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42コマ目 過失

伊奈野が軽く触れてみて問題ないということを確認した直後、悩める彼女から黒い本が球体をかっさらって行った。どうやら黒い本は早くそれを上位存在さんに渡してしまいたいらしい。

黒い本からするとこの土地は非常に貴重であるため、リスクはできるだけ減らしたいのだ。

黒い本だけであればこの空間からも好きなように脱出できるし、武器もついてこさせることもできるかもしれない。

伊奈野はここに来ることができなくなるかもしれないが、多少効率は落ちるとしてもここの状態は守りたいという判断のもとリスクよりリターンの方が圧倒的に大きいと判断して上位存在さんに譲渡したのだ。


触ることにも恐怖はあったが、上位存在さんの言うように時間をかければかけるほどリスクが高まることも確か。ここが動くべき最善のタイミングだという判断だ。


「黒い本?なんでそんな危ないことを?」


「だって僕たちじゃ解析できないもん」


「それはそうかもしれないけど…………」


当然ながら伊奈野はこの判断に納得しない。

収まったのだから今はそれでいいのではないかと思ってしまうわけだ。

だが、すでにことは成されてしまったのだからどうしようもない事もまた確か。不満げではあるが、そこに関してそれ以上の追及をすることはなった。


代わりに、


「あれって、結局何だったの?何が原因で起きたわけ?」


「あれは、しばらく放置してようって話をしてた本が原因だよ。急にあれが周りの物を吸い込み始めて、どんどんその力が強くなっていったの」


「へぇ。最初の方に破壊しようとは思わなかったの?それも難しそうだった?」


「わ、分かんない。とりあえず何ができるか手探りで始めてたら出した弱めの攻撃が吸い込まれて余計に強化されちゃったりして」


「ふぅん。それは確かに厄介だったね…………自分がその本を取り込みたいからどうにかできないかとか考えてたわけではないよね?」


「え、あ、いや、その…………ち、違うよ?そんなこと思うわけないじゃん」


ごまかすような笑みを浮かべる黒い本に、伊奈野は呆れたような目線を送る。黒い本の習性は理解しているため予想の範疇ではあるが、その結果がこれと言うのは何とも呆れた物だろう。

ただ本人もそのことは反省していそうではあるため、今回はそれ以上余計なことは言わない。

代わりに周囲の惨状を見回して、今度は復興作業を始める。


「まだ使えそうな植物が残ってるか調べないとね。ここまでやって生き残っているのがいるなら、それはそれで生命力とかの面で優秀って考えることもできるし」


「そうだね!そういう植物なら素材にすると長持ちさせたりできそう!」


「それもあるし、将来品種改良とかするならその特性を受け継がせた植物を開発したりもできるかな」


「おぉ~!確かにできるかも!」


店主さんに事情を説明したりして買い直したりなどは必要になるが、それでも新しいデータを取るという利益も少しは取っておかなければならない。今回の事を無駄にするつもりはないわけだ。

ということでそのために今取れるデータを取ったり考察をしたりとしていると、


『ぬわああああぁぁぁぁっ!!!!?????』


「えっ!?何!?」

「今のは上位存在さんだよね?向こうで何かあったってこと?」


突然聞こえてくる叫び声。

突然の事であったため絶対とは言えないが、上位存在さんの声だったように伊奈野には聞こえた。

ただ、その場合に気になることは起きたこと。

今までの流れから考えれば先ほどの球体がまた何かやらかしたのではないかと予想できるわけだが、


「上位存在さんがこんな声を出すような事態になってるの?」


「びっくりだね。こっちで起きたことだったから苦戦してただけで、手元にあるならどうにでもできるかと思ってたけど」


上位存在さんが自分のテリトリー内で起きたことに苦戦する。それはあまり考えにくい事であった。それが考えにくいからこその上位存在なのだから。

とは言っても上位存在なんて伊奈野が勝手に思っているだけではあるのだが、それでも黒い本だって今回の事には驚いている。


「大丈夫ですか?何か手伝った方が良いですか?」


『も、問題ないのじゃ。急に起動したから、危うく妾の道具を奪われそうになっての。焦ったのじゃ。もう解決したから問題ないのじゃ』


「そうですか。解決したなら良かったです」


『それなりに高性能な物じゃから大丈夫かと思っておったんじゃが、予想以上に吸収の力が強くなっておるの。早めに制限を付けておいた方がよさそうじゃな』


「制限、ですか?」


『うむ。吸収が届く範囲にまずは制限をかけるのじゃ。これができればどこまでも吸収の力が届くということはなくなるじゃろ』


「へぇ?そんなことができるんですね」


急な驚きと叫び声により一瞬上位存在さんの上位存在具合を疑った伊奈野ではあったが、この話を聞いてまた考えていた上位存在さを元に戻す。

先ほどの物を制限するようなことができるのであれば、それはまさしく上位存在と言って良いと思うわけだ。


伊奈野だって破壊もできずただ機能停止に一時的に陥らせることしかできなかったわけだから、やはり格が違うというわけだ。

もちろんそうして制限を付けるだけでも十分上位存在具合は伝わるわけだが、更に伊奈野達には格の違いと言うものを思い知らせてきて、


『解析したところ、変な反応を検出したのじゃ。これは、植物の材料が聞いていたものと違うようなんじゃが』


「え?そうなんですか?店主さんに言われた通りのものを渡しましたし、名前も特に変ではなかったはずなんですけど」


「全部僕の知ってる植物だったよ?近い植物があるなんていうことは聞いたことがないけど」


上位存在さんが伝えてきた解析結果。

それは黒い本にも伊奈野にも不思議に思えるものとなっていた。材料の部分に問題があったと言われるとそれは様々な組み合わせを試した結果であるから文句は言えないわけだが、必ずしもそういうわけではなさそうだ。


問題があるのは、根本的に使用した材料。

それが上位存在さんの把握していない物であったらしい。もちろんそれを知識としては知っているようだが、ここにあるということは知らなかった様子。

基本的にすべての購入した植物は相談したりしたうえで決めているため上位存在さんが聞いていないはずがないのだが、ここまではっきり知らないものと言われると聞き間違いなのではないかとも言いにくい。


「間違ってないはずなんですけどねぇ」

「そのはずだよね」


『ふむ。では、この結果は何なのじゃろうな?これの特性によって解析の結果も実態と変化してしまっていたりするんじゃろうか?』


誰もまずは他人の事を疑うということをせず、自分を疑う。

ただ黒い本も上位存在さんも自分の力や知識にはそれなりに自信があるため、それもすぐにやめる。

となると自分を疑える人間は伊奈野ただ1人(もともと人は1人だけだが)となり、


「私では何とも言えないですね。その解析結果の事を詳しく聞かせてもらえますか?購入したところに質問してきます」


『ふむ。そこをまず確かめてみるのも悪くないか。では、任せるのじゃ』


自分の記憶、特にそこまで興味があるわけではないそれぞれの植物などの名前などには自信が無いため、ここで伊奈野は店主さんを頼ることにした。

伊奈野が覚えていなくても、店主さんなら買った物を覚えてくれているかもしれないとして確認してみるわけで、


「確かに、そんなものを売ってはいないよ」


「やっぱりそうですよね」


「でも、ちょっと待ちな。一応確認はしてみるから」


「すいません。お願いします」


伊奈野の期待通り店主さんはしっかりと販売した物を記憶していた。ついでに、これで店主さんから買った物に上位存在さんが言っていたものが入っていないことは確定する。


なのだが、伊奈野からの頼みと言うこともあって、さらに言えば詳しいことを聞いてはいないものの生産拠点が壊滅的な被害を受けることになった原因があるかもしれないということもあって、店主さんは念のための確認をしてくれた。

結果として、


「あぁ~…………その、非常に申し訳ないんだけどね」


「はい。なにも分からなかったですか?」


「いや、うちで販売した商品、間違えていたみたいなのさ。本当に申し訳ないね」

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こちらコンテストに応募している作品ですので、もしよければ覗いてみていただけると幸いです!

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― 新着の感想 ―
誤字報告はしてるけど反映されるのだろうか
今回誤字が多すぎるし話の内容のかなめの場所での誤字だからいつもの誤字よりも分かり辛い・・・作者さん投稿前に一度読んで・・・
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