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31.立ち塞がる者達

 圧倒的な戦力も、やっと一人を攻略出来たのみ。シキが戦況を確認すると、倒れたスワンプの奥でレンリが砂嵐を放とうとしているのが見えた。そしてその矛先はシキではなく、スワンプへ術を放ったばかりのエリーゼに対してだ。


 シキは慌てて両手から炎を放ち、エリーゼへと襲い掛かろうとする攻撃を無理やり逸らす。


「させるかぁ!!」


「チッ、小癪な……ッ!!」


 術を放つレンリの手は、シキにより真上へ変えられた。あらぬ方向へ放たれた砂嵐は天井を破壊し、多量の砂煙が降り注ぐ。そして砂の積もった地面には異変が。辺り一帯に輝く砂は橙の光をさらに強め、そこから大量のエルフ型の魔物が生まれる。


 白蛇の到来もあって敵勢力である獣型の魔物達は既にほぼ壊滅状態であり、更なる援軍でシキ達は優位に立てると思った。だが、新たに生まれたエルフ型の魔物達の様子がおかしい。


「……!? こいつら……!?」


 エルフ型の魔物が襲い掛かったのは、何とレンリを攻撃したシキであった。オームギを助けるため、一時は味方の戦力となっていたエルフ型の魔物達。だが戦況は一転し、彼らはシキやエリーゼへ襲い掛かる。


 それだけではなかった。敵の刺客であるレンリやミネルバでさえも彼らは襲い掛かっていたのだ。再び現れた砂漠の亡霊達。彼らは留まる事無くその場にいる全て者を攻撃し始める。


「何がどうなっている……!!」


 敵も味方も関係ない。エルフ型の魔物は互い同士すらも攻撃対象とし地下空間のあらゆる箇所で闘争が行われていた。それはまるで、終末の日の出来事すら想起させるような醜い争い。エルフと人が殺し合った、忌まわしき過去の再来。


 シキは魔物の攻撃をあしらいながら周囲に目を向け、戦場に何が起きたのか確認する。何故、オームギですら襲い始めたのか。何故、魔物同士でさえも殺し合っているのか。


 答えは目の前にあった。ラボンの洗脳により、自我を失い膨大なエーテルを放出しながら暴れ狂う巨大な白蛇。白蛇のエーテルに当てられた魔物達は間接的にラボンの洗脳を受け、敵と味方の判別が付かなくなっている。


 白蛇の意識が完全に奪われたその時、この戦いは最悪の形で幕を下ろすのだ。


「不味い……! ネオンッ!!」


「…………!」


 ラボンの周囲には刺客達や駒の獣に加え、洗脳を受けたエルフ型の魔物達も立ちはだかっていた。今術者本人と狙う事は困難と考えたシキは、白蛇の洗脳を解く事を優先する。

 この地下空間において現状洗脳の解除が行えるのは、敵を除けばエーテルを吸収するネオンのみ。シキは彼女を抱き上げ、暴れる白蛇へ近づき彼女の手を触れさせようとする。


 橙のエーテルコアによってこの地に眠る膨大なエルフの記憶を吸収した存在。そのエーテルが持つ性質は、生命の限界を引き延ばし知識と歴史を蓄える力を与える、長寿の血。


 乱れる戦況の中、物の攻撃をかいくぐりシキとネオンが近づいて来るのをラボンは視界の隅で捉える。彼らにこの力を渡す事も、壊させる事もさせるものか。


「さぁ、長寿の血よ! 今この場に跪きその力を渡すのです!!」


 ラボンはより強力にエーテルを放出し、白蛇のエーテルへと干渉し洗脳を進める。ラボンの洗脳が済むのが先か、シキ達が触れ解除をするのが先か。一分一秒を争う極限の状態の中で、白蛇は悲痛な叫び声を上げた。



「ギイイイイイイィィィィィ!!」



 空間が揺れ、砂漠地下の至る所から砂が崩れ落ちる。エルフのエーテルによって生み出された地下空間が、極度の戦闘と干渉により崩壊を始めていた。このまま戦い続けては、刺客も、シキも、オームギも。


 だが崩壊を止めるより先に、触れなければならないものがある。長寿の血。エルフの記憶。そして橙のエーテルコア。どちらにとっても、譲る訳にはいかない存在。


 相手に先を越されてしまっては。白蛇の叫びを聞いても、シキもラボンも止まらない。崩壊する地下空間の中で、そんな双方の争いを止めたのは意外な二人であった。


「シキ、やめて!!」


「ラボン、そこまでだ……ッ!!」


 シキの目の前へ、その刃をエーテルにより生み出した大鎌を突き出すオームギ。そしてその隣では、片手を前へ突き出しラボンをけん制するレンリ。


 仲間であったはずの二人が、暴走した白蛇を庇うように立ち塞がっていた。

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