レベル123-1 あれもこれもと欲しい物が増えていく
「家?」
行商人の声は裏返る手前まで行った。
「どうしたんだ一体」
「色々入り用になってね」
かいつまんで事情を説明していく。
話しを聞いて行商人は、
「それはそれは」
と幾分驚いた。
「羽振りが良さそうだと思ったけど、色々大変なんだな」
「そうでもないよ。
食って行くには困らないけど、出費も多いから」
「ま、手を広げてるんだから大したもんだ」
「それが行き詰まってるから悩んでるんだ」
「贅沢な事を言うなあ」
苦笑を隠せない。
「まあ、材料だけなら二百銀貨もあれば揃えられるだろう。
ここまで持ってくる運送費を考えても、三百はいかないんじゃないか」
意外な値段だった。
「そんなに安いの?」
「五人も入れば狭くなるようなもんだけどな」
それでも十分だった。
「組み立ては自分でやらなくちゃならんけどな。
職人を呼ぶならその分の金もかかる」
「まあ、そんなもんか」
それでも、手が出ない程ではない。
「あとは場所をどうするかだ。
町や村の中だと、色々大変じゃないかな」
権利関係とかは確かにそうだろう。
だが、とりあえずそれは横に置いておく事にした。
今は金額の方だけでも答えが見えていればよい。
聞けるだけ話しを聞き出し、今後の展開に組み込んでいく。
この村でやっていくなら、住処を手に入れておくのも悪い選択ではないのだから。
「…………だから、俺達の小屋を造ろうと思う」
「相変わらず無茶言うね、兄貴は」
毎度の一団会議というか、食後のお話でサトシは呆れるを通り越して平坦な声を出す。
「でも、そんなに金があるの?」
「無くはない」
微妙な言い方だった。
「今までの活動費がかなり貯まってる。
それを使えば、何とかなりそうだ」
細々とした雑費に用いるために、一日の稼ぎから端数を一団の費用として集めていた。
それが今や二百銀貨ほどになっている。
文房具や武具の手入れ材料、大八車などの貸し出し費用に、素材の容器などに使っていたが。
それでもこれだけ手元にある。
「足りない分は、俺の貯金からも幾らか足す事にするし」
そちらもなんだかんだで一百銀貨近くあった。
全部使わないまでも、半分は出しても良い。
「それでもまだ足りないけど。
それはおいおい稼いでいく事にする」
とりあえず決意表明だけはしておいた。
すぐに出来る事ではない。
他にやらねばならない事もある。
今は他の者に、この先どうしていきたいかを知ってもらうだけで良かった。
開拓開墾予定地における作業は、まずはトオル達によるモンスター退治からとなった。
モンスター除けのお札なども用意はするが、侵入を確実に遮るものではない。
先んじてトオル達によって数を減らしておく事が望まれた。
枯れた草がひろがる原っぱに到着し、村人から作業予定などを聞きながら陣地を作る場所を決める。
水路にあぜ道などを作る予定の場所を聞き、その外側に穴を掘る場所を定める。
ここがこの先何年か続くだろう作業場所の出発点になると考えながら。
開拓開墾は長期間の作業になる。
その間、作業をする村人達の護衛は常に必要になる。
仕事がなくなる事は無い。
手当は出ないが、寝床と飯にはありつける。
兵士を抱えるようになってトオル達冒険者の必要性は幾分下がってる。
それでも、まだまだ寝床と飯にはありつける。
志が低いかもしれないが、負担が減るだけでありがたかった。
また、トモノリがもってる領主としての権限に守られる可能性も高い。
受け持つ義務もそれなりに大きいだろうが、割り引いても得難い特典に思えた。
(その間に、ある程度進めていかないと)
全てはこの先のためである。
広い範囲に展開すれば、それだけモンスターを引きつける事が出来る。
田畑の作業をしてる者達に襲いかかる可能性を減らす事が出来る。
防備もままならない時期は特にその必要性が高まるだろう。
その為にはどうしても人手が必要になる。
ここで開拓開墾を守る事は、その人手を集める口実にしやすい。
酷い話しであるが、作業に必要という事で人を増やし、その分の寝床と飯をせしめる事が出来る。
周旋屋や冒険者にはそれを売りに出来る。
村の負担も寝床と食料だけなのだから、それほど悪い話しでもないとトオルは踏んでいた。
この先どれくらい時間があるか分からないが、一年二年で終わる事は無い。
その間に人を揃えておきたかった。
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