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第四十七話 危険な野宿の夜 ①

夕食の後になります。もちろんカイトはゆっくり休むことはできません。

 オリディアが満足した頃には日が完全に沈み、数キロもあった肉塊のほとんどは胃の中に収められていた。

 それだけでも驚きだというのに、当の本人のお腹は膨れることなく元の体型を維持している。身体の構造は一体どうなっているのだろうか。


「人外だからこそかもしれんな。それはそうとして……地味に辛かったぜ」


 夕食を終えたオリディアは『アイテムボックス』から小型のテントを取り出し、寝る準備に取り掛かっている。

 今ならば俺の独白も聞こえまい。だからこそ、心の内を吐露することができているのだ。


「美味しそうに食べてくれるのは作る側としては冥利に尽きるというものだが……俺自身が食べれないのは、ある種の拷問だな」


(ステーキなんて最後に食べたのはいつだろうか? 特売の日を何度も見逃してしまったせいか、最低でも一ヶ月以上は口にしていないような気が……)


 それはともかく、目の前で延々と美味しそうに食べている様を見せつけられるのは精神的にくるものがある。もちろんただ焼いていたわけじゃない。隙を見て少しだけつまみ食いをしてみた。しかし、現実は非情だった。


「はぁ……予想通りとはいえ、何も味がしないとはな」


 何だかんだで色々と便利だったりする『鎧化』というスキルだが、残念ながらデメリットの部分も悪目立ちしている。

 一人だけならここまで顕著にはならなかっただろうけど、今はオリディアと行動を共にせねばならない。暫くの間は辛抱する必要がありそうだ。


「『竜人の里』に辿り着けば、俺が料理する必要はなくなる……と思いたいな」


 オリディアのステーキの食べっぷりを思い出すと、また作ってくれと頼んでくる可能性は否めない。


「まっ、先のことを考えてもしょうがないな。今は無事に夜が明けるのを祈るとしよう」


 内心で思っていることを吐き出したおかげか、幾分か気が楽になってスムーズに思考を切り替えることができた。

 それと同時に、テントの中からオリディアの声が聞こえた。


「わたしはもう寝るけど、カイトは夜番しておいてねー」


「あいよ。ぐっすり寝てな」


「それと言っておくけど、勝手にテントの中に入ってきちゃ駄目だからね」


「分かってるって」


(命知らずな真似をするわけないだろうに)


 仮に入ってしまったら、俺の身体は文字通り粉砕されるに違いない。

 そんな玉砕する結末を受け入れる覚悟なんて俺にはない。玉砕覚悟で挑むとしたら、ワイバーンと一対一で戦った方がまだ希望が見えるまである。


「しっかしまぁ、夜明けまでに何も起きないといいんだけど……大丈夫かな?」


 昼間はモンスターに遭遇することはなかった。だが、夜はどうなのだろうか。

 オリディアが言うには、この辺りにモンスターはいないとのことだった。その言葉を信じるなら、特に心配する必要はないように思える。ただし、オリディアにも予期せぬ出来事が起こった場合は、その限りではない。


「警戒しておくに越したことはないな。焚き火は……消さないでおくか」


 下手したらモンスターを引き寄せてしまう要因になるかもしれないが、ダークネスパンサーなどといった、闇夜での戦闘を得意とするモンスターに対して備える為である。


「ふむ……後は特にやることがないな?」


 異変が起きるまでずっと待機する以外にすることは何もない。異変が起きないことに越したことはないが、そうなると夜明けまで暇になりそうだ。


「一人だけなら夜中だろうが移動していたんだけど、今は仕方がないか。ここは大人しく、異世界の星空でも眺めて時間を潰すか。って、若干曇ってるな」


 残念だと思いつつ、ふと周囲の茂みに視線を向ける。すると、茂の影が不自然に蠢いた。


(気のせい……じゃなさそうだな。まさかモンスター?)


 そんな俺の嫌な予感を肯定するかのように、雲が晴れて周囲の茂を月光が照らす。そして、二足歩行する何かが鋭い眼光をこちらに向けているのが見えた。しかも一体だけではなく複数体。


「ステーキ焼く匂いに釣られたか、あるいは俺がフラグを建ててしまったせいかな」


 数は多い。が、無駄口を叩く余裕はある。相手がワイバーンのようなとんでもないモンスターではないというのも大きいけど、初見ではないからだ。


「リザードマンねぇ。まさかこんなところで遭遇するとは思わなんだ」


 これと言って特に珍しいモンスターではない。その代わり、基本的には特定の環境に生息するモンスターであり、少なくとも今いるような山に生息することはない筈。


(本来の生息地は湿地帯か火山付近だが、この山の近くにどちらかがあるのか?)


 しかし、月明かりだけでは鱗の色が分からずどこに生息しているのかは判別できそうにない。ただ、そんなことは明日にでも確認すればいいことであり、重要なことではない。


「さっさと片付けないとな。こいつ等のせいでオリディアを起こしてしまったら、面倒なことになりそうだし……」


 機嫌を損ねる可能性が高い。それだけならまだしも、怒りの矛先が俺に向けられるとなったら無事に日の出を拝めるか怪しくなってしまう。

 というわけで、早急にリザードマンどもを殲滅しなくてはならない。


「ランクは『C−』でそこまで強くはないけど、地味に数は多いんだよな」


 思い返しながら呟き、リザードマンどもに向き直って一歩踏み出す。


「クルルルル……!」


 存在が露見しらと悟ったらしく、鳴き声を上げると一斉に駆け出して俺を包囲した。幸いなことに、オリディアが寝ているテントには注意が向いていない。


「俺だけが狙われるのは分からないが好都合だな。まとめて相手してやるぜ」


 月明かりに照らし出されるリザードマンどもと相対し、拳を構えつつリザードマンを改めて観察した。

 人間サイズの蜥蜴が二足歩行している姿はどことなくシュールに見えるが、殺気立っているから笑い飛ばすわけにはいかない。

 筋骨隆々の肉体に、天然の鎧と形容できそうな軽くて硬い鱗に加え、武器として十分活用できる細長く鋭い爪や牙の持ち主で、しかも動きがそれなりに俊敏なのだ。そして見た目を裏切らない凶暴性を兼ね備えている。

 一応、知能が低く魔法に弱いといった弱点を抱えているものの、それをカバーするかのように群れの数も多い。


「まっ、数が多かろうがどうってことはないな」


 『魔獣の森』やゾアとの戦いでそれなりの修羅場を潜り抜けてきたばかりだ。今さらランク『C−』のモンスターが群れたところで、動じることはない。


「もちろん油断もしねぇぞ。おっと」


「クルルルッ!」


 つい目の前のリザードマンが俺に躍りかかった。それを皮切りに、周囲のリザードマンも一斉に襲い掛かる。


「同士討ちの心配はしないのかよ。さすが知能が低いって言われるだけのことはあるな」


 振り下ろされる爪は身体を後ろに反らすことで躱し、右からの噛みつき攻撃は回し蹴りで迎撃し、左からの尻尾の薙ぎ払いはしゃんで回避。そして背後からの飛び掛かってきたリザードマンには、振り返りながらアッパーで顎を砕いてノックアウト。


「はっはー、余裕余裕って言いたいところだけど……思ったよりも数が多いなこれ」


 倒しても倒しても奥の茂から次々とリザードマンどもは補充される。どんどん密度が高くなり、次第に攻撃を捌き切れず被弾する回数も増えてきた。

 これではジリ貧。かと思いきやそうでもなかった。


「ちょっと痛い程度か。これならいくら攻撃を喰らっても問題なさそうだな」


 鎧の表面が僅かに削られるだけで、大したダメージではない。この調子なら、リザードマンどもに方ががジリ貧になるだろう。


「数が多いのは面倒だけど、苦戦からは程遠いな。このまま順調に倒していけば、全滅するのも時間の問題だぜ」


 圧倒的な戦力差に俺は勝利を確信した。だがしかし、次の瞬間にその確信は掻き消されることとなる。


「グロロロロロッ!!」


 唐突に、空気を震わせるような重低音の鳴き声が響き渡ったからだ。

嗅覚がある状態でステーキを焼いていたら、恐ろしい拷問になっていたでしょうな。

 さて、初登場のリザードマンですが生息地によって鱗の色が違います。他に特徴があるとすれば、ゲーム内では『弓使い泣かし』と呼ばれていたりします。俊敏な動きで矢が当てにくいのもありますが、急所以外では生半可な矢は鱗によって弾かれることが多かったのが起因していますね。

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