06.まやかしを断つ
分かれ道に差し掛かったシキ達は、ヴァーミリオンの支配下となっている職員を解放し戦力を削ぐため、魔術の研究所へと連なる通路を進んでいた。
事前に話し合った作戦を遂行するため、アイヴィは一人先行して研究室へと潜入し、職員の一人に襲い掛かる。
「なんだお前は!? ぐは……っ!!」
「んふっ、さぁて誰でしょう。って、知ってるでしょ?」
不意を突かれた職員は一瞬にして自由を失い、手足を拘束されながら床へ伏せられる。
アイヴィは洞穴で出会った顔ぶれから、対魔物用の主要な戦闘員は先んじて手を打てたと判断していた。
他に研究所側へ残っているのは研究に特化した非戦闘員と、彼らを監視する少数のヴァーミリオンの手下ぐらいであった。
突然の出来事に室内へ居た他の職員達が驚き、慌てて非常用の魔術や魔道具を使おうとした。だがそれをシキ達が阻止し、ネオンが触れ、ヴァーミリオンの魔術から解放して回る。
「お前達、この部屋に他の監視者はいるか!?」
「い、いえ彼一人だけです……!」
認識を変える魔術を解かれ本来の判断を取り戻した職員達に、ヴァーミリオンの手下である監視者の存在を確認。監視者全てを拘束し、一連の事情を室内の職員へ説明する。これが今回の作戦であった。
作戦は功を奏し、順調に研究室を解放して回るシキ達。残りの部屋とヴァーミリオンが待つとされる最奥部屋の位置を確認しながら、最適な径路を辿っていた。その時だ。
どこからか、巨大な魔物が暴れたような地鳴りが轟いた。
揺れに驚く一同であったが、事態はそれだけではない。
衝撃が収まると同時に、壁から溢れていた赤いエーテルの光が点滅を始めたのだ。その様子を見て、アイヴィは瞬時に察する。
非常用の魔術が、使われた。
続けざまに辺りから不安を煽る不快な警報音が建物を反響する。
警報音にかき消されそうな音の中から、僅かに複数の足音が聞こえたのをアイヴィは聞き逃さなかった。
「マズい……。みんな、すぐにそこの備品室に隠れてっ!」
危機を感じたアイヴィはシキ達を呼び、すぐに人目が無い場所を探し、近くへあった備品室を指差す。
最初に辿り着いたレンリが扉を開けようとした。だが、無情にも扉は開かない。
「鍵が掛かっているぞ! だが鍵穴などどこにも……ッ、結界魔術か!!」
「ネオン、扉に触れろ!」
「…………!」
「待って、バレるから壊しちゃダメ!」
施錠に結界魔術が張られていると聞いて、シキはネオンに助力を求める。
すぐにでも身を隠さなければならない状況だが、アイヴィはネオンの前に割って入った。
そのまま扉の前を目指し、立っていたレンリに一歩下がらせる。
そして勢いのまま飛び掛かり取っ手を掴むと、扉にぶら下がったまま、逆の手に持った短剣を振り下ろした。
甲高い金属音と共に、変化は訪れる。
「ッ、開いたぞ!」
「一瞬だけエーテルの流れを断った、みんな急いで!」
魔術の切れた扉は、ぶら下がったアイヴィによって引き剥がされる。
結界魔術によって修復されようとする扉へさらに追撃し、入口には人一人が通れそうな隙間が生まれていた。
警報音と赤いエーテルの点滅が、一同の不安を煽る。
急いで一人、また一人と備品室へ入り、最後にアイヴィが身をねじり飛び込む。
間一髪。足音が警報音の中に消えたのを確認すると、シキ達は安堵の溜め息をついたのであった。
突然の事態を前に、作戦を立て直す必要が生まれる。警戒の強まった研究所内でどう行動するべきか、再び話し合おうとした。だが、想定外はまだ終わらなかった。
「あなた方は、何者ですか……!?」
警報音を聞いて、備品室から外に出ようとしていた女性の職員と鉢合わせする。
この状況であれば間違いなく疑われると、シキは咄嗟に弁明をしようとする。しかしそれよりも先に、ネオンが手慣れた様子で職員の背後を取り彼女に触れた。その瞬間だ。
「えっ!? ……あっ!!」
職員に掛かっていた魔術が消え、彼女の姿が歪む。
現れたのは、紫色の肌をした少女であった。




