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待ち合わせは爆発とともに

「お、ギヨ。お前もレアメアに呼び出されたのか?」


 国のシンボルである噴水の前。

 ギヨメルゼートとアゼルパインが挨拶を交わしていた。


 呼び出したのはレアメア。とはいえ、もちろんそんなのは口実であり、二人きりでデートをさせるためのものである。


 その物陰でこそこそと隠れて様子を伺うのはレアメア、フルシェ、パルパの3人。

 もちろんデバガメのため(ギヨメルゼート公認)である。


(よし)


 2人が合流したのを見て、フルシェはぐっと小さくガッツポーズをした。


「ここまではフルシェ様の予定通りですね」


「ええ。しかし、驚きました。

 あの2人、待ち合わせという行為ができたのですね」


 てっきり『余を待たすとはなにごとだ』とか暴れだすのではないかと思い、念の為にこの場を封鎖してあったのだが。

 

 戦慄を隠せぬフルシェとパルパに、レアメアが笑いかける。


「はじめてのおつかいじゃあるまいし、心配しすぎですよ。

 ああ見えて、アゼル様はまともなお方です。常識の理論が斜め上なだけで」


 レアメアは笑うが、


「(おい、フルシェ殿。”まとも”の定義とはなんだったか……)」


 げんなりした様子でパルパがうめく。


 さもありなん。

 冒険者試験とかいう名目で、城を蹂躙された者からしてみれば納得できぬところであろう。


「ええい。(わらわ)に聞くな」


 ともあれ、まだ作戦は始まったばかり。

 気を抜くにはまだまだ早いのである。


「まずはいつもと違う服装を褒めさせたいが」


 フルシェたちが用意したのは、清楚なワンピース。

 いつもの黒をメインにしたゴスロリとは正反対の、シンプルかつ着用者の純粋な魅力を引き出す衣装だ。


「素晴らしいチョイスです。フルシェ様」


 元の素材がいいのもあって、非常に可愛らしい。

 フルシェが男だったら思わず抱きしめたくなるほどだ。


 いまのギヨメルゼートは、本性さえ知らなければ誰がどう見ても愛らしい少女である。


 完璧だ。まずは勝利条件の第一段階はクリア。

 と思ったのだが、


「……。フルシェ殿? 人間たちにとってあの防御力の低そうな服は何の意味があるのだ?

 もう少し、攻撃力を追加したほうがいいのでないだろうか。トゲトゲしたボンデージ的な意味で」


 訂正。魔王にはわからないらしい。

 ええい。デートの衣装に攻撃力(物理)を求めるんじゃない!


「……義姉上、パルパ殿をこの作戦に参加させたのは間違いでは?」


 どう見ても恋愛とか無理げなタイプである。


「し、失礼な! 我だって恋愛くらい経験があるわ! 偉大なる大魔王様への敬愛は――」


 フルシェは思った。

 いったい何故、そこで意地を張ろうとするのか。あと敬愛と恋愛は違うだろうに。


 まあ、いい。今はいい。

 ……ともあれ。今回の作戦目標はギヨメルゼートの恋愛成就。

 次の作戦――あの朴念仁のアゼルパインに服を褒めさせるのは至難の――


「ギヨ、なんか可愛いと思ったら、新しい服か? いつものも悪くないが、そういうのも似合ってるぜ」


「ほぁっ!?」


 ぼっ!!! ちゅどおおおん!!! ギヨメルゼートが顔を赤くしたと思ったら、爆発を起こす。


「衛生兵! 衛生兵! いまの爆発でけが人は?!」


「出ておりません、姫様!」


 不意打ちの一撃!

 ああ、噴水前を封鎖しておいてよかった!


 待機させておいた兵士たちに現状を確認させる。

 指向性のある爆発でもなかったためか、周囲の被害はゼロ。アゼルパインに至っては『ちょっと風が吹いたかな』くらいのものである。

 

 さすが普段、殺し愛をしているだけあるというところか。


 そーっと噴水前を覗き込むと、ゆでだこみたいに顔を真っ赤にしてわなわなと震えるギヨメルゼートの姿!


「まあ、可愛らしい」

 

 レアメアがふふっと微笑ましいものを見るように笑顔を浮かべるが……


「服を褒められただけでこれ……だと……っ!?」


 作戦完遂までの道のりは、まだまだ長いというのに。 フルシェは目の前が暗雲に閉ざされるのを感じた。


「わ、我々はこの恋路を見守りきることがでこるのか……っ!?」

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