祝 お出かけ ⑥
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回の外出に、少しですが隊長さんの教育計画が入っていました。
隊長さんもいろいろ考えているんですね。
お腹を満たしたので今度は姪っ子ちゃんおすすめの雑貨屋さんに行くことになった。高位貴族の皆様が行くようなお店ではないので令嬢はその雑貨屋さんを知らないそうだ。隊長さんも下見に行ったとき初めて見たと言っていた。
私は雑貨屋さんを楽しみにしつつ姪っ子ちゃんの後ろを歩く。パン屋さんからほど近い店らしく、姪っ子ちゃんは雑貨屋さんの帰りにパンを買うことが多かったので、パン屋さんの露店を知っていたのだそうだ。
「このお店です」
姪っ子ちゃんが雑貨屋さんの扉を開ける。ドアはスカイブルーで塗ってあり可愛らしい感じの外観だった。女の子が好きそうなお店である。中も小さな置物やアクセサリー(プチプラの若い子が楽しむような)髪飾り。可愛らしいハンカチ、部屋着や文房具なども置いてあり、値段も手頃だそうだ。
私は文房具を覗いてみた。学校指定で使うものは仕方がないが、自分の勉強用に少し持っていても良さそうなものがないか見たかったのだ。吸い寄せられるように覗くと、鉛筆もあるのかと驚きながら手に取る。今まではペンしか使っていなかったので興味が湧いて手に取った。鉛筆は前の生活で使っていたものと大きな差はないように思う。しかし技術の差なのか、こちらにあるのは少し大きいように感じる。そんな違いにも気がついて、柄は書いてないのかと残念に思いながら他のものと見比べる。が、他のものも柄が入ったようなものは置いていなかった。残念に思いながら握り心地のいいものを探す。しかし私の手が小さいため、握りやすいものがなかなか見つからない。仕方がないので、それなりに使いやすいものを探し購入することにする。
その隣にノートもどきを見つけた。今まで使っていたような大学ノートではないが、ノートっぽくなってる。罫線はなく書きにくそうな印象だ。パラパラ開いて見ながら、他のノートもどきと比べてみる。罫線があるものはなく装丁というか表紙の模様が違うものがあった。重々しいものから白を中心とした軽やかなものまで印象が分かれている。
ノートも勉強用にほしいと思い、選ぶことにする。重々しいものを避けるとなると可愛いものしか選択肢がなかった。カッコいいものとか、爽やか系とかはないのかと思いながらピンク系よりはライトグリーンの物を選ぶ。鉛筆とノートを持ちながら他に何かないかと店内を歩く。
令嬢も興味津々といった感じだ。初めてのお店なので気になるのだろう。普段来ないお店とは目新しいものだ。カップを見たりハンカチを手に取ったりしている。外出用には購入はできないだろうが自宅用だろうか? 質が落ちるので購入する気にはなれないかもしれない。姪っ子ちゃんは最近来たばかりと言っていたので、購入の予定はないようだ。冷やかしのような感じになっているが、楽しそうにアクセサリーを眺めている。
「お嬢様。そちらだけですか? 他のものも気になるものがあれば購入されても問題は有りませんよ」
隊長さんが私に購入を勧めてくる。使わない物を購入する気はなかったが、今日の隊長さんは買い物を勧めてくる。もしかして私にお金を使う習慣を付けたいのだろうか?
私はお金を使う習慣がない。いつも【もったいない】【使えるから買わなくてよい】を口にする方だ。経済的にはあまり良くない事だと理解している。お金を上から下へと循環させなければならないのだから。今日の隊長さんは私にお金を使う練習をさせたいのかもしれない。
そうする事で経済を回す事を実感してほしいのだろうか? 大きな金額ではないが経済を回す練習には良いはずだ。
「隊長さん。もしかして、なるべくお金は使った方が良い感じかしら?」
「ええ、できれば。姫様の予算がだいぶ余っていました。無駄に使うのは賛成できませんが、必要な物を購入するのであれば、できれば使っていただきたいと思っています。溜め込み過ぎはよくありませんので」
「確かに。溜め込み過ぎは良くないわ。ある程度は残して使う方が経済的には良いことだもの。わかったわ」
「経済的な事を理解していただいているのですね。それなら安心いたしました」
やはり、経済的な事を理解してほしかったらしい。隊長さんの言葉に納得しつつ、視点を変えてお店の中を覗いていく。なにか良いものはないだろうか? プチプラのアクセサリーや髪飾り、子供が使うようなものが置いてある。どうしようか? 3人でお揃いの物があっても良いのではないだろうか? 令嬢が使うような物ではないだろうが、今日の記念にはなると思う。私はそう決めるとお揃いで使えるものがないか見てみる。目立ったものにすると噂になるから良くないかもしれない。目立たないけど使いやすいもの。なんだろうか? 私は気にしないけど、彼女たちも持つなら可愛いものが良いだろうか?
お店の中を歩く。隊長さんはピッタリではないが私の近くにいてくれた。管理番は姪っ子ちゃんの近くにいて意見を求められている。困り顔が少し可笑しかった。
令嬢はカップを眺めている。気に入ったのだろうか?
「気になるのかしら?」
「はい。初めてのお店ですが色々なものが置いてあるので驚いています。一つのお店にこんなに種類があるなんて思ってもいませんでした」
「一つのお店では一種類しか買わないのかしら?」
「服飾ならドレス。食器なら食器だけですわ。カップとか飾り皿とか」
「そうなのですね。では、ご自分で選ばれないのですか?」
姪っ子ちゃんも興味津々だ。お貴族様の買い物は興味深いのだろう。私も気になる。
「勿論自分で選びますわ。大体はお店の方がお勧めを持って来てくださいますの。その中から選ぶことが多いです。気に入るものがなければオーダーになります」
「「おお」」
私と姪っ子ちゃんは驚きの声を上げる。あっさりとオーダーという単語が出てきた。私達はオーダーしようとも思わないから驚きだ。令嬢は私達の反応に驚き、言い訳のように理由を並べ始めた。
「いつもオーダーするわけではありませんわ。本当に気に入ったものがないときとか、特別なパーティーとか、そんな時だけです」
「なるほど」
「そうなんですね」
私と姪っ子ちゃんはもう一度納得の頷きをしていた。令嬢は恥ずかしくなってきたのか、自分の感覚の違いに驚いたのか、違うんです、と小さな声になっている。
「ごめんなさい。からかっているわけではないの。私はそんな事を考えたことがなかったから驚いてしまって。なかったら、ないなりの工夫をすればいいと思う方だから」
「ないなりの工夫ですか?」
姪っ子ちゃんが不思議そうだ。ないものをどうするというのか? と言いたいらしい。私は料理に例えて答える。
「材料が足りないとするでしょう? 替えのないものは仕方がないけど、別な材料でもつくれそうなら試しに作ってみるわ。うどんを作りたくてもうどんがなかったら、代わりにそばでもパスタでもできるでしょう? そういうことよ」
「代わりのものでも良いなら代わりを使うと言うことですね?」
「そうですね。外出するときはどうしても好きなハンカチを持っていきたいけど、洗濯していたら代わりのハンカチを持って行けばいいことですものね」
「そうね」
姪っ子ちゃんの例え話に私は頷いていた。私の話よりもわかりやすかった。今度から聞かれたときはハンカチに例えようと密かにパクリを決意する。そんな話をしながらもおそろいのものを探すが、なかなか決められない。高価なものである必要はない。みんなで思い出になればよいのだ。
今、ハンカチの話がでたがハンカチがいいだろうか? 目立たないし普段遣いできるものだ。そうそう質を見られるものではないと、思う。勿論令嬢が使うような良いものではないが記念に持っておくだけでも悪くはないはずだ。私はそう決めるとハンカチを見ることにする。まったく同じものはないので色違いに揃えることにしようと思う。
そこまで決めれば後は柄を選ぶだけだ。
「どれにしようかな」
私がハンカチを選び出すと令嬢が横に立つ。
「ハンカチを買われるのですか?」
「ええ。どれが良いと思う?」
せっかくだから内緒にして一緒に選んでもらおう。私はそう思うと令嬢にも意見を聞いてみる。そうすると姪っ子ちゃんもこちらが気になったのか寄ってきた。私は姪っ子ちゃんにも同様に意見を聞いてみる。2人はハンカチを前にして真剣に考えてくれている。私は道具は使えれば良い人なので細かいことは気にしない。
せっかくだ、皆で選んで決めると記念になって良いだろう。
ああでもない、こうでもないと言いながら選ぶことにした。





