表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/340

第四十二話:日常への帰還と秘密の繋がり

修学旅行から帰宅した翌日、蓬田香織よもぎだ かおりは、いつもより少しだけ緊張しながら和井田学園の門をくぐった。見慣れた校舎、行き交う生徒たち。すべてが修学旅行前と同じなのに、香織自身の心は、この数日間で大きく変化していた。山本嘉位やまもと かいの恋人になった。その事実だけで、香織の世界は輝きを増していた。


教室に入ると、八重やえがいつものように明るく声をかけてきた。「かおり! おかえり! 修学旅行、楽しかったー?」


「ただいま、八重! うん、楽しかったよ!」香織は笑顔で答える。八重と修学旅行の思い出を語り合いながらも、香織の心は常に「かい」のことを考えていた。学校で、彼とどう接すればいいのだろうか。周りの目を気にしながら、彼と恋人同士として自然に振る舞えるだろうか。


一時間目の授業が始まる前に、教室に「かい」が入ってきた。彼の周りには、すぐに生徒たちが集まり、修学旅行の話題で賑わう。香織は、遠くから彼を見つめることしかできなかった。彼も香織に気づいたようで、一瞬だけ視線が合った。その時、彼の顔に浮かんだ微笑みは、他の人には分からない、二人だけの秘密の合図だった。


授業中、香織は時折「かい」とおもむろにノートに名前を書き綴ずった。「かい」の事を考えながら、次第に文字は大きくなっていく、ハートマークばかりのノート。休憩時間になり廊下に出ると、彼の教室では、すぐに彼の周りに人だかりができる。特に、彼の班が同じだった美少女、桜井さんが、積極的に話しかけているのが見える。


香織の心に、またしてもチクリとした痛みが走った。修学旅行中、彼は桜井さんのことを「大切な友達」だと言ってくれた。彼の言葉を信じたい。でも、二人が楽しそうに話している姿を見ていると、不安になってしまう。


昼休みになり、香織は八重と一緒に食堂へ向かった。食堂は多くの生徒で賑わっている。「かい」たちが座っているテーブルを見つけると、そこには桜井さんも一緒にいた。二人は楽しそうに笑っている。


(やっぱり…気になる…)


香織は、自分がこんなにも嫉妬深いのかと、少し驚いていた。彼のことを好きになればなるほど、周りの女の子たちが気になってしまう。


八重は、香織の視線の先に気づいたようだ。八重は何も言わずに、香織の手をそっと握った。その優しさに、香織は救われる。


昼食後、香織はトイレに行くふりをして、こっそりと「かい」にメッセージを送ることにした。修学旅行中に彼がくれたキーホルダーは、家に置いてきた。しかし、彼との連絡手段は、スマートフォンのメッセージや電話がある。


トーク画面を開き、メッセージを入力する。何を伝えようか。桜井さんのことが気になっている、と伝えるべきだろうか。それとも、ただ、彼に会いたいという気持ちを伝えるべきだろうか。


香織は、少し悩んでから、短いメッセージを送った。


「あの…昼休み、どこにいますか…?」


送信ボタンを押すと、香織の心臓はドキドキと鳴り始めた。彼からの返信は来るだろうか。そして、返信が来たとして、彼に何を話せばいいのだろうか。


数分後、既読がついた。そして、すぐに返信が来た。


「今、食堂だよ。どうしたの?」


彼の返信に、香織は少しだけ安堵した。彼は、自分のメッセージにすぐに気づいてくれた。


「あの…ちょっと、山本君に会いたくて…」


正直な気持ちを伝えると、すぐに返信が来た。


「ほんと!? 嬉しいな。でも、今、周りに友達がいるから…」


(やっぱり…周りにいるんだ…)


香織の心に、またしても影が差す。彼が周りの目を気にしていること、そして、彼と一緒にいる友達の中に、桜井さんがいること。


「今日の放課後、少しだけ会えるかな? 話したいことがあるんだ」


「かい」からのメッセージに、香織の心臓が大きく跳ねた。放課後。彼と二人きりで会える。


「はい、大丈夫です」


香織は急いで返信した。昼間の不安な気持ちは、彼のメッセージによって、少しだけ和らいだ。彼に会える。それだけで、香織の心は満たされた。


日常に戻ったけれど、彼との関係は、香織の日常に新しい彩りを加えていた。それは、周りの目を気にしながら、秘密のメッセージを送り合う、少しだけスリリングな、そして愛おしい時間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ