レベル126-1 そりゃ逃さないよう色々考えるでしょうけど
同じ事を繰り返す毎日が再び始まった。
妖ネズミを倒し、素材を得て、売却して金銭を得る。
そんな事が続いていく。
暖かくなってきた頃合いを見計らって開拓開墾も始まっていく。
おおまかにこれくらいの場所を、という選定が始まり、それから最初の作業へ。
田畑に関わる事ではなく、まずは堀を掘って柵をこさえる。
モンスターがいるので、その対策を外すわけにはいかなかった。
トオル達が引きつけてるので、危険はそれほどでもない。
だからこそ、村の者達も作業に専念できた。
最初に作られたのは堀だった。
妖ネズミや妖犬がはまり込むくらいの深さで、それなりの幅のものを掘っていく。
作業道具と労力だけで作れる最も簡単な対策である。
柵は材料が来てからおいおい作っていく事になる。
そうやって場所を確保してから、水路を引いて田畑を作っていく。
荒れ地でしかない場所が、実りを収穫できるようになるまではまだまだ先になるだろう。
今年は無理だし、来年でも出来るかどうか。
田畑も、雑草をとって肥料をまいてといった手順が必要である。
田の場合、水を引き込む設備も必要になる。
何事もそう簡単にはいかない。
だが、手をつけていかねば出来上がる事もない。
将来のために、ここで頑張らねばならなかった。
そんな作業の横で、トオル達はいつも通りに妖ネズミ退治に励んでいる。
特別変わった事もなく、何かしら変化があるわけでもない。
ひたすらに妖ネズミを倒し、解体し、素材にしていく。
それを毎日繰り返して日銭と経験値を稼いでいた。
相変わらず経験値がどれくらい手に入り、幾ら貯まればレベルアップなのかは分からない。
今までの傾向から推し量るしかない。
レベルアップの手応えを感じる事がなかなかない。
登録証が示す数字が変わる日を待ちながら、ひたむきにモンスターを倒していく。
それ以外にやる事がなかった。
レベル4になるまではこんな事を続けていかねばならない。
それまでどうにもならない。
何かの拍子に大金が手に入れば別であろうが。
それでも多少の動きや変化は起こっていく。
(さて……)
領内における様々な資料などを見ながらトモノリは考える。
ここ一年二年の変化は大きい。
奥方が消えた事も大きいし、そのきっかけになったトオル達の存在はそれ以上に大きい。
借金は大きく減る事もないが、これ以上増える事もない。
劇的な改善は見込めないのは残念だが、それでも悪い話しではない。
領内全体の収穫が上がった事で、当然ながら収益が上がる。
今でも一割くらいの向上がなされている。
これは大きい。
トモノリの領内全体での話しなのだから。
支配下にある三つの村全部で、およそ六十戸ほどがある。
その一つの年収が、三百から四百銀貨ほどの収穫を毎年出している。
税としてそこから三割が引かれる。
トモノリのような領主には、なんだかんだでその三割のうちの三分の一が実入りとなる。
単純に、収穫の一割がものになると考えて良い。
全体で二万四千銀貨。
一割として二千四百銀貨。
稼ぎの少ないところも多いところもあるが、概ねこれが毎年の収入である。
これで使用人や兵をまかなうのだからかなり厳しいものがある。
それが一割増える。
銀貨にして二百四十枚ほど。
借金で圧迫されていた財政に、これは大きな救いになっていた。
また、これ以外にトオル達や兵達が倒したモンスターの収益も加わる。
モンスターの収益は、ほとんどが彼らを養う維持費に消えるので、収益としては微々たるものとなってしまう。
それでも、モンスターの害から村を守り、農作物の収穫を増大・安定させる事につながっている。
単体ではさほど旨みはないが、もたらす影響を考えれば大きな効果があると言えた。
また、トオル達冒険者も相変わらず村に利益をもたらしている。
寝床と食事を用意するだけで、兵士では補いきれない部分のモンスターを倒してくれている。
上手い具合にいっている。
とはいえ、甘んじるわけにもいかない。
また、利用しようと考えるわけにもいかない。
今はトモノリの所にいるが、何かの拍子にここを出て行く可能性もある。
子飼いの兵士と違い、冒険者は基本的には一時的な契約で働いてる者達だ。
契約延長はあってもつなぎ止めておけるものではない。
もっと条件の良いところがあればそちらに移るだろう。
ここがトオルの出身地であってもそれは変わらない。
もし村に固執するなら、外に出て冒険者になる事もないのだから。
困窮が理由にせよ、外に出て別の道を模索したという事は、最終的に自分で自立してやっていく意志があるという事だ。
生まれ育った村やトモノリの領土内よりも、自分を選ぶ独立独歩の気概がある。
出身地を見捨てたり反逆したりという事ではないが、条件が悪くなれば(トモノリなどがとんでもない圧迫を加えたり)即座に出ていくだろう。
そこはしっかりとわきまえる必要がある。
トオル達はあくまで助力をしてくれてるだけであると。
実際に何かをやるのは、この領内を治めるトモノリの仕事であり、それに従う者達なのだと。
当たり前の事だが、この領内はトモノリの管轄であり、古くからいる村人達が中心とならねばならない。
自立し、自主的にならねばならない。
その上で、足りない部分の助力を求めるようにしていかねばならない。
全てを他に頼ってしまうなら、それはもう他人に依存してる事になる。
(しかし、手放すのは惜しい)
優秀な人間をつなぎ止めておきたいのは誰しも思うところである。
トモノリも例外ではない。
うまくトオル達をここにつなぎ止めておけないかと考えている。
小屋を設置したいと言ってるのだから、余所に出て行く可能性は低いだろう。
だが、その小屋を、一団の拠点を別の場所に作るというなら話しは別である。
ここではないどこか別の貴族の所にいく可能性だってある。
そうならないように何が出来るか、という所だった。
手っ取り早いのは、利益で引きつける事だろう。
ここで活動していく事のほうがトオル達の利益になるなら、わざわざ別の所に行く必要がない。
今の所、住居と食事を出す事でそれはどうにか出来ている。
トオルもそれ以上は要求していない。
だが、それだけではまだ弱い。
同じ条件をつける別の貴族が出て来たらどうなるか。
もう一つ二つ縛りが欲しかった。
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