愉快な昼食は大空の悲鳴で終わる。
昼食中の後輩から尋問タイム。
「……私は省かれてるんですか?」
「は? 突然何?」
学園島に戻り麺屋のラーメンを啜っていたところ、つけ麺と餃子と焼売とチャーハンとチャーシューの盛り合わせを食していた麻衣が呟く。……殆ど食い荒らしているが、まだ食えるのかと思わず自分のラーメンを守ったがどうも違うらしい。
「何かしてるんでしょう? あの龍崎さんと一緒に」
「何を言ってる?」
「能力テストがいい証拠じゃないですか。無料のトレーニング施設が欲しかっただけと言ってましたが、つい最近まで要請を拒否していたセンパイらしくない。理由としては弱過ぎます」
「ま――」
「だとすると最近起きたことと結び付けて見るのも悪くないですねぇ。たとえば……龍崎さんの要望とか?」
何も反論させる気もないのか、スラスラと述べていく麻衣は迷いのない瞳でこちらを見据えている。やっぱりいい加減実験続きで嫌になったか、それともあの教授とのやり取りにうんざりしたのか、有無言わせない雰囲気で凄みを増していく。
「先輩、私たちは――いえ、私はどういう扱い何ですか? 龍崎さんは私の何を警戒してるんですか? ソラちゃんたちは別として、私だけ省いているということはそういうことでしょう?」
「お前は……お前だよ」
違う。彼女が求めている答えはこれではない。
分かっていても俺に出来るのは惚けるだけだ。刺激しないようにと龍崎も警告している。もし自分が標的になるかもと言えば、攻戦的な麻衣のことだ。
龍崎に詰め寄る程度は平気でする。ヘタしたら正面衝突する可能性だってある。
全て宿している魔力――龍崎の師匠という魔導神の魔力因子が原因だと言っているが、それに加えて魔王の因子まで混じっているらしい。どういうわけか俺と同じように麻衣も俺に隠している。どうして隠しているのか理由は分からないが、余計に刺激することは出来ないと言った龍崎の意味も理解出来た。
「そうですか、誤魔化すんですね」
けど、普段とは違う。静かに苛立っている様子を見るとそろそろ限界な気がした。話した方がいい気がするが、やはりリスクが大きい。最悪不貞腐れてくれた方がマシな気がする。
「他に何か食べるか? 奢ってやるから許してくれ」
だから軽い気持ちでメニュー表を見せる。俺はもう腹一杯だが、麻衣はまだまだいけるみたいなので。……それが良くなかったらしい。
「全ページ1品ずつ」
「……え?」
「全ページ1品ずつ」
「ま、麻衣さん?」
「さっさと注文しろ。食い物で私を丸め込もうとした罰です」
機嫌が寧ろ悪化してしまった。……拒否権なさそうだ。現金じゃなくて学園のカード払いにして貰おう。あまり無駄遣いしてなくて良かったけど、まさかこんな形で消費するとは思わなかったー。
「あんまり先輩をイジメるもんじゃないよ? 小森さん」
予想外な精算量に頭痛を覚えていると、昼食で偶々通り掛かったと思われる龍崎が麺屋に入って声を掛けて来た。格好は学園の制服だから目立っていないが、見掛けない顔に何人かの客の生徒が首を傾げていた。
「来ましたか、元凶の方が」
対して麻衣の反応は冷めたものだ。タイミングのいい登場が余計に気に入らなかったか、近付いた龍崎を疑わしそうな目で睨んでいた。元凶とか言っているが、当の龍崎は肩をすくめて困ったように笑みを浮かべるだけだ。
「随分嫌われたもんだな。お肉の挨拶はしっかりしたのに」
「お肉はご馳走さまでした。ですが、私を除け者にしていたことは許せませんね」
「除け者? そうだったか? ……ところで相席いいかな?」
「……どうぞ、私も話したいと思ってましたし」
「ありがとう」
対応に困った様子の店員さんに一礼して龍崎も座る。何故か俺の隣だけど麻衣の方に座るのは当然ないか。
「それで? 何を訊きたい?」
お冷を貰って注文した麺を待つ龍崎は、腕を組んで不機嫌な麻衣と向き合う。一旦食休みに入ったか麻衣も箸を置いて腕を組んで受けて立つ姿勢だ。……別に龍崎の方は一切喧嘩を売っていないが。
「単刀直入に訊きます。目的は何ですか?」
「例の戦略兵器の撃退。この世界に余計な影響を与えないように部品も残さず片付ける予定だ」
「倒した以外にもまだ来ると? あれから1週間以上経ちましたが、未だに現れてませんが?」
「半信半疑な気持ちは分かる。けど……絶対に来る」
笑みを消して龍崎は言う。真剣な眼差しを不機嫌な麻衣に向ける。確信あるその視線に押されたか麻衣も苛立った視線が弱まる。
「……その根拠は?」
「予知した。平均が六割程度のだがな」
「微妙な確率ですけど、予知なんて出来るんですか?」
「色々と条件付きになるが、そもそも師匠から警告されていたからな。兵器襲来に予知を限定すればある程度の未来が見える。遠くの未来は見え難いし何度も使えないが、近い未来なら高確率のものが見える。疲れるから滅多にしないが」
目頭を押さえて疲れてることをアピールするが、疑わしい視線が麻衣から見られる。まぁ、いきなり言われても信用できないよな。俺も少々疑っている気持ちはあるから分かる。
「何か証拠は無いんですか?」
「六割だからな。具体的な日にちまではよく分からない。けど大分見えるようになったから……そろそろかな?」
「分かりました。予知については一旦置いておきます。……では私が一番訊きたいのは別にあります」
「へぇ? どんな?」
誤魔化し切れなかったか。仕方なさそうに龍崎も軽く身構えると、麻衣は訊きたかった本題を口にし――
――ガッッシャァァァァァァーンッッ!!!!
「――っ何!?」
「今の音は?」
「……」
3人とも反応は異なっていた。
話を切り出そうとした麻衣は不意を突かれて動揺した声をあげる。辺りをキョロキョロしてビックリした様子である。
俺は表情こそは冷静にしているが、内心は激しく動揺しており、視線を動かして状況を確認しようとする。嫌な予感がヒシヒシとするからだ。
対して龍崎は一番静かであった。無言でお冷を口にしてコップを置くと、ゆっくり立ち上がり顔ごと外の方を振り向いた。
「どうやら来たようだ」
「何だと……!」
龍崎の言葉に俺も視線を向ける。そこには空に登る闇の稲妻が見える。いつの間にかヒビが入っていた空が割れると……そこから大きな赤き光が3つ。地上へ落ちようとしていた。場所は恐らく前の試合場の方だろう。
「行こうか幸村君」
「ああ、麻衣は……」
「行きますよ。先輩」
出来れば残ってほしいところだが、目の届かないところで何かあっても困る。さりげなく龍崎に視線を送り仕方ないと頷き返された。
「分かった。行くぞ麻衣」
「はい! あ、お勘定はしっかりしてきましょうか」
言われなくても分かってるわ! 響いた音に驚いた客と一緒に戸惑っている店員さんをレジに誘導する。カード渡してお勘定を済ませると、貰ったレシートを思わず破りそうになるのを堪えて皆と外に出た。
ちなみにラーメン代は割合。
大地――1割
麻衣――9割
束の間の……でもないけど休暇がつい終わる。




