久々の昼食会
テーブルの上には勢いあまって作った料理の数々がある。昼食会が久しぶりで嬉しくて、その気持ちが料理に現れたらしい。私は好きなだけ作れて満足していた。
私の満足具合を見ていた管理番が、微笑ましく見ていたのに気が付いて恥ずかしくなってしまう。恥ずかしさを誤魔化すように皆に声を掛けた。
「さあ、みんな座って、満足してもらえると良いのだけど」
「いつも美味しく頂いているので心配ないかと」
と、隊長さん。
「初めて食べるので楽しみです」
とは、管理番。
「私が食べた時は焼き芋だったので、他の具材と合わせるとどうなるのか楽しみです」
仕入れてきた人の感想は一味違った。
私は大学芋が楽しみすぎて返事はおろそかだ。ソワソワしながら席に着く。
「「「「いただきます」」」」
全員で声を揃え、お皿に一斉に手を伸ばした。
当然手を伸ばす先は別々で、私は大学芋一択。ご飯の前に甘いものはどうかと思ったけど、久しぶりに食べられると思うと、後にするという考えはなかった。管理番は焼き芋だ。どうやら商人から焼いたお芋さんは甘くておいしいに反応したらしい。甘いという言葉に逆らえなかった様子。隊長さんは芋ご飯だった。一番年下で男性な上に、(一応?)職業軍人だからか、主食を選んだ様子。商人はチーズと一緒に焼いたものを選んでいた。実演販売をするためか、家庭受けがよさそうな主菜ものを選んでいる。それならソーセージとのグリルが良いんじゃないかと思うけど、単にチーズ焼きの方が美味しそうに見えたのだろうか。私は一抹の疑問を抱きつつ大学芋をお行儀悪く、あーんと口いっぱいに頬張る。
すぐにはちみつの甘さとお芋さんの甘さが広がり、幸せな気分になる。その後から、お芋さんのパサパサ感が来て口腔内の水分を持って行かれる。その感触も懐かしくて嬉しくなる。
少しアグアグしながら口の中をお茶でレスキュー。今度は潤う感じに笑いを堪えながら、多幸感があふれてくる。
少しうっとりしながら大学芋を食べていたが、第三者目線で考えると自分がやばい感じになっていると気が付いた。大学芋を食べながら、うっとりしている子供とはいかがなものか。危機感を持って周囲を見回したが、周りも大なり小なり同じような感じだったので気にしない事にした。
隊長さんはスプーンでお芋ご飯を嬉しそうに食べているし、管理番は焼き芋をフーフー(学習したようだ)しながら皮をムキムキしている。商人はチーズ焼きを確認するように食べていた。時々目が光っているので彼には触れないでおこう。
私は心に誓うと隣にいる管理番に話しかける。
「管理番。美味しい?」
管理番は無言で首を縦に振っていた。モグモグしているときに声を掛けてごめんなさい。なんとか飲み込んだ管理番は、改めて私に笑顔を向けてくれた。
「美味しいですね。ひめさま。凄く甘くて驚きました。砂糖は入ってないんですよね? それなのにこんなに甘いなんて、庶民の味方です」
「確かにそうね。育て方も簡単だし。肥料もほんの少しでいいし、保存も利くし。調理法も簡単で、焼いても、蒸しても美味しいし。最強食材だと思うわ。良い事ばっかりね」
大好きなお芋さんが褒められたことに嬉しくて私も笑顔になる。
「姫様。肥料は少なくても良いのですか?」
「そうよ。多いと育たなかったりするわ。少ない方が美味しくなるの。不思議よね?」
隊長さんの質問にも私は笑って答える。最近の事は分からないが、私は幼稚園の体験学習でお芋さんの植え付けや収穫をした経験があり、その時に聞いた話だ。不思議に思って覚えていた。
その知識は大人になって始めた家庭菜園でも活用させていただいた。
私が懐かしいな、と思っていると隊長さんの疑問は止まらない、次々と質問が降ってくる。
「では、広い土地が必要になりますか? 栽培期間は長いのですか? 保存しやすいと言われていましたが一年ぐらいは平気なのですか?」
「土地の広さは分からないけど、ある程度で平気だと思う。小さくても作ることは出来るから。ただ、地面は柔らかくしておいた方が育ちやすいかな? 肥料は何回もいらなくて、植えて芽が出て少ししたら追肥で良かったような。そこは自信がないけど。私もうろ覚えだし。保存はさすがに一年は無理だと思う。洗わずに土が付いたまま紙に包んで、三か月くらいだったはず。ついでに、育てるときはこのお芋さんをそのまま植えても育つよ」
「そうなのですか?」
「種芋って言うの。このまま育つのはすごいよね」
「そうですか」
私がお芋さん自慢をしていると、返事を聞いた隊長さんは考え込んでしまった。どうしたんだろう?私が心配していると他にも気になった事があるようだ。
「土地は少なくても良くて、肥料も少なくて良い。作る上で他にも何かありますか?」
「そうね。強いて言えば、水はけのよい荒れた土地の方がよく育つと思うわ。もちろん、条件にもよるけど。この作物はね、飢饉の救世主とまで言われた作物なの。偉いでしょう?」
「飢饉の救世主?」
「そうよ。荒れた土地で水も少なくて、肥料もいらない。ほったらかしでも育つ。作るのにお金もかからない。美味しさや、大きさを気にしなければどこでも育つわ」
「なるほど」
隊長さんは私の話を聞いていい笑顔になった。
「その上美味しいとくれば、言う事はないですね」
「でしょう?」
私は自分の大好きなお芋さんが更に褒められたことに気をよくする。
「姫様は育てたことがあるのですか?」
「少しだけね。小さいころ苗を植えて収穫をしたことがあるわ。楽しいのよ。蔓を引っ張ってお芋さんを引っ張りだすの。大きいのが出てきた時は嬉しかったわ」
「今も小さいと思いますが。そんな体験もされているのですね」
私は自分のうっかりに気が付いた。今の話は私の前世の話だ。今の人生では体験していないが、どうせ国に問い合わせるわけでもないし、このまま走ってしまおう。
「そうよ。作物を育てる大変さと収穫する楽しさを知ることは良い事だと思うの。作物へのありがたさを実感する事が出来るでしょう」
「そうですね。作る人たちの有難さがわかります」
商人も同意してくれた。彼は仕入れで直接農家へ行くことが多いから、大変さを実感しているのだそうだ。晴れても雨でも仕事はあるから大変なんだと言っていた。
確かに雨でも室内作業はあるだろうから、休みはないのかも。
私はその言葉に同意し感謝しつつ、皆で有難くお芋さんを頂くことにした。
美味しいは正義と皆でお芋さんを噛み味わった。





