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アイドルと公開恋愛中!  作者: 高木健人
9章 三年生編
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エピローグ

 ゴールデンウィークもとうに過ぎ、学生の天敵である中間試験も無事に終えた。

 この期間にも語るべきことは幾つかあったのだが……まあこれは追々語るとしよう。


 さて今日は試験が終わって初めての部活活動日。皆、テストという鎖から解放されて清々しい顔をしている。



「おー、お前ら皆すっきりした顔してるなー」



 そこにいつもはないはずの声が部室から飛び出た。のんびりとした声の正体はうちのクラスの担任であり、同時に(一応)演劇部顧問の越塚先生だ。



「テスト終わって早々で悪いが、少し簡単な連絡事項があるから聞いてくれ」



 越塚先生の言葉に皆が注目する。



「手短に説明するぞー。この部活は見ての通り文化部だ。で、その最大の発表の場は夏休み明けに行われる崎高祭だな。これのために準備や練習はどんなに早めにやっても損はねえんだ。一年生にとっては入って間もないように見えるが、この時期から意識してかねえと劇が完成しないんでな」



 先生は手に持っていた冊子を見せびらかす。



「これは今年の劇の台本だ。前の部長が作ったものだ。中身チェックして、問題ないと判断した。今年はこれでいこうと思う。まあ、後で印刷して配布するからよ、お前らもチェックしてこれで文句ないかどうか改めて話し合ってくれや」



 あの部長が創った物語なら、多分、全員が納得すると思う。



「でだ、簡単にだけどそれぞれ何がやりたいか調べたい。もちろん本決定じゃないから、後で変更も可能だ。今の段階でやりたい仕事に挙手してくれ」



 演劇部にはいくつか役割がある。ライトアップだったり、音楽や効果音を流す係などの裏の仕事。あとは実際に舞台で演じる役者など。二年にもなると自分に合った役割が分かっているため、始めから「これをする!」と決めてる者も多数いる。問題は一年で、部活に入ったばかりの彼らは自分は何に向いているのかが分からず、試行錯誤することになる。

 越塚先生の今日のアンケートはそんな一年の今後のための足がかりというわけだ。ここである程度役割を決めていおいて、それに準じる活動をこの先は行っていくというもの。


 先生は裏方の仕事から順に訊ねていく。それが終わると端役、準メインキャスト、メインキャストと段々と大事な役割を聞いていく。

 ここまででほとんどの部員が手を挙げ、残るはヒロインと準主役と主役の三つが残った。



「じゃあ準主役に該当する役をやりたいやつはいるか?」



 しかし誰も手を挙げない。

 先生は次にヒロインはいるか、と訊ね、それには若菜ちゃんが手を挙げた。



「よし最後に主役をやりたい目立ちたがり屋は誰だー?」


 

 主役というのは案外やりたがらないやつのほうが多い。極端に目立つのを恐れるからだ。去年は部長が自ら候補に出たそうで。ちなみに今年の部長はどちらかというと万能タイプで胸を張って前に出るというより、どの場面でも的確に仕事をこなす何でもできるやつだ。だから主役では立候補しなかった。


 場がザワっとする。それは三年ではなく二年の祥平が堂々と立候補したからだろうか。

 いや、そんなわけないか。というか、理由は俺が一番分かっている。

 

 俺が主役をやりたいと意思表明したからだろう。



「……おい、高城、お前罰ゲーム中かなんかか?」


「失礼ですね先生……」



 気持ちはよくわかるけど。



「自分の意思です。俺は主演になりたいんですよ」



 場がさらにざわざわする。つい数週間前まで部活サボってたやつがこんなこと言ったらそりゃあこうなるわな。

 周囲がざわつくなか、目を丸くしてこちらを見ていたのは祥平だった。



「せ、先輩……?」


「悪いな祥平。俺も主演狙ってたんだ」


「は、はあ……。本気なんですよね?」



 頷く。



「……分かりました。でしたら俺、先輩に主役を譲ります」



 祥平は手を下げようとする。だが、



「手下げるな、祥平。お前も主役一点狙いだろ? 気遣う必要は無い。自分のやりたいことを簡単に譲るな」



 俺が主演を狙うのは当然親父との決着をつけるためだ。前提条件に主演にならないといけないっていうのがあるから譲ってもらえるのはありがたいんだけど……実力でもなく、厚意で掴み取ったものじゃ親父を納得させることなんて到底出来ない。

 それに俺だってそんな中途半端な理由で主演を演じるなんて嫌だ。どうせなら正々堂々立ち向かって勝ち取る方がいいに決まってる。


 祥平は複雑な顔を浮かべる。けれどその手を下げることはなかった。



「主演候補は黒瀬と高城か……。うーむ、まいったな」


「やりたい役がかぶった場合は実力が伴ってる方が選ばれるんですよね?」



 端役ならまだしもメインの役でかぶった場合は実際に演じてもらい、良かった方が選ばれる。この演劇部の代々の方法だ。



「ん、そうだ。……本決定は六月に入ってからだ。その時にかぶったやつとはよく話しておけ。それでも候補が二人以上いたなら一学期の期末テストの後、その実力を見せてもらう。そこでどうするか俺が決める。もちろん黒瀬と高城も、だ。まあ、まだ時間はあるからゆっくり考えておけよ」



 きっと祥平は主演狙いから降りることはないだろう。

 俺も事情が事情ゆえに降りることはない。

 つまり、主演は俺か祥平のどちらかになる。


 それが決定されるのは時期は親父の言ってた実質的な有効期限の半年の半分もないはずだ。

 

 時間はない。それでも祥平には勝てねばならない。

 俺と比奈の栄誉を取り戻すために。

 今まで苦しめられた鎖から解放されるために。


 全てが決まるまで、残り――二ヶ月。





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