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六話「ガールズトーク」

【side Hina】


  時計の短針が十二を超え、二時間程経った頃。



「お、女の子って凄い……」



 私、香月比奈はへとへとになっていた。


 修学旅行の夜、女子が一同に集まって、いわゆるガールズトークを開催するっていうのは随分前から予想できた。それの対策のため彩さん達大人も交えた緊急会議すら開いた。

 けれど、それ以上、というか私の予想以上にその――な、生々しい。

 私もやっぱりお年頃だし、そういうのに興味がないわけないんだけど……さっきまでいた部屋で飛び交っていた言葉は刺激が強すぎです。あと、そういったえっちぃこと以外にも、あいつ嫌いんだよねとか、陰口がその、凄く……陰湿的です。

 負の感情は誰しもが持ってるから否定はしないけど、友達が少なかった私には本物の女子会はレベル高すぎでした。つらたんなんて言葉じゃ済まされない。

 そんな経緯があって私は廊下で休んでいた。日中、恵がくれたクッキーが原因なのか体調が悪く、クラスの女子達も具合が悪いことは知ってたようだから出ることに苦労はしなかった。



「あーあー、まいってるね比奈」



 後ろから声がかかる。首だけそちらに向けると菊池さんがいた。



「女の子って凄いんだね、私もう駄目かも……」


「比奈も性別は同じだからね」



 性別では同じでも中身は違うのかもしれない。性転換……いわゆるTSものかな? 私は嫌いじゃないよ。



「時間もいい感じになってきた頃だし、私達三人だけで女子会開こうか」


「三人……? ここには私と菊池さんしか……」


「……ここにいる」



 灯りのついていない廊下の先(時間的には消灯時間であるため)からぬっと中里さんが現れる。

 思わず叫びそうになったところを菊池さんが口を押さえてくれて、大声を上げずにすんだ。



「全く、若菜はどうしてそんなホラーチックな登場をするかな」


「そ、その前に中里さん、私が部屋を出た時まだ中にいたよね? どうして私よりも先の道にいるの……?」


「……私くらいのくの一になればそんなの造作もない」



 中里さんはフッと笑う。

 


「く、くの一は危ないよ。捕まってとんでもないことされちゃうのが宿命だから……」


「多分、比奈の発想の方が危ないわよ。大方直弘君の受け売りだと思うけど」



 確かに、にわかだった私に様々な知識を授けてくれたのは岩垣君だ。異論はない。



「っと、まあこんな話しはどうでもいいわね。女子会をしましょ、女子会。そこで比奈に言いたいこともあるしねー」


「私に言いたいこと?」


「……それはお楽しみ」


「若菜の言うとおり。それじゃあ――修学旅行第三班のガールズトークといきましょうか」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「さ、今宵は隠し事なしよ」



 私達三人は三班に割り当てられた部屋にやってきた。一つのベッドに集まって、輪を作る。



「積もる話は多々あるけど、早速比奈に私たちから申したいことを言わせてもらいましょう」


「や、優しくしてね……」


「何でそこでもじもじするの!? あと優しくしてねって何!? 何を想像してるの!?」



 私的にはえっちぃ事とか聞くなら程よくマイルドにして下さいって意味の優しくしてねだったんだけど。どうやら伝わらなかった模様。



「流石芸能人ね。場の動かし方がわかってるというか……」


「ごめん、多分それ勘違い」



 勘違いは更なる勘違いを生んでいく。これ以上の脱線を防ぐため、私は先を促す。



「それで私に言いたいことって……?」


「それなんだけどね、何ていえば言えばいいのかなあ」



 珍しく菊池さんが悩んでる。そんなに言いにくいことなんだろうか。



「……こういう時はスパッと言った方がいいよ。比奈、どうして私達を呼ぶときさん付けなの? 距離を置かれてるみたいで不快。私達のことが嫌いなら仕方ないけど」


「ちょ……若菜、スパッと言い過ぎ!」



 菊池さんが中里さんを慌てて止める。

 


「あーまあ、勘違いしないでね比奈。私達、和晃を通して知り合った仲でしょ? だから若干他人行儀になるところもあるかもしれないけど、少なくとも私と若菜は比奈と仲良くなりたいって思ってる。それは貴女と出会って数ヶ月過ごした結果ね。アイドルだからとかそんなんじゃないわよ。一人の女の子としていい子だなって思ったからもっと近づきたいの。で、一番分かりやすい関係ってのは名前だと私は思うの。貴女と仲良くなるために私と若菜は積極的に名前で呼んできたけど……比奈はまだ私たちに対してさん付けだからさ。名前で呼んで欲しいなって思うわけ。比奈がよかったらだけど」



 菊池さんは真剣な面持ちで語る。このさん付けがそんな風に思われてたなんて……。



「私が友達少なかったっていうのは聞いてると思うけど……それを全て原因にするつもりはないけど、経験が少なくて、いいのかなって遠慮しちゃった所もあると思う。あと単純に呼び方を変えるきっかけがなかったっていうのもあって、ここまで来ちゃった。……私はもう逃げないよ。二人のことを名前で呼ぶ!」


「呼び方を変えるだけでこの熱意……比奈ってやっぱ健気ね。あんたの思いは伝わったわ。さあ、まずは試しに私の名前を呼んでみなさい!」



 菊池さんがこちらを見る。……っと、もう「さん」はダメなんだ。

 私は深く息を吸い込む。緊張することはない。高城和晃をカズ君って呼ぶようになった時に比べたらこんなの朝飯前なんだから!



「……ゆ」


「ゆ?」


「……ゆ、由香梨」


「ぐふぅっ!?」


「何で!?」



 名前で呼んだら腹を殴ったような声が漏れ出た。どういうことなの。



「い、いや……破壊力が予想以上に高くて。和晃も最初はこんな気分だったのね……」



 菊池さ……由香梨はよくわからないことに勝手に納得してる。

 


「……由香梨は大袈裟。比奈、次は私の番」


「う、うん」



 無表情な彼女の前に立って私はゆっくりと彼女の名前を紡ぐ。



「……わ、若菜……」


「……なるほど」



 彼女――若菜は静かに頷いて、



「……由香梨の気持ちを理解した。私、今なら女の子同士の恋愛を認められると思う」


「レズも悪くないわね……」


「ごめん二人ともさっぱり分からない! いつもの二人に戻って!」



 私を起因に百合が流行るのはそれはそれで困る。もしそうなったらカズ君達は男同士で……カズ君は意外と受けかなあ……。



「……比奈?」


「い、いや何でもないよ由香梨!」



 頭を振って今のイメージを追い出す。多分、今のは私が一番はまってはいけないジャンルだ。はまってしまったら酷い未来しか想像できない。


 

「まあとにかく、比奈との友情も深まって、完全に関係が対等になったところで、本番いきますか」


「本番……?」


「そ、修学旅行の夜といったら本音の暴露。恋する乙女の心情を吐き出す所でしょー!」



 イエイ!と由香梨は手を上げる。



「というわけで前々から気になってたんだけど、比奈って和晃のこと好きなの?」


「…………え!?」



 突然私に振られる。しかも内容が内容だけに理解した時の驚きようが半端じゃなかった。



「な、ななななんで私がカズ君を?」


「いくら恋人のフリって言っても、あんだけ二人でいたら恋が芽生えてたとしても全く不思議じゃないでしょ? 実際のところ比奈はどう思ってるのかなってね。若菜もそう思うでしょ?」



 若菜はこくりと首を縦に振る。

 私がカズ君を好きかどうか……? そりゃ好きだけど、異性としてどうかなんて今まで考えてみたこともない……わけじゃないけど、でもあの、本当に彼氏になるとなるとまた別の話なんじゃないかなって私は思うわけで。いやでもカズ君と話してると楽しいし……。



「……にゃ、にゃんぱすー」


「比奈が混乱しすぎてわけわからない言葉を放った!?」



 ごめんなさい。私の馬鹿な頭ではキャパシティ足りません。



「わ、わかったわ。とりあえず事実だけ教えて。和晃のことが好きなのか、そうじゃないのか、わからないのか」


「わからない……」



 頭がクラクラしてきた。恋愛とかレベル高すぎる。



「凄く納得のいかない回答になったけど……少なくとも完全敗北にはならなかったんじゃない?」



 由香梨がその言葉を若菜に投げかける。完全敗北って何? 私が頭をかしげていると由香梨はチラッとこちらを見て、



「あれ? まさか比奈気づいてなかった?」


「……何が?」


「あー……やっぱりそうか。若菜、これはあんたからはっきり言った方がいいんじゃ?」


「……そうね」



 若菜はスッと前に体を出して、私に正面を向ける。そして彼女は口を開く。



「……比奈。私は……和晃君のことが、高城和晃のことが一人の男として好き」


「若菜が和晃君を……?」


「……うん。それで、まだそうと決まったわけじゃないけど、同時に宣戦布告もしとく。比奈。貴女には負けない。あなたが和晃君のことを好きでも、偽者でも本物でも二人が恋人関係なら、あなたから和晃君を奪ってみせる」



 若菜にしてはいつになく真剣で、瞳には敵意がはっきりと感じ取れた。



「え……ええええええええ!?」



 しかし私は声を上げて驚愕しただけだった。



「……比奈って人の感情を読み取るのが得意って和晃から聞いたんだけど?」


「つ、通常のならわかるけど、恋愛ごとに関しては経験ないから分からないの。でも、若菜がカズ君を……そ、そうだったんだあ」



 でもそれを考えると若菜の異常なカズ君推しの理由も納得できる。過去を振り返ってみると――なんで気づかなかった私ってぐらい色々してるな若菜って。



「……まあ、そういうこと。比奈と張本人の和晃君以外は感づいてるけど」


「私とカズ君って典型的な鈍感だったんだね……」



 でも若菜がカズ君に恋してる、か。やっぱりこの年になると皆恋とかしてるんだなあ。



「じゃ、じゃあ由香梨は誰かに恋とかしたりしてないの?」


「……比奈。ナイス質問」



 若菜は親指を立ててくる。

 由香梨はあはは、と快活に笑って、



「してないよー。色々言ってる割りには私も比奈と同じで恋愛未経験者なんだ」



 彼女はあくまで自然体でそう言ってのける。が、私にはその態度が逆に怪しく感じられた。



「由香梨、嘘ついてる?」


「何言ってるの比奈。私がそんなことで嘘なんか言うはずないでしょ」



 じっと彼女のことを見続ける。次第に彼女は私の視線から顔を逸らしていく。



「……ほ・ん・と・う・に?」


「ごめんなさい。今していないのは本当ですけど、未経験は嘘です。だからヤンデレ風味は止めてください」



 私は人の感情を読み取るのが得意。思い出したように設定を使っていくスタイルだ。



「……今宵は隠し事なしって言ったのは由香梨。全てはいてもらう。誰に恋してたの? 私たちが知ってる人?」



 若菜の質問に由香梨は逡巡を見せる。



「……二人がよく知る人物よ。高城和晃。今までの人生で私が恋した唯一の男性」


「……やっぱり」



 若菜はふうと息をついただけだった。私にしてはまた声を上げそうになるぐらいビックリしたわけなんだけど。



「あちゃー、ばれてた?」


「……女の勘を舐めない。今はもう好きじゃないの?」


「完全に割り切った、と言いたい所だけどよくわからない。すっぱりあいつへの気持ちを別離したいのは確かなのに、あいつは前と同じように接してくるせいで……」



 はあ、と由香梨はため息をつく。

 彼女の言い方を聞くと疑問に感じることがあった。



「その言い回しだと由香梨は……」


「大体予想してる通りよ。中学の頃、告ってフられた。綺麗さっぱりね」



 彼女は手を上げてやれやれといわんばかりの姿を取った。

 唖然とする。二人の中学時代にそんなことがあったなんて。でも昨日の夜十四年間の絆とか言ってたのも確かだ。



「ねえ、由香梨。私、カズ君と由香梨の過去を聞きたい。駄目かな?」


「……比奈と同意見」


「別にいいけど、聞いてて面白い話しじゃないわよ?」



 構わないと二人揃って答える。



「全く、和晃のことになると二人とも積極的になるんだから……愛されてるわねあいつも」



 由香梨はそんな前置きをして、彼女とカズ君の十四年間を語り始めた。







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