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告白

ブクマ&コメント&レビューありがとうございます。

凄く励みになります。


ハンナにも母にも付き添われず、街を歩くというのは私にとって初めての経験だ。

仕事着で出て来た今日の服装は、ふんわり膨らんだ長袖のブラウスに、足首までのフレアースカート、それに合わせたふくらはぎまでの編み上げブーツで、街を行き交う人々の中で、浮いてはいないかと気になったが、ネリーもチェックのワンピースに編み上げブーツと、カジュアルな格好なので、どうやら問題なさそうだと胸を撫で下ろす。


慣れた様子で目的の場所へ向かうネリーは、様々な話題を振っては楽しませてくれる。

高等学院に通っていた頃、花嫁学校へ通う生徒達が、こんな風に仲良く街を歩く姿を遠くから眺めては、私には無縁の世界だと決め付けていたのを思い出す。

けれど女の子同士で出かける事には、やはり憧れていたのだ。

思いがけず誘ってくれたネリーには、感謝したいと思う。


暫く歩いて着いた店は雑貨屋で、比較的安価な値段で買えるリボンやアクセサリー、小物入れやぬいぐるみなどが所狭しと並び、実は可愛い物が大好きな私には、夢の様な場所だった。

端から一つずつ手に取っては、瞳を輝かせる私の様子を見て、ネリーがお揃いで何か一つ買おうと提案する。

目移りして中々一つに絞れない私に、ネリーは色違いのリボンを選んで、それを失礼な態度のお詫びだと言ってプレゼントしてくれた。

それでは悪いから自分の分は払うと言う私に、それは今度来た時にしようとネリーは言う。


「ナターリア様、また付き合って下さい。お兄様と一緒だと、こういう店には来られないから」

躊躇いがちに私を見上げるネリーは、やはり子犬の様な可愛さを持ち合わせ、思わず全てを許してしまいたい気持ちになる。

「ナターリアと呼んで。私こそ連れて来てくれてお礼を言いたいわ。可愛い物がいっぱいで、凄く楽しいもの」

「本当!良かった!あんな失礼な態度を取って、口も聞いて貰えないのではないかと、内心ヒヤヒヤしていたの。でも、エイダムがそんな人を選ぶ筈無いと思って、お兄様に相談したら、やっぱり思った通り優しい人だったわ」

パアッと明るい笑顔を向けるネリーの後ろに、見える筈の無い尻尾がフリフリしている錯覚を覚え、自然と笑みがこぼれる。


「アダムは立派な人だけど、私はそんな大した人間では無いのよ。むしろアダムの婚約者がこんな私で、貴女に悪いと思っているわ。ごめんなさいね、貴女はアダムの事が好きなのに‥」

「あ、あの、それなんだけど、えーっと‥きちんと説明した方がいいみたいだから、本当の事を話すわ。実は‥私が好きなのはエイダムではないの。エイダムの事は‥フリをしていただけというか‥」

「ええっ!?それは、どういう事?」

思わず大きな声が出て、店内の客や店員達からジロジロと見られる羽目になる。

慌てて口に手を当てると、ネリーも人差し指を口の前に立てていた。


「驚かせてごめんなさい。でも、こんな所で話す内容ではなかったみたい。もし、良かったらなんだけど、この先のカフェに場所を変えてもいい?」

口に手を当てたままの私は、無言でコクコクと頷く。

注目を浴びた私達は、そのままそそくさと店を後にして、二軒隣のカフェへ場所を移した。

アダム達と別れてそれ程時間は経っていないので、『あまり長い時間』にはまだならない筈だ。

一応時間を気にしつつコーヒーを頼むと、ネリーは躊躇いながらも口を開いた。


「あのね、ナターリアにもエイダムにも、本当に悪い事をしたって反省しているの。特にエイダムには、随分と迷惑をかけてしまったわ」

「フリの事?好きな人がいるのに、どうしてそんな事を?」

「それは‥少しでも気にして欲しかったから‥。いつまでも子供扱いで、一人の女性としては見て貰えなかったの。でも、結局相手にして貰えなくて、気の乗らない縁談を強引に進められてしまったわ‥」

それだけ話すと大きな瞳に涙を溜めて、ネリーは俯いてしまった。

こんなに可愛いらしいネリーなのに、上手くいかない事なんてあるのか?と、不思議に思ったけど、気の乗らない縁談となると、それは話が違う。

政略結婚が当たり前の貴族社会とはいえ、想う相手がいるのに無理強いするのは賛成出来ない。

なんとか力になれない物かと、意気込んで口を開いた。


「ねえネリー、貴女の縁談は断る事が出来ないの?アダムから少しだけ聞いたけど、家同士のしがらみに貴女が犠牲になるのは賛成出来ないわ。きっと正直に話せば、貴女のお兄さんだって、力になってくれるのではないかしら?」

するとネリーは無言のまま、フルフルと首を振った。

そして全てを諦めた力の無い瞳で私を見ると、思いもよらない言葉を口にした。

「‥それは‥絶対に無理なの。だって、私が好きなのは‥お兄様だから」

一瞬耳を疑ってはみたけれど、聞き間違いでは無かった。

その証拠に隣の席から聞こえて来る会話は、はっきりと聞こえる。

どういう事なのか理解出来ずに、私はポカンと口を開けたまま、何を言ったらいいのか分からなかった。

読んで頂いてありがとうございます。

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