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隊長さんの配慮

 私は先日のお茶会を思い出し、頭の痛い思いをしている。この頭痛をなんとかしたいところだ。

 ただでさえダンス問題で頭が痛いのに、殿下まで出てこられてはたまらない。

 だが、打開策が見つからない、と思ったときにひらめいた。


 宰相に頼もう。

 こんな時の協力者、宰相閣下だ。

 殿下が慣れない段取りに四苦八苦しているだろう。その様子を見た宰相から異国の姫に構っている場合ではないと、諭してもらおう。


 隊長さんも筆頭も今回、殿下の話には肯定的だ。二人からは気持ち的にも立場的にも断ってもらうことはできない。

 だったら私に否定的な宰相から殿下に断ってもらおう。そうすれば角は立たないはずだ。

 問題は、どうやって宰相に会うか。殿下に断ってほしいから会いたい。と言っては台無しだろう。それに喜んでいる2人は疑問に思うだろう。それはよろしく無い。なにか理由はないだろうか? 

 私は回転の悪い頭を必死に巡らせる。そのときに良案を思いついた。


 そうだ、根回しの一環として宰相に会いたい、とお願いすれば良いのだ。

 宰相に面会して、殿下からこんな提案をもらったけど、良いかしら? と聞きながら、副音声で断って、とお願いすれば良いはず。これならいけるだろう。

 私はこの手段を思いつくと、ニンマリしたい思いを隠しつつ早速隊長さんにお願いする。

 「隊長さん。宰相に面会をお願いできないかしら?」

 「どうなさいました? なにか?」

 「いえね。殿下のお話だけど。流石に殿下にだけ段取りをお願いするのは申し訳ないから、宰相には私の方から話しておいたほうが良いのではないかと思うの? どうかしら?」

 いかにも協力しますよ、的な空気を出しつつ、隊長さんへ橋渡しをお願いする。納得顔で頷いてくれた隊長さんは、提案に驚きもしなかったが私の希望する返事も返してはくれなかった。

 「そうでしたか。そうですね。姫様らしいかと。でしたらご安心ください。姫様のお手を借りるまでもございません。私の方から閣下には説明させていただきます」

 「そう? でも悪いわ」

 良心的な隊長さんの提案を覆そうとするが、隊長さんはお任せくださいと、満面の笑み。

 面会の提案は閉ざされた。


 これは困った。どうするか? わたしはちょっと悩んだが、隊長さんには正直に告白することにした。

 人間正直が一番だ。下手に取り繕うからボロがでるのだ。

 私は諦めて正直に告白することにした。

 殿下とダンスの練習はお断りしたいと。

 

 当然のことながら隊長さんは私の言葉に驚き、理由を尋ねてくる。

 「簡単なことよ。殿下と練習をすればあらぬ誤解を招いてしまうわ。せっかく厨房の件で噂を立てたのに意味が無くなってしまうでしょう? だから、お断りしたいの。あのときの殿下の様子から、正直に断っては殿下の気持ちを無下にする、と思って言いにくかったの」

 「そうでしたか」

 隊長さんは私の断って、に困った様子だ。隊長さんとしては気遣いのできるようになった殿下の成長を見守りたいのだろうか? 二人は従兄弟同士だ。私の知らない思いがあるのかもしれない。


 「隊長さんはこのまま殿下に教わったほうが良いと思っているの?」

 「単に、ダンスをお教えするのであれば私でも問題はありません。ただ思うのは、あの殿下が気遣いを、姫様にお詫びがしたいという気持ちをもった。そこが重要だと思っています。信じられないかもしれませんが、殿下は素直で優しい質なのです。間違いをただすことが出来れば思いやりを持つのは不思議ではありません。姫様には申し訳ないのですが、芽生えた気持ちを大事にしたいと思ってしまうのです」

 隊長さんの言うことは真っ当だが、私には迷惑な話だ。

 だが、大人として考えると子供の成長を妨げるのは良くないことだとは思う。


 私の中の感情は複雑だ。

 だが、私だって子供だ、とも思うし。気持ちは大人だから子供の成長は大事にしたいとも思う。どうするべきか。


 原点に立ち返る。

 私が嫌なのは殿下と噂になることだ。そこが回避できれば問題ない。

 だったらどうするべきか。悪い噂を立てるか? だが、そうするとその噂に殿下も巻き込む形になる。それは殿下の立場上よろしく無い気がする。


 それか、二人でなければ良いのではないだろうか? 他にも生徒を巻き込むとか? 殿下とも顔なじみの令嬢とかどうだろう? そうすれば悪い噂は立たないだろう。

 だが、令嬢には迷惑にならないだろうか? 令嬢の殿下への印象を聞いたことがない。令嬢を巻き込むのは反応次第だろうか? そこで決めよう。

 そして最悪の場合、令嬢を巻き込めない時の手段を考えよう。

 奥の手は必要だ。

 

 他の手はないだろうか?

 考え込んでいると隊長さんから声を掛けられる。

 「姫様。やはり、殿下とのご縁は遠慮したいと思っていらっしゃいますか?」

 「もちろんよ。私の目標は変わらないわ。そういえば隊長さんの意見を聞いたことはなかったわね。隊長さんはどう思っているの?」

 私は自分の気持ちの宣言はしたが、隊長さんの意見を聞いたことがなかった事に気がついた。

 隊長さんはこの国の人間だ。おまけに陛下の親戚だ。陛下の提案に反対はしないだろうと、確認もしたことはなかった。

 だが、ここで意見を聞いておくのは良いだろう。それ次第では、お願いする内容も変わってくる。そうなると筆頭にも意見を聞いたほうが良いだろうか?

 

 私の質問に隊長さんは複雑そうな顔をする。私も予想外の反応だ。私は隊長さんの話を聞くべく待つ。

 無理に促すよりは話してくれるのを待ったほうが良いと思うからだ。私の聞く姿勢に隊長さんは観念したように話しだした。


 「姫様。私はこの国の人間です。国と国民と陛下に忠誠を誓った身です。国の有益になるように考え動くことに迷いはありません。ですが後々、姫様の後見人になる予定の身としては、どうすることが良いのか判断がつかない時があります。姫様の思うように歩んでいただきたい。その気持にも嘘はありません。ですが、国の事を考えれば、それが良いことなのかは判断がつかないこともあります」

 困りきった表情に嘘はなかった。私は隊長さんを困らせていたようだ。だが、個人としての考えはどうなのだろうか? 今の発言は公のものだろう。だが、個人は?


 「個人的な考えはどうなの? さっきの話は公人としての考えでしょう? 個人的にはどうなの? 隊長さんの立場では公私は別でもおかしくはないでしょう?」

 「私人として、ですか?」

 隊長さんはニッコリと凄みのある笑顔で答えてはくれなかった。要するに個人の考えは内緒ってことだろう。まあ、簡単に私人の考えを言って良い立場ではない。その点の深掘りは止めておこう。

 だが、さり気なくすごいセリフがぶっこまれていた事を私は忘れていない。

 隊長さんが後々、後見人になるって聞いていない。


 「わかったわ。個人的な考えを聞くことは止めておくわ。でも、気になるセリフが聞こえたの。そっちは教えてほしいわ」

 「なにか? 気になることを言いましたでしょうか?」

 「ええ。後々、後見人になるって、聞いていないわ」

 「ああ。そのことですか。はい。正式にはまだですが。後々はそうなります。姫様が卒業する頃でしょうか? どのような選択をされても、この国にいる間は私以上の後見人はいないでしょう。有利に働くはずです」

 今度は凄みの笑顔ではなく、自信に溢れた良い笑顔だ。

 私は言葉もない。


 隊長さんの言いようでは「この国にいる間は」と言っているけど、要は帰る予定は無いということだ。プラス、もし殿下の婚約者になれば、隊長さんが後見人につくということで反対派を黙らせることができる、ということなのだろう。

 不思議なのは、隊長さんの父親ではなく、隊長さん自身ということだ。

 普通は年長者がなるものではないのだろうか?

 私の疑問はすぐに解消される。

 「それは、父は陛下の血縁ではないからです。私の方が陛下に近いので。私が陛下にお願いしました」

 「ん? どういう事?」

 「姫様の後見人になりたいと、私が陛下にお願いしたのです。不測の事態では父よりも私の方が陛下にお願いしやすい、と判断しましたので」

 この言い方では、何かあったとき陛下に言いやすいのは自分だから後見人になりたいって【お願い】してくれたってこと?

 私はパートナー問題のことを思い出す。陛下の怒りを買ったとき隊長さんが庇ってくれたのだ。あんな事があったら困るだろうと考えてくれたのだろうか? だから面倒な役を引き受けてくれたのだろうか?

 「いつ、陛下にお願いしたの?」

 「内緒です」

 笑って教えてはくれなかった。

 隊長さんの優しさがありがたい。


 だが、問題は片付いてはいなかった。今回の問題は殿下の件だ。

 こうなると立場的に隊長さんの助力は期待できない。やはり、令嬢の力を借りるしか無いだろうか? だが、令嬢を巻き込むのは本意ではない。

 どうするか? 答えは出なかった。 

 ため息しか出ない。

 どーして、こうなった?

 最近、このセリフを繰り返している気がしてならない。


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[気になる点]  殿下と仲直りするきっかけを探すのはいいけど……。姫様が苦手と公言しているダンスはやめた方が無難。姫様も、ダンスは苦手なので他のことで一緒に何か行います。が、無難でしょうね。苦手なもの…
[気になる点] 姫様の後見人が隊長さんになるのはやぶさかではないのですが、これをどう解釈するかによって見方が変わってきそうですね。 以前宰相が姫様には有力な後ろ盾がいないので、殿下の王太子妃になったら…
[良い点] 主人公が魅力的で精神的に自立しているところ。 王宮の人間が殿下の進む道の小石を殿下が気づく前に片付けた結果いまの殿下になった(過保護の結果)とすると自分で考えられるようになったのはいいこと…
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