エピローグ
欠伸と共に体をうーんと伸ばす。涙目になりながら腕時計を確認する。
昨日はとにかく騒ぎに騒ぎまくった気がする。比奈の歓迎会だったはずがいつの間にかただの宴会みたいになってしまった。先生が許可を取ってくれてなかったらやばかった。
ただそのお陰で最初は緊張気味だった比奈も周りのテンションに影響され始め、最後の方は思い切り笑ってた。
特に由香梨と若菜ちゃんの二人と仲良くなったみたいで俺としては嬉しい。歓迎会を開いてよかったと改めて思う。
確かに仲良くなったのはいい。めでたいことだ。しかし、いくらなんでも次の日に遊びに行こうというのはどうだろう。
由香梨が和晃だけズルい!みたいなことを言い出して今日も遊ぶことになっていた。
「お、来た来た」
隣にいた由香梨が道の奥を見ながら言う。
「おはよう。二人とも早いね」
「……おはよう。眠い」
「全くお前らは朝から元気だな」
久志、若菜ちゃん、直弘がそれぞれに挨拶する。
「おはよう。時間あるのにこいつに無理矢理連れて来られてな」
お陰で休日の貴重な睡眠時間が……。
「いいじゃんいいじゃん。こういう日は楽しまないとね!」
由香梨は相変わらずである。
「……それで、来てないのは比奈だけ?」
若菜ちゃんが冷静に分析する。
「ああ、さっき連絡あったからそろそろ来ると思うんだけど……って言ってるそばから来たぞ」
道の先から比奈が小走りでやって来るのが見えた。
「ご、ごめん少し遅れちゃった?」
「いや俺たちが早かっただけだから。香月さんもむしろちょっと早いよ」
久志の言うとおりだ。
比奈も今日を楽しみにしてたのだろう。
「ちょっと早いけど全員揃ったし行こうか」
「いや待て菊池。香月の息がまだ上がってる。少し待ってやれ」
ううむ、直弘が比奈をさん付けしないのはどこか違和感を感じる。
「あはは、私は大丈夫だよ」
「……時間はあるし、ゆっくりで平気」
比奈の息が整うまでのんびり待つ。
彼女が元気になったところで由香梨を先頭に移動を始める。
各々雑談しながら歩いていたが、比奈は俺の隣にやってくる。
「皆いい人だよね」
彼女が囁いてくる。
「ああ。きちんと話せばわかってくれるだろ?」
「そうだね。やっぱり人間、わかり合おうとする気持ちが大切って理解したよ」
そうだ、人間同士、互いに理解し合う気持ちが大切なんだ。
相手を知りたいって思うような理由はいくらでもある。可愛いから、かっこいいから、面白いから。席が左右前後だったから、何てのもありだ。当然相手が有名人だからというのも。
始めにそれを思うのと、そこから話し合って親睦を深めようとする。大事なのはこの二つだろう。
仲良くなり、相手の気持ちを知ることでようやく友情へと発展するのだ。
今回はそのために互いに歩み寄る必要があった。結果、わかり合うことが出来たのだ。
「聞いたよ。昨日の歓迎会、カズ君が私を想って提案してくれたんだよね」
「歓迎会をやろうって言っただけだ。詳しい内容は他の人に投げ出したし」
「それでも嬉しいよ」
彼女は俺の前に立って、微笑みながら、こちらを見る。
「ありがとね」
彼女の笑顔はほんと多種多様だ。まさかドキリとさせられるとは思わなかった。
俺も皆と同じだ。まだまだ彼女のことは全然知らない。だから、俺たちもこれからも互いに理解し合っていきたい。
そうしなければ、人は歩み寄ることは出来ないのだから。
「こらそこ、イチャイチャしない」
先行してた由香梨達が俺たちを呼んでいる。
「行こ、カズ君」
「ああ」
俺たちは皆の所へ駆けていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
しかしまだ俺達の物語は始まったばかり。
この先様々な困難が待ち受けているとも知らずに、この時はいつまでも笑い続けていた。




