幕間 『憎悪に嗤う』
"勇者"天月伊織が脱走してから、数日後。
オンリィン王国。
王都ブレイオンの中央に鎮座する王城内では、未だ慌ただしく後処理が行われていた。
勇者の脱走に加え、魔石と国宝を奪われた。
更には勇者の後を追った部隊は、一名を残して全滅している。
そこに停止した奈落迷宮への調査も加われば、処理しなければならないことは膨大だ。
そんな王城の中で、一命を取り留めて治療を終えたリューザス・ギルバーンは、国王の命によって謁見の間に呼び付けられていた。
右腕を失い、体のバランスが取れなくなったリューザスは、覚束ない足取りへ謁見の間へと足を踏み入れる。
そこで待っていたのは、リューザスの失脚を狙っていた貴族による追及だ。
何故、勇者は逃亡したのか。
何故、宝物庫の扉は開いたのか。
何故、追撃部隊は全滅したのか。
その問いに、リューザスは粛々と答えた。
答えたと言っても、自分に都合の悪いことは一切隠した報告ではあるが。
それでも納得しない貴族達が騒ぎ立てるのを無視し、リューザスは国王へと視線を向けた。
「此度の失態、どのように責任を取るつもりだ?」
騒ぎ立てる貴族達を制し、最奥部の玉座に腰掛ける国王、グランシル・クロイツ・オンリィンが重々しく口を開いた。
「勇者を我が手で捕らえる――私に出来るのはそれだけです」
リューザスは、正面から国王を見据えながら言った。
三十年前の戦争で勇者を失い、騎士の中で最強の実力を持っていたルシフィナも離反した。
あれ以来、王国の国力は落ちており、戦力も大幅に下がってしまっている。
未だ、かつてのリューザスやルシフィナに及ぶ人材は現れていない。
――俺以外に、あいつを捕らえられる人間がいるとでも?
言外に、リューザスは国王にそう告げる。
しばしの沈黙の後、国王は言った。
「……リューザス・ギルバーン、貴様には十日間の謹慎を言いつける。謹慎が終わり次第、確実に勇者を捕らえるのだ。戻ってくる意思がないのならば、殺しても構わん。他国に勇者の存在が露見するよりも早く始末を付けるのだ」
「はっ」
勢い良く返事し、リューザスは謁見の間から出て行った。
「陛下、何故リューザスを罰しなかったのですか!?」
彼が去った後、残っていた貴族が国王へと抗議した。
あれだけの失態を犯したのに、何故なにもしないのかと。
「老いたとはいえ、アレは英雄と肩を並べた男だ。処断すれば、民からの批判は免れまい。お前如きにそれが抑えられるのか?」
「…………」
国王の言葉に、貴族は答えられない。
「ここにいる者達も、分かっておろう。今の王国にはあの男が必要なのだ」
確かに、今の王国に置いて、リューザスの存在が大きいのは事実だ。
貴族達も納得するほかなく、この場は解散となった。
◆
「クソ、クソ、アマツ、アマツ、アマツ……ッ!!」
自身の工房へ戻ったリューザスは、抑えていた怒りを噴出させた。
机に並んでいた機材をぶちまけ、力任せに机を殴りつける。
滴り落ちる拳の血すら、憎くて仕方ない。
それも全て、天月伊織――アマツのせいだ。
「捕らえるだぁ? 殺すに決まってんだろうがよォ!」
許さない、と何度も何度も、呪いのように口ずさむ。
「あの女も許さねえ」
王国最強の魔術師であるリューザス・ギルバーンを知らないだと?
ふざけているにも程がある。
どいつもこいつも、アマツアマツアマツアマツ。
気に食わねえ、気に入らねえ。
「顔は覚えた。魔力も覚えた。逃さねえ。次は全力で相手してやる」
一度目は不意を突かれた。
二度目は準備が足りなかった。
ならば三度目は万全を期して、叩き潰す。
「何が復讐だ。ちげぇよ、復讐するのは俺だ。俺が、お前らを後悔させて、殺してやるんだよォ……!」
自分を見下した、あいつらの表情。
それが苦痛で歪み、後悔し、泣き叫びながら命乞いをする様を想像して、リューザスは嗤う。
後悔する?
謝罪させる?
殺してやるだぁ?
それは全部、こっちの台詞だ。
「位置からして、あいつらが向かうのは連合国だろう。くく、手を打っておくか」
どこへ行こうが逃がさない。
醜悪な笑みを貼り付けたまま、リューザスは伊織達を殺す為の準備を始めるのだった。
というわけで、一章終了です。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
二章から、元魔王と組んだ元勇者の復讐の旅が始まります。
これからもよろしくお願いします!
22:00に一章の登場人物紹介も投稿しますので、よろしければどうぞ。
ご感想および評価の方、お待ちしております。
それでは失礼します。




