何事もチャレンジしてみよう ②
全員でダイニングの椅子に座りボールに入った餃子の餡を見ている。
商人と隊長さんは楽しそうに、管理番は不安そうだ。私はその様子を見ながらまずは餃子の包み方をレクチャーする。
「包み方を説明するわね」
「「「お願いします」」」
なぜか、体育会系の様相を呈している。だが、そんなに心配する事はない、難しい事はないのだから。
皮を掌に載せ、スプーンで餡を程よく(初めのころは難しい)掬う。餡を皮に乗せると半分を水で濡らし、ひだを作りながら閉じていくだけだ。何が難しいってこのひだを作るのが難しいのだ。
私は使った事はないが、難しさのあまり便利グッズで餃子を包めるグッズがあったと思う。友人が楽だと言っていた覚えがある。
しかし、この国にはそんな便利グッズはない。手作業あるのみ。なのだが裏技もある。いたって簡単な話だ。餡を入れた後、皮を半分にしてフォークで押すのだ。ラビオリみたいになって簡単に包める。初めて包む人がいるときは私はこの方法でレクチャーしている。ひだの方は難しくて嫌になっては楽しめないので楽ちん方法が良いと思った結果だ。
管理番はこの方法を聞いたとき、安心したのかホッとした顔をしていた。その表情が不安を物語っていた。
「これなら大丈夫な気がしない?」
「道具を使うのなら私でも大丈夫な気がいたします」
管理番はそう言いながらも慎重に餡を掬い皮に乗せている。少しずつ確認するように作業をしていく様子だった。慣れない手つきが微笑ましい。
商人と隊長さんはぎこちない手つきながらも、ひだを作っていくつもりの様だ。頑張るつもりのようなので、私は見守りながら一緒に包んでいく。
人数が多いので作業はサクサクと進むかと思ったらそうは問屋が卸さなかった。なにせみんな作業が丁寧だ。なかなか進まない。だが、一所懸命さは伝わってくる。
ここは私が頑張って包みつつ皆の包み具合を見守るしかないと、腹を括りせっせと包んでいく。
「姫様。包むのが早いですね」
「慣れてるからね。慣れると早くなるものよ」
商人の感心したような様子に私は苦笑いを返しながら説明する。なにせ私は熟練度が違う。前の人生も考えればどれだけ包んできたことか。素人(初心者?)と同じに考えてはいけないのだ。自慢できない事を考えながら、手は休むことなく動いていく。
管理番も頑張っていたが、私が3個包む間に1個包む感じだろうか。隊長さんも似たようなスピードだ。それが悔しいのか肩に力が入っているのがわかる。早く包もうとして力が入っているのだ。
「隊長さん。力を入れても早くはならないわよ。それに競争しているわけではないのだから。楽しまないと。なんのために皆で包む事にしようと思ったのか分からないわ」
「確かにそうですね。」
隊長さんも本来の目的を思い出してくれたようだ。私の言葉に理解を示したのは商人だった。いや、商人らしく商売の話をしたかっただけなのかもしれない。
「姫様。この餃子は簡単に作れるのですか?」
「どうかしら。難しいと思うわ。作業工程が多いからお家で簡単に、て言う訳にはいかないと思うの」
「そんなに大変なのですか?」
管理番も気になるらしい。普段から出来上がった段階や仕上げの前段階ぐらいしか知らないので想像もつかないのだろう。料理初心者の管理番のために順番に作業工程を説明する事にした。
「まずはお肉をみじん切りにすることから始まるわね」
「コロッケの時のようにですか?」
「そうよ。隊長さんも見てたから知っているわね」
「コロッケと同じなのですか?」
隊長さんと管理番は(職員用の分で食べている)コロッケを知っているが、商人は知らないので不思議そうだ。商人にはコロッケについては後から説明しようと思っていたら、隊長さんが自慢するように厨房で作った事を説明していた。
「姫様。新しい料理を作られていたのですね」
商人は残念そうに呟く。がっくりと肩が落ち、いじけるように包むスピードが遅くなる。私は焦りながら事情を説明する。陛下からの依頼で断れなかったのだ。そこは理解を示してくれたのだが。商人の両肩にはキノコが生えそうなほど暗くなっていた。対照的に隊長さんはふふんと、自慢げだ。どこに自慢する要素があるのだろうか? 疑問に思いながら焦りつつ商人へ説明を追加していく。
「商人。餃子もそうだけど、コロッケも簡単には作れないのよ。家庭向きではないの。だから厨房で作ることにしたの。簡単な料理を厨房に教えても意味がないでしょう?」
「「「???」」」
三人は同じ様に首を傾げる。私は兄弟のような同じ動作に笑いが出そうになるのを我慢する。
「理由はね。お肉を刻まないといけないの。そこが一番大変なの。お家でお肉を刻んだりはしないでしょう? 形がないぐらいに刻むのよ? 大変だと思わない?」
「では、これもそうなのですか?」
目の前にある餃子の餡を見ながら商人が聞いてくるので、肯定する。大きく頷きながら厨房に協力してもらった事を教える。
「今日のお肉は厨房にお願いして作ってもらったの。私では無理だもの。今まで作らなかったのは刻む工程が難しかったからなの。さっきも言ったけど、同じ理由でお家で作るのは無理だと思うわ。毎日の食事にそこまでの手間はかけられないでしょう? この作業は料理の専門家がいて成り立つ料理なのよ。だから、私も今までは作らなかったでしょう?」
「そのような料理もあるのですね。上手い下手があるとはしても、料理は同じものだと思っていました」
「商人。それではプロがいる意味がないわ。そんな事はないのよ。やっぱりプロではないとできない事は多いものよ。私もできない作業は多いもの。魚料理は苦手だし」
「そういえば以前も言われていましたね」
隊長さんが陛下との昼食会で私が言っていた事を思い出したようだ。覚えていてくれて嬉しい。そして商人は家庭向きではない料理だと納得してくれたようだ。だが、売りには出せなくても作業工程は気になるようで続きをねだられた。
皮の作り方や餡の作り方も説明する。
三人は作業の多さに驚いていた。食べるのは一瞬だが、出来上がるまでは驚くほどの手間がかかっている。それを実感したのか。三人は口をそろえて言っていた。
「大事に食べます」
いや、大事に食べなくてもいいけど、味わって食べて欲しい。そうなると意味は同じかな?
それよりも、包むのを頑張って欲しい。でないと食べられないからね。
そこのところをよろしく、と言いたい。
餃子の餡は後三分の一、残っている。あと少し。
頑張ろう。
美味しい餃子のために。





