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05.迷える来客

 シキ達が扉の奥に進んでから、しばらく経った後。

 静まり返った洞穴の片隅で、その少女は気を失っていた。


「……きろ。おい、起きろって」


 ボーっとする意識の中に、力強い声がこだまする。

 馴染みのある声を聞いて、朦朧としていた感覚が少しずつ回復していく。


 どうして眠っていたのか。直前にやっていた事と言えば確か――。


(あれ、ボク達はコアを追いかけて……)


「おい起きろヅッチ。いつまで寝てる気だよォ!」


「はっ、アルパインさん! おはようございます。そうだ、カンパネラさんを探さないと」


 アルパインの筋肉質な腕に抱かれながら、ヅッチは見知らぬ場所で目を覚ます。

 シャルトルーズの店から飛び出した仲間を追いかけて、黄の国ナルギットを駆けた記憶が蘇る。


「あらヅッちゃんおはよう~。何か探しに行くのかしら? 私もお手伝いするわっ」


「そうでした。カンパネラさんには追いついて、そのあと確か……」


 一際エーテル感知に優れた目を持つヅッチにとって、はぐれた仲間を探す事は造作もない。だが問題はその後であった。

 街中で放たれた植物の魔術を前に困惑しながらも、するりするりと身をこなし中心へ近づくカンパネラと、そんな彼女を必死に追いかける仲間達。


 やっとの事でカンパネラに追いつくと、彼女の目指した先から膨大なエーテルが溢れ出す。

 黄のエーテルコアが放つ光を浴びて、目が覚めたら四人とも別の空間に飛ばされていたのだ。


「うう、そうです。強烈なエーテルの光を浴びて目が眩んでしまったのでした。それで、ここはどこなのです?」


「んなもん分かんねえよォ」


「相当危険な場所。ってのは確かネ……」


 薄暗い洞穴の影から誰かが近づいて来て、それが仲間のスリービーと分かった時少し安堵した。

 だが彼女の言葉を聞き、ヅッチはすぐに緊張感を取り戻す。


「向こうの連中はどうだったよォ?」


「追ってた例のコア持ち達が去った後、別の人物が扉の向こうから来たノ。そのままぐったりとした彼らを連れて、扉の中に戻っていったヨ」


 どうやら自分が気を失っている間に、何かあったらしいと察する。薄暗い洞穴の、さらに岩陰になるような場所へ留まっている状況から見るに、自分達は何かから隠れていたのだろうか。


 遅れを取った負い目と自分抜きで話が進んでいた疎外感からヅッチは必死で状況を知ろうとするが、彼女があれこれ考えている内に事態は目まぐるしく進んでいく。


「もう誰も居ないのでしたら、隠れなくても大丈夫かしら~。さて、あの扉の向こうに行けば、コアが手に入るのね。あぁ、こんなにワクワクする時は~楽しみの~~~」


「カンパネラさんストーップ!!」


 例によって、カンパネラは一人飛び出し扉を開けようとしていた。


 未だアルパインの腕の中に包まれていたヅッチは反射的に起き上がる。カンパネラの空間魔術は強力だが、本人が勢いで無自覚に発動するため、周囲への影響が分からず危険なのだ。

 本人のエーテル消費が大きい事も含めて、状況が掴めていないままの使用は絶対に阻止せねば。


 カンパネラを追って扉の前まで走るヅッチを見て、アルパインとスリービーは安心した。

 他三人に比べて長く気を失っていたヅッチであったが、あの様子であれば心配は無さそうだ。


 巨大な扉の前で押し問答する二人に遅れてアルパインとスリービーも合流し、今後の目的について相談する。


「このまま洞穴に居たって仕方ねーだろォし、このまま扉の奥に進むよな?」


「コアを求めて~私達はどこまでも~~~」


「それに、ここに居たって仕方ないものネ」


「コアもですが、出口も見つけないとダメです」


 三人はアルパインの提案に同意する。このまま留まっていても何も変わらない。

 待つだけでは意味がないと知ったから、四人は世界中を巡っているのだ。


 意を決しアルパインは巨大な扉へと力を入れる。しかし、扉はビクともしなかった。


「どうしたノ?」


「どんだけ押しても、開かねーんだよォ」


「アルちゃんったら。扉を開ける前にちゃんと叩いてって、シャルトルーズさんにいつも言われてるじゃないっ」


「んぁ? そーいやそうだったな。でも叩くもんなんて、どこにも付いてねーぞ」


「こんな場所へある扉に、付いている訳が無いです」


 普段から勢い良く扉を開けては、シャルトルーズに小言を言われているアルパイン。

 シャルトルーズの店では来客の目的を知るために、装飾の金具を叩いて、決まった合図をしてから入るよう伝えている。もっとも彼の店では、防犯用の結界魔術と連動しているから。という理由もあった。


 当然アルパインも、合図を送ったら開けて貰えるような場所でない事は肌で感じている。だからカンパネラの発言からは、案だけを頂く事にするのであった。


「ったく不親切だな。このデカさなら普通に叩いても聞こえねーだろォし、だったらよォ。……不揃い巨人の(アンバラちゃん)右ストレートォォォ!!」


 開かないなら、壊してしまえばいいじゃない。

 細かい事は、起こった後に考えればいいじゃない。


 アルパインの右目のコアから緑のエーテルが溢れ出し、彼女の右腕を頑強で巨大な岩の腕へと変化させる。

 慌てて止めに入るヅッチとスリービーよりも先に、けたたましい轟音が、赤く光を放つ洞穴へと響渡るのであった。

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