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四話「いざ行かん! お化け屋敷研究」

「さあ、本命のお化け屋敷よ!」



 ビシイと由香梨がお化け屋敷を指差す。

 彼女達が復活した後はいつものような賑やかさに戻った。ただ復活まで結構時間がかかり、お化け屋敷の後にランチを取るはずが、先にランチを取ってからお化け屋敷という形になってしまった。



「さっきも話した通り、一斉に入るんじゃなくて何グループかに分かれていくぞ。終わった後に合流してそれぞれのグループで感じたことを言い合う。いいな?」



 直弘の提案した案は中々に理知的で割りと真面目に研究っぽくなってた。流石だ。



「全部で七人だから二、二、三の三つのグループだね」


「久志の言うとおりだ。それじゃあグループ分けのじゃんけんだ。同じ手を出した奴が二人、もしくは三人いたらそいつらでグループを組む。いいな?」



 直弘の声掛けに全員頷く。



「じゃあいくぞ。じゃーんけーん、ポン!」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「……あんたとだけは一緒に入りたくなかった」


「お姉ちゃんには同じ台詞をそっくりそのまま返すよ」


「お願いだから二人とも大人しくしててくれよ……」



 お化け屋敷突撃班その一は俺、由香梨、恵ちゃんで構成された。俺は彼女達の中間に立たなければならないため、気苦労すること間違いなしだ。言ってしまえばまあ、外れグループな訳だ。

 ああ、比奈と若菜ちゃんとそれぞれ組んだ直弘と久志が羨ましい……!



「しかし結構雰囲気出てるわね」



 由香梨がボソッと呟く。

 中は完全に暗いというわけでなく、蛍光灯がチカチカとひかり、明暗の切り替えが怖さを醸し出している。

 今のところはそういった視覚的な怖さとかで、ドッキリに近い怖さはないんだけど、そろそろ何か来てもおかしくない。



「いやあああああああ!!」



 右隣にいる由香梨から突然の悲鳴が上がる。腕にがっしりと抱きつかれる。



「うわ! 何だよ、どうした」



 逆にこっちが驚いてしまった。



「あ、ああああああれ……」



 彼女が指を差した先にはひびが入った窓があった。一見、何にもないように見えるが……。

 蛍光灯が輝き、はっきりと窓が映る。窓の上部には髪を逆立て、充血した目でこちらを見てくる何かがいた。さらに次の瞬間、その何かが思い切り窓ガラスを叩く!



「ひいい!」

「うおっ!」



 由香梨は更に強く腕に抱きついてくる。柔らかい物体が当たっているが、そんなこと気にしてる余裕ないみたいだ。



「中々凝ってるなー。今のはちょっと驚いた」


「も、もう私SAN値ピンチなんだけど……」



 つまり由香梨は大分参ってるということである。いつもはサバサバしてどちらかというと男らしい彼女だが、こういった女の子みたいな面を見せてくると可愛いものがある。あと腕に胸が当たって気持ち良いです。



「そんなありきたりなものでそこまでビビるなんて由香梨お姉ちゃんは子供だねー」



 で、恵ちゃんは安定の煽りスタイルである。



「ふふん、突然後ろから触られたって全然怖くないよ。驚かそうとしても無駄なんだから」


「何言ってるのあんた?」


「俺も由香梨も恵ちゃんに触ってないけど」


「ということは後ろにおどかす役がいるのね!?」



 くるっと恵ちゃんは振り返る。つられて俺達も後ろを向くがそこには誰もいない。



「恵ちゃんの気のせいじゃ……」



 と言おうとしたところで、



「ドコ゛ミ゛テ゛ル゛ノ゛オ゛?」



 上から突然髪の毛らしきものに全身を覆われた人が現れて、ガシイと恵ちゃんの頭を左右から掴む。



『うわあっ!?』



 俺と由香梨も驚き、直接触られた恵ちゃんは、



「ひゃああああああっはっはっはっはー!」



 もの凄い奇声を上げて先に走っていってしまった。

 いや、今のは仕方ない。本気で恐怖を感じた時、人間は笑ってしまうと聞いたがどうやら本当のようだ。



「由香梨、はぐれる前に恵ちゃんを追いかけよう!」


「う、うん! けど怖いから絶対に離れないでね! フリじゃないからね! 離れたら殴るからね!?」


「脅すなよ!? 離れないから安心しとけ!」



 腕に抱きつかれたまま走るという奇妙な見た目になってしまった。

 少し走ると身を縮こまらせてがくぶる震えるツインテールの子を無事発見した。



「大丈夫、恵ちゃん?」



 後ろから話しかける。ひっと小さく悲鳴を上げて振り返る。おびえていたが、俺とわかると安心したらしく震えが収まった。そして、



「お、お兄ちゃん」



 空いている左腕に抱きつかれる。



「こ、怖いから私もこうさせて……」



 まるで捨てられた子猫のように瞳をうるわせながら体を押し付けてくる。



「お、おお!?」



 結果、普通に怯える少女二人に頼られる男の俺。しかも左右の腕に絡みつかれ、そのどちらも柔らかいものが当たるという嬉しさ。直弘、久志、このグループ大当たりだぜ!

 とはいってもこのままだと移動しにくい。時間を喰って後ろのグループに追いつかれるなんてこともあるかもしれない。となると、さっさとゴールしてしまった方が無難だろう。



「よし、じゃあ先進むぞ」



 といった矢先に足首が掴まれる。そこ掴むのは反則じゃね、とか思いながら背後を振り向く。

 だが、視界の隅にこちらに向かって誰かが走ってくるのが見えた。頭から血を流して……。



「おいおい、マジか……」



 気が付くと足は解放されていた。これが意味することは一つ。



「二人とも、逃げるぞ!」


「もうやだー!」


「調子乗ってごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!」



 鬼ごっこのスタートだった。あれか、追われる恐怖ってやつか!



「うーらーやーまーしー爆発しろー」


「お前、それリア充爆発しろ的な意味合いで言ってるよね!?」



 それでいいのかスタッフ!?

 追いかけるスタッフは俺達と絶妙な距離を空けて追いかけてくる。しばらく走ってどうにか振りまくが……。



「あれ? 二人は?」



 このお化け屋敷は俺達が求めていた、トラップ&迷路形式のお化け屋敷である。この状況下ではぐれたとなると……。



「……すっげえめんどくさいことになりそうだな」



 言った傍からどこかで聞きなれた悲鳴が上がった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「いやー、流石遊園地のお化け屋敷。本格的だったなあ」



 それなりに驚き怖がった。純粋に楽しんだといえる。ただ……。



「……二人とも大丈夫か?」



 由香梨と恵ちゃんの方を見る。返事がない。ただの屍のようだ。


 はぐれた後、悲鳴を頼りに二人を探し出し、どうにか出口にたどり着くことができた。無事合流して戻ってこれて本当によかった。

 その代わり、女子二人は完全に満身創痍な状態だ。ジェットコースターの時とは比べ物にならないくらいぐったりしている。



「この二人がこうなるぐらいだし、比奈がいる第三班が心配だ」



 第三班は比奈と久志のグループだ。久志が比奈を助けてると思うけど、それ以上に比奈が凄いことになってそうで不安である。真冬に下着姿で外に放り出された時ぐらいに体が震えてそうだ。……ほんと頼むぞ、久志。

 

 ちなみに第二グループの直弘と若菜ちゃんペアに至っては何も心配していない。あの二人が怖がるとは思えないからだ。帰ってきたら、あんな茶番まるで怖くないとか言い出しそう。

 そんなことを考えていると、タイミング良く第二グループの二人が帰ってきた。



「二人ともお疲れ」


「ああ、そっちもな。……菊地と安岡はどうした?」



 何も言わずに二人を指差す。直弘はなるほどと小さく呟いた。



「二人は平気そうだな。怖くなかったのか?」


「……あんな茶番、まるで怖くない」



 予想通りのお言葉ありがとう。



「全て演出だしな。どんなに雰囲気が出ても、そういうものと分かっているのを怖がるなんて俺には無理だ」



 映画とかフィクションを素直に楽しめないタイプだな、こりゃ。人生損する気がする。……まあ、直弘は漫画やアニメは楽しめてるし別にいいか。



「二人とも走って追いかけてくるお化けはどう対処したんだ?」



 走る姿を冷静に眺めてたりでもしたのだろうか。そんなのスタッフが不憫すぎる。



「……最初見た時は大変そうだなって思った」


「うむ。だから毎回毎回お客に全力疾走して疲れないか、と話しかけてしまった」


「……そしたら『疲れるよ……。さっきも女二人を両腕にひっつけるリア充を追いかけてさ……こんな所で何で一人で頑張ってるんだ俺は……』って涙声で語ってた」


「お前らの方がよっぽど怖いわ」



 お化け屋敷で働いてる人から見たらたまったもんじゃないだろう。

 この二人は今回の目的であるお化け屋敷の研究に関しては頼もしいことこの上ないが、しかし普通の感想を得られるのは無理だ。ある程度予測はついてたことだけどさ。

 まあ、その辺は第三ペアの久志と比奈と分かち合おう。



「久志達もそろそろ戻ってきてもおかしくないはずなんだけどな」


「まあ、お前らと違って相当苦戦してるだろうからもう少し時間かかるんじゃないか? のんびり待ってようぜ」



 三人でダウンした二人を介護しながら比奈達を待つことにする。

 待ってる間、喉が渇いたので飲み物を買う。ついでに軽食も取る。食べ終えると三人で感じたことを話し合い、研究を進める。ダウンしてた二人も徐々に元気を取り戻し、話し合いに加わる。時計を見る。まだ来ない。



「いや、遅すぎだろ!」



 待ち始めてから既に三十分近く経過しようとしていた。



「……何かあったのかも」


「比奈のことだから、気絶しちゃっててもおかしくないかも」



 真剣な表情で恵ちゃんが言う。でも流石にそれは……あるかもしれない。

 そんな感じに本気で心配し始めた頃、おーいと聞き慣れた声が遠くから聞こえた。声のほうを見ると見覚えのある二人組みがいた。



「ああ、よかった。無事だったか」



 ほっと胸を撫で下ろす。

 徐々に近づいてくる二人は、片方が死んだように動かず、もう片方はその人物に肩を回して引きずるように歩いている。

 俺は目を疑った。目の前に広がる光景は、俺らが予想していたものをまるで正反対のものだったからだ。 

 そう、比奈が久志を抱えている。死んでいるのは……久志の方。



「久志っ!?」



 この場の誰もが予想していなかった事態が起きた。全員慌てて比奈達に駆け寄っていく。



「ご、ごめん。遅くなっちゃって」


「それは構わないけど……どういうことだこれは?」



 久志は白目をむいて気絶していた。折角のイケメンが台無しだ。



「あー……えーっと……久保田君って怖いの駄目みたい」


「なん……だと……」



 爽やかな笑顔を浮かべるとそれだけでファッション雑誌の表紙を飾れそうなイケメンがそんな!



「久志君って苦手なこと自覚なかったの?」


「あったらしいんだけど、昨日本当は怖かったかもしれない話を見て耐性つけてきたって自信満々に……」


「あいつアホか!?」



 久志に天然疑惑勃発。



「比奈は大丈夫だったのか?」


「普通に怖かったけど……開幕から久保田君が別人のように悲鳴をいっぱい上げて、私が驚くどころじゃなかったんだ。途中まで何とか平気だったんだけど、後ろから人が追いかけてきたところで表現しようのない声を上げて、挙句の果てに泡吹いちゃって……」


「久志……お前……」



 心配しなきゃいけないところなのはわかってる。けど何だろう。あいつの株が見る見る落ちていくような気がしてならない。



「逆に追いかけてきた人が驚いちゃって、『あの、大丈夫ですか? よかったら介護室に連れていきますけど……』って言われたりもしたよ……」



 追いかける人……今日は濃い一日だと思ってるだろうな。



「それで介護室に?」


「ううん。すぐに復活して、大丈夫ですって言って、進み始めた。私は無理しない方がいいって言ったんだけど、ゴール寸前で力尽きてこうなっちゃいました……」



 もう一度久志を見る。漫画なら仏壇に置かれている鈴の音が擬音で描かれているだろう顔をしていた。



「ちなみに聞くが、久志はどこから怖がっていた?」


「本当に開幕からかな。雰囲気出すための小物とか見てもヒッとか言ってたし。怖がるポイントは全部悲鳴上げてたし……人間って本当に恐怖すると笑うんだね」



 比奈も俺と同じことを悟ったらしい。

 で、質問を投げかけた直弘は何故か満足げに頷いている。



「何か……凄い意外な結果で終わったな。というか皆後ろから追いかけてくる人と関わりすぎだろ」



 レギュラー入りしそうなぐらい濃い登場をしてる。



「あれはインパクトあったからね。よく覚えてるよ」


「私は上からどこ見てるのって言ってきたのが一番効いたけどね……」



 あの時の恐怖を思い出した恵ちゃんの顔が青ざめる。



「足首掴まれてからの逃走だもんな。そりゃあインパクトも残るよなあ」



 振り返って下を向こうとしたら視界に入るんだもの。あれは焦る。



「足首を……? そんなのあったか?」


「……私も岩垣君と同意見」


「私もなかったよ。それに、そういうのがあったら久保田君は更に動転してたと思うけど」

 

「……え?」



 俺は足首の掴まれた部分を確認する。強い力で握られてたわけでもないのに赤く腫れていた。



「…………嘘だろ」



 まだ日は高いというのに、カラスが鳴いていた。




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