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【完結】転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった  作者: よぎそーと
その3 懐かしきというほどでもない故郷のためというわけでもなく

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レベル46 大人しくしてもらうための消費もバカになりません

 それからは慌ただしかった。

 四人を連れて領主の館へと戻ったはいいが、すぐにモンスター退治というわけにはいかない。

 館の仕事が優先だし、当面入れ替わりで町に戻っていく事になる。

 その間の仕事は各自が分担していく事になる。

 ここでトオルが連れてきた四人をどうするかとなった。

 一応新規で契約した事になってるので、作業をさせないわけにはいかない。

 遊ばせておくだけの余裕はないのだから。

 とはいえ、まだ子供と言って良い者達だ。

 出来る事も限られてる。

 それらを引き受けるメイド長と下男は、「さてどうしたものか」と思案顔になった。

 やり方を教えて仕事を回すしかないのだが、それはそれで大変である。

 仕事に慣れてる人間がほとんどいないのだから、どうしても手が回らなくなる。

 しばらくの間、領主の館は機能を停滞させる事となった。



「それでも、奥方がいるよりはいいんだよな」

 夕食を食べながらトオルはため息を吐いた。

「どんだけ邪魔だったんだか」

「兄貴、それ言っちゃ駄目だよ。

 思い出すだけで腹が立つ」

 同じ食卓についてるサツキとレンも、「うん、うん」と頷いている。

 面識がほとんどないマサル達は、

「どんだけ酷かったんだ」

「わかんねえ。けど、知りたくもねえ」

と囁いている。

 知らないって幸せだな、と思いつつ、トオルは食事を進めていく。

 モンスター退治こそしてないが、執事の下でずっと書類の整理である。

 体力は使わなくても頭と神経を消耗していた。

 こうやって食事をしてる時が一番落ち着ける。

 明日も待ってる仕事を考えると気持ちが萎えていくが。

「まあ、邪魔が入らないだけいいか」

「そうですね」

「まったくだ」

 サツキとレンも異論はないらしい。

 その声を聞いて思う。

「…………チトセはここに来なくて正解だったな」

 同席していた本人は

「う、うん」

と返答に困ってしまった。

 同じくこの場にいたアツシも、

「そうなんだ…………」

と表情を硬くする。

 何も知らない二人にとって、皆が示す同じような反応に恐怖をおぼえるしかない。

(何があったんだろ)

(怖え……)

 自然と食事の進みが遅くなっていった。



 その原因となってる当事者達はというと。

 またも夕方に目が覚め、それから遅い食事を取っていた。

 ここ最近、起きると日が落ちる直前という事が続いていたせいか、幾分落ち込みがちに見えた。

 起きて、メシを食って、風呂に入って、トイレで用をたして、とそれだけで毎日が終わっていけばそうなるのかもしれない。

 そして今日もまた同じような日課をおくってもらおうと、トオル達は機会をうかがっていた。

 起きて活動していれば面倒を起こすだけである。

 何もしないでじっとしていてくれるのが一番だった。

 周りの大勢の…………いや、全ての者達にとっては。

 それに二人は気づいてはいないのかもしれない。

 自分達に何が起こってるのかという事も含めて。

 その二人は食事を終えると、暗くなっていく窓の外を見て虚ろな顔をする。

「暗くなっていくよ、ママ」

「…………」

 坊ちゃんの声に奥方は何も言わない。

 ただ、何も言わずに夜を迎える外に目を向けていた。

 その後、食事が終わって、トイレに行って。

 それが終わってようやくいつもの調子を取り戻したのか、険しい表情を浮かべて歩き出す。

「いったい、どうなってるのよ」

 こうも眠りっぱなしという事に嫌でも違和感を抱いたのだろう。

 その原因が分からないから余計に苛立ちもするのかもしれない。

 出来れば原因を確かめて、それに憤りをぶつけたいとも考えている。

 しかし、それが出来ないからこそ余計に腹が立つ。

 この奥方の場合、それを手近な誰かにぶつけて解消しようとする傾向があった。

 八つ当たりである。

 彼女にとって幸いな事に、その対象はこの館にいくらでもいた。

 あくまで彼女の考えの中では、であるが。

「まったく、どうして私がこんな目に」

「本当だよ、まったく」

 その後ろに続く息子も同じ考えであった。

 二人は、自分達の鬱憤を晴らすための獲物を求めて館の中を歩いていく。

 しかし。



 館の中の八つ当たり対象として、もっとも手頃なメイド達。

 その部屋の前にやってきた奥方と坊ちゃんは、ノックもなしにその中に入ろうとした。

 それを見ていたトオルとサツキは、ため息を吐くしかなかった。

「…………じゃあ、頼む」

「はい、分かりました」

 奥方と坊ちゃんの二人が鼻息荒く部屋に入り込もうとしている。

 意識の集中もそこそこに魔術を発動させたサツキは、二人をくるむように『安息の闇』を用いた。

 素材を消費して効果を高めてのものだ。

 効果範囲を広げてるので、その分威力も落ちてしまっている。

 しかしろくに抵抗力もない二人は、呆気ないくらい簡単に意識を失っていった。

 メイド部屋の扉を開けたところで床に崩れ落ち、そのまま寝息を立てていく。

「上手くいったみたいだ」

「よかった」

 ほっ、と胸をなで下ろすサツキは、あらためて二人にそれぞれ魔術を施していく。

 今度は一点集中で、触媒として素材も使う。

 威力が最高にまで高まった状態での魔術によって、睡眠をより確かなものにしていく。

 その二人を見下ろしながら、

「毎度毎度よくやるよ」

とトオルは呆れるしかない。

 起きて、食事などを済ませると、だいたいいつも同じような事をする。

 時に領主のトモノリの所へ、時に廊下で出会った執事に、そして今日のようにメイドの部屋へ。

 館の外の小屋で寝泊まりをしてる下男のもとにはさすがに行かないが、館の中では手当たり次第に当たり散らそうとする。

 だからこそ、トオルとサツキは二人の動向に注意をしていて。

「他にやる事はないのかねえ?」

「無いんじゃないでしょうか?」

 誰にともなくぼやいた言葉に、サツキが思うところを述べてくれた。

 まったくその通りだと思ってしまう。

「そんじゃ、担架を持ってくる」

 そういってトオルは、使用人の部屋へと向かっていった。

 こういう事をしだしてから、奥方と坊ちゃんを寝室に運ぶために担架を用意していた。

 途中で起きないように注意をしながら部屋に戻し、ベッドに放り込む。

 それからまた魔術を用いて睡眠を促す。

 既に眠っているなら効果はないが、万が一起きてたらと警戒しての事だった。

 こんな調子なので、意外と素材の消耗は激しい。

「……明日はさすがにモンスター退治に行かないとな」

「そうですね。素材も少なくなってきましたし」

 毎日の事なので、消費は結構激しい。

 動き出してる二人に一度魔術を用い、それからそれぞれにまたかける。

 更にベッドに放り込んでからもう一度。

 あわせて五回、合計五十個の素材を消費する事になる。

 ここに、牢屋に入れてる連中の分も加わる。

 一日の採取量にもよるが、二日三日に一度はモンスター退治に出ないと間に合わなかった。

 滞りがちな仕事の進行もあるので、兼ね合いが大変である。



(でもなあ)

 それでも今はまだ良いとトオルは思っていた。

(サツキが町に戻ってる間はどうすればいいかな)

 給料を取りに戻るとなると、その間は奥方と坊ちゃんを止める手段がない。

 牢屋にいる連中も騒ぎ出すかもしれない。

 そうなったらどうしよう、というのが悩みの種だった。

 トモノリの訴えが受理され、事が動くまではなるべくこの状態を続けていたいところだった。

 そのため、町に戻る順番を一番最後にしてもらっている。

 その分サツキが給料を受け取る日が延びてしまうが、背に腹はかえられなかった。

 トオルは何度も頭を下げて頼み込んだ。

 同じように、他の者達もサツキに頭を下げていった。

 トモノリも領主という立場をかなぐりすてて、いや、領主であるからこそか。

 サツキに「どうか私の我が儘を聞いてほしい」と懇願したほどだった。

 おかげでサツキが町に戻るのは、トオルに比べて一ヶ月以上も遅れる事となってしまった。

 本人は、そんな皆の態度に驚き、困惑しつつも、

「仕方ないですよね」

と承諾したが。

「気持ちは分かりますから」

 そう述べたサツキに、トオルを含めたほとんどの者達が感謝の言葉を並べていった。

 居合わせたレンは、「まったく」と呆れるしかなかった。

「相変わらず人がいいんだから」と呟いて。



 ただ、事はそれほど待たずに進んでいく事になる。

 トオルが役所に書状を届けてから二ヶ月になろうとした頃。

 待望の通知がトモノリにもたらされる事となる。

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