レベル107-1 今度の連中はちょっと違います
先頭にいた者に矢を放つ。
狙い通りに当たった矢が小鬼をよろめかせる。
だが、急所に当たったわけではなかったようで、動きを止めようとはしない。
他の連中も、仲間の負傷に動揺する事無く進んでくる。
(こいつら…………)
今まで相手にしていた小鬼とは違う。
士気が格段に高い。
呪術師の存在がそうさせてるのか、もともとこいつらが他とは違うのか。
分からないが、厄介なのは確かだった。
進んでくるそいつらに、もう一本矢を放つ。
暗がりの中なので当たってるかどうかは判断しにくい。
月と星が出てるので、最低限の光はあるが、それでは役に立たない。
もとより、レベル1の腕では大した結果は期待出来ないが。
少しでも手傷を負わせる事ができればというくらいの気持ちで弓を構えている。
だが、士気の旺盛な相手では、怯ます事も出来ないだろう。
となれば、迫ってくるのを待っての接近戦となる。
さすがに十倍ほどの敵を相手にするのは分が悪い。
相手が、列を乱さず…………と言ったら大げさだが、ほぼ一群となって足並み揃えてるのも質が悪かった。
各自が勝手に突っ込んできてくれれば、一気に全員を相手にする必要もない。
それでも数の不利に直面するだろうが、少しは生還する可能性が見えてくる。
まとまって行動されては、それを願う事も出来ない。
(こりゃ、駄目だな)
少しでも足止めしようと思ったが、それも覚束ない。
ある程度小鬼達が接近したところで、トオルは二人を促すしかなかった。
「行くぞ」
後方へと走り出す。
時間をかけて相手の足を止め、頃合いを見計らって逃げる、という手段は使えない。
そうであるなら、さっさとここから逃げるしかなかった。
走り出す三人の後ろから、足音がおいかけてくる。
幸い、背後の気配が急いで来る様子はない。
それだけ落ち着いてるのが不気味ではあるが、距離をとるには都合が良い。
自然と小鬼達との間がひろがり、先を行っていたサツキとレンに合流する。
「どうしたの、早くない?」
驚くレンに、「ちょっとね」とだけ答える。
「意外と頭を使ってきてる。
今まで通りにはいかないみたいだ」
短く説明をして、来た道を振り返る。
一生懸命走ったつもりだったが、距離はそれほど離れてない。
「とりあえず、闇をはってくれ。
少しでも時間を稼ぎたい」
「あ、はい」
言われてサツキが魔術を使う。
トオル達の前で、かすかな月明かりや星の光を遮る空間があらわれる。
どうせそれも左右に迂回してくるのだろうが、それでもかまわなかった。
「小鬼達はあれを左右に回り込んでくるはずだ。
それが見えたら、そいつらを闇で包んでやってくれ」
「それはかまいませんけど、いいんですか?
作戦とは違うようですけど」
「かまわねえ。
状況が変わってる。
今まで通りにやっても、たぶん意味が無い」
だからやり方を少し変えてみる。
それでどれくらいの効果があるか分からない。
でも、先ほど闇に包まれた時、前後すらも掴めず混乱をした。
その状態に小鬼達を放り込めればよかった。
予想通り小鬼達が左右に分かれて進んでくる。
そこにサツキが更に魔術をかける。
暗闇が右からあわられた集団をくるんだ。
「左の方もいけるか?」
「やります」
左側の集団にも暗闇が覆い被さった。
「よし、それじゃ二人は行ってくれ。
俺達はここで様子を見る。
言われてサツキとレンは走り出す。
再び弓を構えたトオルは、小鬼達がどう動くのかを確かめながら矢をつがえた。
続きを19:00に投稿予定。




