エピローグ
<side Hina>
ふと顔を上げると暗闇が広がっていた。
私はこの光景を何度も見ている。例えばそれは、挫けそうになった時。例えばそれは、諦めた時。例えばそれは、希望が消えてなくなった時。
ここに来るまで何度も何度も目の前は真っ暗になって、それでも私は足を動かした。進んだ先にあるはずの光を目指して。
そうして私はついに光の下にたどり着くことが出来た。アイドルになるという夢が成就したんだ。
けれどすぐに暗闇はやってきて、再び私の視界を覆い隠してしまった。
流石にもう駄目かと思った。私は体育座りで暗闇を眺めて全て終わりにしようとしたことがある。
そんな時、不意に光が差し込んだ。光の先から手が差し伸べられた。
――香月比奈は処女だ!
それはあまりにも最低な告白だったかもしれない。けれどその言葉は私を掬い上げるきっかけとなった。今では変わったキメ台詞として私の中でお気に入りワードと化している。
私を暗闇のどん底から助けてくれた彼。
今は彼が暗闇に同化しようとしている。
彼はもしかしたらそれを望んでいるのかもしれない。――けれど私はそんなの納得いかないから。たとえ迷惑といわれても私は彼をこの明るい世界を見て欲しいと願う。
ふと顔を上げるとそこにはたくさんの光源があった。その一つ一つの光が私なんかの舞台を期待して待っている。皆キラキラした笑顔で、私も釣られて笑顔になってしまう。
大丈夫。私はここに立つ理由を知っている。ここに立ちたいと思った理由を知っている。
だから私はもう一度、夢を叶えるために努力しよう。
「みんなー、今日はありがとう! 最後の曲を歌う前に私からお知らせがあります」
眼前の光達はザワザワと騒ぎ出す。そのほとんどが期待の眼差しだ。私が笑っていることが彼らの希望を作り上げているのかもしれない。
ごめんねは言わない。こんなことしなきゃよかったなんて後悔もしない。目の前の皆に感謝してありがとうって伝えるべきなんだ。だから満面の笑みで宣言してやるんだ。
「私、香月比奈は――アイドルを引退します!」




