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第七十六話:夏の気配と迫りくる波乱


山本嘉位やまもと かいとの関係が公になり、蓬田香織よもぎだ かおりの日常は大きく変化した。周りの生徒たちの視線、ひそひそ話。すべてが、香織に突き刺さる。しかし、彼の「心から愛している大切な人」という言葉が、香織を支えてくれた。


夏休みが近づき、夏の海辺への期待感が高まるにつれて、香織の心臓はドキドキと鳴っていた。彼と二人きりで過ごす時間。それは、香織にとって初めての、そして特別な体験になるだろう。そして、それは、もしかしたら、「大人の関係」へと進む、大きな一歩になるのかもしれない。


学校では、桜井さんや佐伯麗華さえき れいかからの嫌がらせは、目に見える形ではなかった。しかし、香織は、彼女たちの冷たい視線や、時折聞こえてくる意味深なひそひそ話に、常に不安を感じていた。彼女たちは、諦めていない。何か、次の手を考えているのかもしれない。


特に、佐伯さんの存在は、香織を不安にさせた。彼女は、「かい」の幼馴染であり、彼の家に「繋がり」があると言う。それは、かえでと同じように、二人の関係にとって大きな壁になるかもしれない。


ある日、香織の元に、差出人のない手紙が届いた。学校のポストに入っていたらしい。手紙を開けてみると、そこには、香織と「かい」が裏門近くで抱き合っている写真が数枚と、そして、こう書かれていた。


「これ以上、お兄様に近づかないでください。あなたのような方が、お兄様の傍にいるのは、お兄様のためになりません」


それは、明らかに山本楓からのメッセージだった。香織の心臓がドクンと大きく跳ねる。楓は、まだ二人の関係を諦めていなかった。そして、直接的な行動に出始めたのだ。


手紙を握りしめ、香織は震える。楓は、どんな手段を使ってくるのだろうか。彼に迷惑をかけてしまうかもしれない。


放課後、香織は裏門で「かい」に会い、楓からの手紙のことを話した。「かい」は、手紙を見て、怒りに震えていた。


「楓め…! こんなことを…!」


「かい」は、香織の手を取り、優しく握りしめた。


「ごめんね、蓬田さん。僕のせいで…楓が、こんなことを…」


「かい」は、楓にきちんと話すと言ってくれた。そして、香織に、何も心配しないでほしいと言ってくれた。しかし、香織の心には、不安が残る。楓は、簡単には諦めないだろう。


さらに、夏休みが近づくにつれて、彼の家の事情が、彼に重くのしかかっているのが、香織にも感じられるようになった。婚約者のこと。それは、彼の家にとって、非常に重要なことなのだろう。彼が、時折見せる苦しそうな表情に、香織の心は締め付けられる。


夏の海辺への約束。それは、香織にとって、希望の光だった。しかし、その光は、迫りくる波乱によって、影を落とされようとしていた。


夏休み直前のある日、学校で、山本家の関係者らしき人物が「かい」を訪ねてきたという噂が流れた。そして、その人物と「かい」が、深刻な顔で話していたという話も。


香織は、その噂を聞き、胸騒ぎが止まらなかった。彼の家の事情が、二人の関係に、大きな影響を与えるのかもしれない。


夏の予感は、甘いだけではない。それは、波乱の序曲を奏で始めていた。夏の海辺への道のりは、険しいものになるかもしれない。しかし、香織は、彼と一緒に、この困難を乗り越えていきたいと強く願っていた。夏の海辺で、彼と、二人だけの特別な時間を過ごしたい。その願いだけが、香織を強く支えていた。


波乱は、すぐそこまで来ている。そして、夏の海辺で、二人の愛は、試されることになるだろう。


(つづく)

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