レベル151-1 思いつきは時と場所を選びませんが
何かと入り用になる様々な道具を揃えるため、トオルは同行者と一緒に町に来ていた。
サツキに反物を贈り、それを用いて仕立てをしてもらうのも、その用事の一つである。
反物を仕立てるのもあった。
扱える職人が町にしかいないので、どうしても出向く必要があった。
行商人に頼むだけではどうにもならない商品の吟味や確認もある。
冒険者として周旋屋に顔をだすのもその一つだった。
「よう、ついにあの娘を手込めにしたそうだな」
「人聞きの悪い事言うんじゃねえ!」
いつのも調子のオッサンを呆れながら見つめる。
「で、今日はどうした?
一緒じゃないのか?
まさか、結婚前に逃げられたのか?」
「用があって別の所にいるよ。
それより仕事の話だ」
放っておくと戯言をまき散らしかねないオッサンを制す。
今後の増員方針を伝え、そこに向けての調整をしていかねばならない。
数ヶ月先の事となるが、事前の準備が出来ていれば問題が起こる事も少なくなる。
「手紙は送っていたけどさ。
どう、集まりそう?」
「二十人ともなるとな。
さすがに簡単にはいかんよ」
「手こずるか、やっぱり」
「登録してるのに話はしてるが、どうしても数が集まらん。
上手くやって行けそうにないのも弾いてるしな」
「あちこちの村に声をかけるしかないのかな」
「そう思ってこっちも話しはしてる。
依頼を持ってきたついでに呼びかけたりしてな」
「助かるよ」
「なに、こっちも人手が必要になる。
そのついでだ」
「でも、冒険者のなり手なんているの?」
「難しいな、やっぱり」
オッサンは渋い顔をするしかなかった。
もともと、他に道がなくて選ぶのが周旋屋への登録である。
自ら望んでなろうとする者は例外的な少数でしかない。
それも大半は作業員として商会や倉庫などで働く者が多い。
モンスター退治などが中心になる冒険者への希望者はかなり少ない。
徴兵経験がある者達ならばともかく、何の心得もない者が選ぶ事はない。
その為、どうしても志願者を集めるのが難しくなってしまう。
そういった危険な仕事であるなら、冒険者ではなく兵役に就いた方がまだよい、とも思われている。
実際、歴とした軍務のほうが冒険者よりは良いかもしれない。
装備に宿舎に訓練がある。
そこには積み重ねと蓄積がある。
冒険者になるくらいなら、徴兵の方が良いと思う者もいる。
兵役経験者達は任期の終わりが近づくと、「仕方ないから冒険者になるか」と言うくらいだという。
だからこそ、冒険者を好んで選ぶのはよほどの酔狂と言えるだろう。
「こっちもそれなりの稼いでるつもりなんだけどね」
「だとしても危険な事に変わりはないだろう。
そこを心配するのは当たり前だ」
このあたりは印象の問題であろう。
実際にやってる所を見れば変わるのだろうが、その機会がない。
そこを払拭しようにもそれも難しい。
また、どれだけ小さくても危険がつきまとう事に変わりはない。
二の足を踏むのは当たり前である。
「でもまあ、まだ時間はある。
根気よくいけばどうにかなるだろうさ」
「まあね」
着工が早くても六月あたり。
完成が九月か十月とすれば、まだ余裕がある。
(それまでにどうにかしておかないと……)
期間があるのが救いである。
もっとも、間が空きすぎるのも困りものではある。
一刻も早く行動にうつし、レベルを上げていきたいとも思う。
それが半年以上お預けなのも辛い。
(その間だけでもどうにか出来ればいいんだけど)
そこまで考えて考えを変える。
「そうか……」
発想が固まり過ぎていた。
別に呼び込む事にこだわる必要はない。
「オッサン、ちょっといいか?」
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