様へのお詫びということも実行できます。もう一つは、殿下の思いやりの心を育てるのにも良い影響をもたらすのではないでしょうか?」
「そうね、それなら安心だわ。他の方に教える事になれば思いやりの気持ちも育つわよね」
「ですが、一つだけ問題が」
「何かしら?」
「殿下にお願いする手段と。練習する方を探す方法ですわ」
「あ。。。」
筆頭の案は納得しやすい方法だった。方法は問題なかったが、そこに行き着くまでの手段が問題になる。
令嬢にどうすれば良いか相談する事も考えていたので、その点はそこまで心配していないのだが、殿下にお願いする方法は考えていなかったのだ。
ここは親戚の強みで隊長さんにお願いするほうが良いだろうか?
「やっぱり、隊長さんかな?」
「はい。隊長様にお願いするのがよろしいかと。思いやりの気持ちが出てきたことを喜んでおられるようでしたので。そこを育てる意味でも、とお話しすれば協力は得られるかと」
「そうね。そうするわ。それに一緒に習う方を探す方法は考えてあるわ。一人は心当たりもあるし」
「では、姫様がご自分で?」
「おかしいかしら?」
「はい。本来、こういったことは講師の方で声掛けを行うものです。そういった意味でも講師に一度相談するほうが良いかと。私の方から話をさせていただきます。お時間をいただけますでしょうか?」
「私がお願いしたことなのに、全部おまかせは申し訳ないわ」
私の発言に筆頭は首を振る。
「姫様のお気持ちは尊いことかと存じます。ですが、そろそろ人を使うことを覚えていただきたいと思います。これからそういった機会も多くなっていきますので」
「そうだけど」
筆頭の言うことはわかる。本来なら私は人を使う立場で、その報告を待たなければならないのだ。だが、それは私の性分には合わない。そう言って突っぱねるとちょっと面倒臭いことになるので、ここは半々で行こう。
「では、筆頭。講師の方の話をお願いするわ、私は心当たりに少し声をかけてみようと思うの。講師の方だけでは知らない人ばかりかもしれないし。顔見知りもいてほしいもの」
「ですが」
「声をかけるだけよ。断られるかもしれないし」
なにか言いたそうな顔をしていたが、知らないふりで押し切った。
どうか、私の思惑がうまくいきますように。
休み明け、今週も学校が始まる。ダンスの授業は今週末。まだ大丈夫だ。
今週までは座学なので慌てる必要はない。今週一杯で練習仲間を探すのだ。
なんのかんのと言って、いつも令嬢を頼って申し訳ないのだが、令嬢の同級生、先日紹介してもらった令嬢たちの中にダンスが苦手な人がいないのか聞いてもらおうと思っていた。
紹介してもらったお姉様方なら一緒に練習をしても問題ないと思ったのである。
というわけでいつものサロンで令嬢にダンスの苦手な人がいないか相談する。
令嬢はダンスの練習よりも殿下の話に驚いていた。自ら練習相手を買って出た方の話だ。
紫色の瞳をまんまるに、これ以上無いほどに開いて私に確認する。
「あの、殿下が、練習相手をする、と言われたのですか?」
「ええ。そうだけど」
そこまで驚くことなのね? 私は令嬢の反応で納得してしまった。だが、ここで話を終わらせるわけにはいかない。今日の目的は仲間を探すことなのだ。
驚いている令嬢に追い打ちを掛けるようで申し訳ないのだが、練習仲間に心当たりはないかもう一度水を向けてみる。
話を思い出した令嬢は考え込んでいた。やはり優秀な人の周りは優秀なのだろうか? 心当たりは無いのかもしれない。
「難しいかしら?」
「申し訳ありません。私の周りにはちょっと。ですが、一人だけ心当たりはございます。実際に聞いたことはございませんが、立場的に苦手かと」
「そうなの? 良かったわ。紹介してくれるかしら?」
私は令嬢の言葉に希望を見出す。
誰もいないかと思っていたので胸を撫で下ろすことができた。そんな私の言葉に令嬢は心当たりを教えてくれた。
「姫様。紹介など必要ありませんわ。姫様もご存じの方です」
「私も?」
令嬢は余裕の微笑みを湛えながらゆったりと頷きもったいぶらずに教えてくれた。
「姪っ子さんですわ」
「ああ」
私は姪っ子ちゃんの名前に納得する。
確かに彼女の身分ではダンスは馴染みがないだろう。私と同じで練習が必要なはずだ。
だが、彼女に声をかけて良いものだろうか?
初めて会ったとき、かなり緊張していたことを思い出す。その姪っ子ちゃんに、この国の男子では最高身分の殿下は厳しいのではないだろうか?
私はその点を令嬢に相談してみる。だが、令嬢は気にしていないようだった。
「そう言っては何もできませんわ。それに学生という立場では同等です。まあ、上級生、という部分はありますが。これからは学校で身分が違う方とも接する必要が増えていきます。慣れることも必要です。もう一つ。姫様と殿下の身分は同等です。そういった意味でも問題はないかと」
言っている事に間違いはないのだが、令嬢の考えは予想外にもスパルタ方針のようだ。だが、姪っ子ちゃんの気持ちも聞かずに参加を決めるわけにはいかないので、姪っ子ちゃんの気持ちを確認するために明日、ランチに招待しよう。
招待の理由は考えてもいない理由だったが、久しぶりに一緒にランチが出来るのは楽しみだ。





