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元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。  作者: ルド
第2章:自重知らずの決闘と復活の魔王と勇者。
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魔王復活と勇者帰還 その9。

決着予定でしたが、長引いたのでまだ続きます。

「マイちゃん本当に動いて大丈夫なの?」


「うん、不思議と体が軽いの。さっきまでまともに立てなかったのに」


 ついさっきまで寝込んでいたが、ベットから上体を起こしている麻衣。

 魔力は戻っていないが、凄まじい脱力感と倦怠感が抜けて不思議と快調な気分。

 きっと先輩がどうにかしてくれたんだと、嬉しそうに介抱してくれた空と話している。


 ――ピンポーン!


 するとマンションのインターホンが静かに鳴った。

 先輩たちかと麻衣は思ったが、感じ取れる複数の魔力はまだ遠くにある。

 さらに外からは特に魔力を感じないので、魔法使いとかそっちの可能性は低い。


「え、誰だろう?」


「センパイたちじゃないね。もしかして学園の人か警備の人かも、ほら事情聴取的なアレで」


「え〜イヤだなぁ」


 嫌そう顔で兄の部屋を後にする空が玄関へ向かう。

 動けるようになっても病み上がりの麻衣に任せるなどありえない。

 あの兄が居たら笑顔でなすり付けたと思うと、苦笑顔をする麻衣が部屋の窓から外を眺めていた。

 その時だ。



「少し話がしたい『魔導王』の職業保持者(ジョブホルダー)


「っ……誰!?」



 声がした途端視界の先の窓が燃えるように光った。

 それは炎の扉と言うべきか窓の代わりに開いて、その者が姿を現した。


(何この男! それにこの気配と炎は……)


 見覚えのない人物(・・・・・・・・)、力が戻っていない麻衣は警戒心全開でベットの布を握り締めていると、こちらの警戒を察してか部屋に入った男は窓の側で立ち止まって、こちらに近寄ろうとしなかった。


「オレの名はヴィット。小森麻衣、取り引きがしたい」


「いきなり何ですか? 派手な登場ですけど不審者にしか見えませんね。少しでも近付いたらあらゆる防衛行動を取らせてもらいますから」


 具体的には悲鳴やスマホのサイレン。

 得体の知れない相手なので間に合うか怪しい気がするが、最悪刺し違えるつもりで麻衣は向き合う。


「元勇者の幸村大地は今魔王と激闘を繰り広げている。今のところは押しているようだが、相手はほぼ復活寸前の魔王。今はまだ獣のような思考回路だから付け入れる隙も多いが、魂まで完全に戻れば手に負えれなくなる。それはかつて全盛期の魔王を相手にした君なら分かるだろう」


 見た目は二十歳くらい黒髪の男性。

 取り引きと言いつつ麻衣の警戒を解くつもりがないのか、淡々と大地たちの戦況を伝え始めたと思えば魔王のヤバさを話し出した。


「暗黒島にある力を取り込んでから時間もかなり経ってる。戦闘も長引けば彼らの勝利は遠くの一方だ」


「だからなんですか? 加勢したくても力のない私に……いったいどうしろと?」


「君にしか出来ないことがまだあるならどうだ?」


 男はそう言って麻衣に向かって手を伸ばすと少しずつ近付く。


「それ以上近づくのは自殺行為ですよ? 炎の精霊使い(・・・・・・)

「……」


 ピタと立ち止まる。

 麻衣は鋭い眼光が誤魔化すなと言っている。

 しばらく沈黙が続くが、時間の無駄だと悟ったか男の方が折れるように両手を上げた。


「分かった、降参だ。この間は悪かったな。なんで分かった?」


「魔力が感じないあの時と同じ炎の気配。気付くなと言うのが難しいですよ」


「なるほどな。それでどうする?」


 近寄るのを諦めたか苦笑い混じりに手だけを伸ばして誘う。


「あれだけのことをして許せと?」


「こちらの取り引き材料は――勇者ガイア(・・・・・)


「っ!?」


 彼が名を口にすると思わずベットから飛び出た麻衣。

 目を見開いて驚愕の顔で彼を凝視した。


「その名を何処で!?」


「魔王を倒すには必要だろう? 前金として支払おう」


 すると絵柄のない透明なカードを懐から出した。

 彼女が抜けたベットの上にサッと投げ落とす。


「そのカードは……」


「オレの能力と君が手を貸してくれたら、彼の勇者の力を『戦神』から取り戻そう」


「その前に訊かせてください。そんな大金を支払ってまでこの私に何をさせたいんですか? 貴方の目的は何ですか?」


「それは……」



 




「【チャージ・バスター】ァァァッ!」


『ギィ!』


 魔力を込めた拳で仮面の顔を殴り飛ばす。

 すぐに睨み返した魔王が魔剣で構えたが、蹴りを入れて無理やり距離を取る。

 一定の距離を取ったところで強力な飛び道具を使用した。


「『戦士(ウォリアー)』! 『剣士(ソード)』! 『魔法使い(ウィザード)』! ――【スキル・コンタクト】!」


 3色の光が混ざり合い混沌の刃となる。

 振りかぶると勢いよく混沌の斬撃を飛ばした。


「【カオス・オブ・セイバー】ァァァァッ!」


『ギァアアアアアアア!』


 魔王も暗黒の斬撃を飛ばしてお互いの斬撃が直撃した。

 未だに獣のような叫び声だが、戦闘に関する感覚が大分戻っている。

 こちらの攻撃も相殺させられるが、予感していた俺は【スキル・コンタクト】を続けていた。


「【マジック・オブ・セイバー】ァァァァッ!」


 先程の混沌の斬撃とは正反対の光の斬撃。

 相殺された次には既に斬撃を放っていた。

 魔王も剣でガードするが、勢いある斬撃に押されぐらりと傾いて倒れた。


 だが。


『ギィィィィ』


「ダメか」


 それは火力以前の問題だった。

 勇者の力なしではここまでが限界である。

 どれだけ追い詰めても今の俺ではトドメを刺すことが出来ない。


 どうすれば……。何度も立ち上がる魔王にいよいよマズくなってきた。


「ん?」


 そこへ突如空から金色の大きな光の玉が飛来する。

 真っ直ぐに俺の方へ向かって飛んで来るので、咄嗟に避けるかガードスキルを使うか考えたが。


『先輩っ!』


「ッ!」


 光の中から聞こえる後輩麻衣の声。

 思わず立ち止まったところで光の玉は急加速して当たってくる。

 油断し光に飲まれて一瞬焦りかけたが、目を開けるとそこは焦りも吹き飛ばす全てが太陽のような金色の空間。


『間に合いました!』


 唖然としている俺の目の前には、俺の部屋で寝込んでいた筈の制服姿の麻衣が立っていた。


「麻衣、なんでここに?」


『説明は後で! 時間がないんです! とにかくこれを受け取ってください!』


 何故か急いだ様子で俺の質問を無視した麻衣が透明なカードを渡してくる。

 表面と思われる方は何も描かれてなく、裏の方は俺のカードと同じ魔法陣が描かれているカードだ。


「これを……どうしろと?」


『器です。これに刻むんです! 眠っている勇者の力を!』


 受け取ってカードを持つ俺の手に麻衣が両手で握ってくる。

 まるで何か祈るかのように、何か願うかのようにしてカードへ念じ始めた。


『あの頃のことを思い出してくれればいいんです。私も思い出しますから』


「いきなり言われても……」


 そんなことより外はいいのかと思うが、ここは外とは隔絶されている。

 恐らく特殊な空間で時間の流れも異なっている考えられた。


 けど、内部の時間自体は少ないのだろう。

 必死な麻衣の表情を見ればまず間違いないと思うが、いきなりあの頃の記憶を呼び起こせと言われてもかなり困る。




『ならばオレが導こう。あの世界の記録(メモリー)を』




 誰かがそう言った気がした。

 だが、それを自覚するよりも早く、混乱していた思考がクリアになる。

 無意識に閉じていた記憶の扉がまるで油でも射されたみたいに簡単に開かれた。



『せ、せんぱい……ここ何処ですか?』


 初めに思い出したのは不安気で涙目で今よりも少し幼ない後輩の姿。

 学校からの帰り道で突然召喚されて、気付いたら周囲はファンタジーな城の内部。

 甲冑姿の兵士や騎士やローブ姿の魔法使い、貴族と思われる高そうな服を着ている者、それに真正面の玉座には国王や王子、そしてあの破天荒な王女が座っていた。


『待っていたぞ、異世界の選ばし者よ』


 初めはいきなり拉致した癖に偉そうなおっさんだと不満全開だった。

 周囲は武器を持っている連中で囲まれて、俺たちに拒否する選択肢なんて初めからなかった。


『素晴らしい! マイ様のステータスは魔法ジョブに特化しており、これなら伝説級の魔法使いジョブも取得出来るかもしれません! ……ただ男の方は』


『基本職を色々と試しているようだが、どれも平凡そのもので使えねぇーな』


 ハッキリ言って当初から俺は全く歓迎されていなかった。

 ステータスを読み取れる鑑定士から『才能無し』烙印を押された時から。

 訓練が始まれば麻衣と比較されて、王子は堂々と蔑み嘲笑い、指導者からも勝手に失望されていた。


『魔王退治だけじゃ勿体ない女だ。躾けてやればオレ様の相応しいペットになる。なぁーに、あの使えない男を餌にすれば素直になるさ』


『最高レベルの隷属奴隷の首輪を使えば彼女も逆らえないでしょう』


 そして奴らは俺たちを元の世界へ帰す気がなんてなかった。

 力が乏しい俺の為に必死に強くなる麻衣を見た王子が目の色を変えたようだ。

 利用するだけ利用して仮に魔王を倒したとしても、最後は俺を人質に麻衣を傀儡にするつもりだった。

 偶然王子たちの会話を盗み聞きした俺は愕然としながら、無理にでも麻衣を連れて逃げ出そうとした。


『帰るためには強くなるしかないわ。ここで拒否して逃げても運命は一緒よ』


 だが、それを見越していた王女が俺たちの前に立ち塞がった。

 そもそも弟である王子の悪巧みを予想していたか、麻衣ではなく俺の方に話を持ちかけた。


『伝説のジョブである『勇者』のチカラ。手に入れば脅される危険も確実に減る。全部じゃないけど何も出来ない無力なままの今よりはマシでしょう?』


 俺は王女と手を組むことにした。

 別にこの世界を救いたいわけでも、魔王側から麻衣を守りたいだけじゃない。


 力を手にしているようで実は無力のままな自分が嫌だったから。

 その所為で王子たちに麻衣が利用されるのが黙っていられなかったから。


『五つ以上の基本職の奥義も覚えて、特殊職業にまで辿りついたのなら後は例の儀式だけね』


 そして1年以上の月日を掛けて、俺はとうとう勇者のジョブを手に入れた。

 予想通り王城は大騒ぎとなり祝いのパーティーまで行われたが、それは俺を利用した王族たちのパイプ作りで、噂を聞き付けた商人の貴族や他国の要人を招く便利な方便。


『ハハハっ! 信じておりましたぞ勇者様(・・・)!』


『なんという神々しいオーラ! どうでしょう? 是非、我が国に!』


『いやぁー良くやった良くやった! 流石オレ様の勇者だなぁ! ガハハハハハハッ!』


 俺を嘲笑っていた連中は手のひらを返したように擦り寄って来た。

 散々人をゴミ扱いしていた王子なんかは、まるで自分のことのように風潮して俺をいつでも使える駒用の扱おうとしたが、調子に乗っていた王子を王女はバッサリと切り捨てた。


『アンタみたいな愚弟に彼を従わせる権利があるとでも? 祝いの酒が不味くなるから寝言も糞部屋でしてくれる?』


 当然ように王子はキレたが、王女が見せる冷め切った眼光とすっかりキレ気味な麻衣の威圧にあっさり圧されていた。国王が仲裁に入ったことで有耶無耶になって、王子は捨て台詞を吐いてパーティー会場から逃げたが、これを機に半々だった俺たちに対する指示系統は、完全に王女の方へ移された。


『別にあの使えない愚弟が王になるのは良いのよ。阿保ヅラであの汚い椅子に座っていようがね。けど私の理想とする国では国王なんてただの飾り、有ってないようなものなの』


 どうせ動くなら裏で動けば楽だから。

 そんな理由で彼女は次期国王の座を放棄していたが、彼女を慕う者たちは是非彼女にと、他所者である俺たちにも説得を頼み込んでいた。


『あの方にしかこの腐敗した国を変えれません! ダイチ様、マイ様! どうか!』


 成果を上げれば嫌でも国王、いや女王になるしかない。

 だから王女の指示という形で俺は魔王側の兵士や飼い慣らしている魔物の退治。

 さらにはいくつかの拠点を襲撃して、その全ての手柄は作戦を立てた王女にあるとアピール。

 問題児な王子の所為で後継者に悩んでいた国王の耳へ簡単に入っていたそうだ。

『オレ達は戦士だが、同時に人間であることを忘れるな。そんな能力頼りな戦い方じゃ身を滅ぼすだけだ』


 しかし、予期せぬ苦戦も強いられた。

 勇者の力を手にした俺は負け無しで酔っていた。

 ステータスでも能力でも負けていない筈の幹部相手に苦戦するほどに。

 別の世界からやって来た零さんの助太刀がなかったら、麻衣はともかく俺の戦いは魔王に辿り着く前に終わっていた。


『戦士の覚悟を教えてやる』


 何も分かっていなかった俺を零さんは鍛えてくれた。

 俺たちとは異なる異能と呼ばれた魔法でもない力だったが、結局模擬戦でも一勝すら出来なかった。


『オレのことはその後輩の子には絶対話すな。それとオレはあくまで観察。この世界で起きている問題は不本意だと思うが、お前たちが解決するしかない』


 鍛えてくれた時間は短かったが、足りない何かを補えた気はした。

 そこからは麻衣も参加してとんとん拍子に幹部たちを倒していった。

 魔王の娘の協力もあってスムーズに事が進んでいき、そして等々その時が来て……


『気をつけろよガイア(・・・)。今の父はもう以前の我が知っている父ではない。全く別の何かになってる。最悪国なぞ捨てて我と一緒に逃げよう!』


『これが最後になるでしょうから……どう? 今だけは私のこと』


『先輩、約束してください。もし元の世界に帰れたら……』


 そして、


 そして、



『災厄こそオレそのモノ! サァ来い小僧ッ! コノ魔王が……貴様ノ覚悟ヲ打ち砕いてヤロウッ!』


 あの魔王との過酷で命懸けの戦いに繋がった。

 そうして走馬灯のような記憶の映像から覚めた俺は、金色の世界でもない元の場所へ。

 戻った為か麻衣の姿もないが、彼女の気配は確かに俺の中で感じ取れていた。 


「そうだったな。覚えているつもりですっかり忘れてた」


『ギィィィィ!』


 唸っている魔王はあの時と似ているが、それは見た目と戦い方のみ。

 まだ野性の獣気味な表情と唸り声を上げて、ただ俺という敵を捉えているだけだ。

 俺がかつての宿敵とか元勇者とか関係なく、ただ溢れ出ている憎しみを打つけたい対象としてか見ていない目でだった。


 亡霊の上にただ手当たり次第暴れたいだけの獣なのだ。

 傍迷惑もいいところだが。


「―――いいだろう。お前が何処までも俺を困らせるのなら……」


 それは無意識の動作である。

 手を出すと手元から【マスター・ブック】の白い手帳のような本が出現。

 自然な流れで開くと収まっているカードの中から、麻衣から受け取った透明なカードを引いた。


「俺も……とことん付き合ってやろうじゃないか!」


 力強く宣言した途端、カードが金色に輝き始める。

 透明だった部分が色が付いて、やがてハッキリとした1枚のカードになる。

 裏面が金色の魔法陣の絵柄、表には俺が写っているが、その姿はこれまでとは全く違う。


 聖剣を携えた赤と黒のロングコートを着た騎士のような姿。

 本当に懐かしく思う、かつての俺の最強の姿である『勇者ガイア』のカードであった。


次回! 本当に決着です!

色々と長引きましたが、これで一旦締めまでいけそうです(汗)。

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