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14.不可侵への侵入

 シキが謎の眼帯女と言い争っている少し前。

 敵の住処へと続くとされる路地裏へ再び訪れたオームギとレンリは、今一度現れた理由を話し合う。


「再び路地裏まで戻って来たが……オームギ、何か策はあるのか? ネオンが居ると出来ないと言っていたが」


「当たり前でしょ。私が百年以上、あの砂漠でどうやって人目を避けていたか。よーく見てなさい」


 そういうとオームギは橙のエーテルコアへ触れ、魔術を発動する。

 一見して何も変化は無かったが、肌に触れる空気が変わったのをレンリは感じ取っていた。


 それは普段オームギから僅かに感じていたエーテルの感覚。

 今となっては彼女のみが扱える、一族を守るための魔術。


「エルフの魔術、認識阻害か……!」


「そ。あの子が居ると存在阻害で見た目を誤魔化すぐらいしか出来ないから。でも今の空間阻害で、人払いは出来たって訳」


「だが昨日、数時間ここに居ても誰も通らなかったじゃないか。今の人払いになんの意味がある?」


「今のは下準備よ。これで心置きなく暴れられる! さぁ辺りのエーテルを狩りなさい、一期狩り(ストロ・ベリー)!!」


 人払いを行い、部外者の接触を断ったオームギは改めて路地裏へ現れた理由を示す。

 オームギは自身の持つ魔道具『集断刀(クラン・グラン)』を振り被ると大鎌状へ変形させ、何もない路地裏の空間を切り裂いた。


 直後、何もなかった空間には赤い果実のようなものがが実るように現れると、球体となって地面に転がった。現れたいくつもの赤い球体を見てオームギは確信する。


「やっぱり正解。仮にも黄の国なのに、ここら一帯だけ不自然に赤のエーテルが多い。ほらレンリ、貴方の記憶は間違っていなかったでしょ?」


「確かにこれで確率ははるかに高まった。だがそれなら皆の居る前で使い、今の説明しても良かったのではないか?」


「言ったでしょ、ネオンが居るとダメだって。一帯のエーテルが変に消えるってのもあるし、何より人払いしてないと私の魔術はどれも目立つのよ」


 昨日に引き続きネオンが居ると、彼女のエーテルを吸収する体質によって痕跡となるエーテルが消え調査が難航する可能性があった。そして何より、人払い無しでの魔術使用はオームギが避けたかったのだ。

 他に二つと無いエルフの魔術は、見知らぬ第三者の記憶に残ってはならないのである。


 オームギの魔術と浮き出された答えを見て、流石のレンリも自身を責める事より目の前の結果を受け入れる事を選ぶ。彼女の言う道の先へ、敵の存在があると信じて。


「……なるほどな。お前の言う通り、確かにここを通っているのは間違いないだろう。それで、次はどうする?」


「え?」


「昨日あれだけ探したが、結局奴らへと至る道は見つからなかった。だがあるのだろう? 策とやらが」


 だがレンリに策を問われ、オームギは思わず間の抜けた生返事をしてしまった。

 諦めようとする彼を否定したくて、オームギはまだ試していなかった策を全て行う気でいた。


 しかし最初の案で答えは現れ、彼の気も変える事が出来た。故に、その先については……。


「……も、もちろん? あるに決まってるわ! ここらのエーテルを狩って狩って狩りまくって、怪しい場所を見つけ出すのよ!」


「通った痕跡を見つけるだけで、それ以降の事を考えていなかったのか……」


「違うわよ! 特に密度の濃い場所を探せば、あとは賢人の知識を総動員して暴いてやるんだから! 分かったら回収したエーテルを拾いなさい!」


「おい、この塊化したエーテルの山をどうするつもりだ? まさか荷物持ちをさせるために、俺を連れ出したのではないだろうな!?」


「話は最後まで聞きなさい……! 一通り調べ終わったら元へ戻すから、一旦集めておくって訳。こんなのゴロゴロ転がってたら邪魔だし、私のコアはエルフのものしか吸収出来ないし……」


 行き当たりばったりでもどうにかするのが賢人の知識。という根拠のない自信の元、オームギはレンリを使いっ走る。自身も足元にあった塊の一つを手に取り、何か妙案はないか試行を巡らせようとした。その時だった。


 パクッ! と頭上から白い影が現れ、影は手に持っていた赤いエーテルの塊へと飛びついた。

 その姿を見て、オームギは軽く口を尖らせて注意をした。


「わっ、ちょっとキーちゃん食べないでよ……貴方全部食べられないでしょ?」


「その白蛇、入国してから見かけないと思っていたら、帽子の中に隠れていたのか。というか、そのキーちゃんってのはなんだ」


 オームギがシキ達と協力し討伐した巨大な白蛇。飲み込んでいた橙のエーテルコアを抜き取られ小さな元の姿に戻った白蛇は、オームギが保護する形で旅に同行していた。だが偶発的に持ち合わせたエルフのエーテルやその記憶から、オームギは過保護に対応していたのだ。


「この子も私同様目立つし、はぐれても困るから帽子の中に入れてるって訳。それに白蛇ちゃんなんて呼びづらいでしょ。キィーって鳴くからキーちゃん。可愛くない?」


「……厳密に言えば蛇は鳴いているのではなく、音を立て空気を振動させているのだがな」


 発声器官の無い蛇が鳴く事は、自然に考えればあり得ない。使い走りにされたレンリは軽く言い返す形で彼女の発想をチクリと刺すと、再びオームギは動揺を隠せないでいた。


「なっ、知ってますけど? 私、賢人とか呼ばれているんですけど? それにこの子は本当に鳴いたのよ。じゃないと貴方の動物の声が分かるって話も、辻褄が合わないでしょ?」


「いや、俺は厳密に言えば声を聞いているのではなく、空気を伝ったエーテルの感情を読み取っているのだが……」


「キィーーー!!」


「ほら鳴いた!!」


 誇り高き賢人の知識を総動員してレンリの小言への言い返しを考えていると、まるで空気を読むかのようにキーちゃんは鳴き声を上げた。

 喜びと共にドヤ顔でレンリの方へ振り向くオームギであったが、当のレンリは白蛇の鳴き声を聞き取ると、焦りを見せて不意に背後の建物の屋根上へと視線を向ける。


「言っている場合か! 向こうの屋根の上、何か居るぞ!! ハロエリ、ハルウェル、捕えろ!」


 人払いをした空間に立ち入った何者か。白蛇は帽子から出た直後に二人の背後から覗いた視線に気づき、その存在を伝えていたのだ。

 白蛇の警告に気付いたレンリもすぐさま相棒達を向かわせ、不可侵への侵入者を追撃する。

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