４０コマ目　無遠慮

勉強を終わらせて顔を上げてみれば、いつの間にかとんでもない物が生まれていた。

伊奈野としては今すぐに事情を聞きたいところではあるのだが、黒い本たちも何やら動き回っていてそんなことをしている時間はなさそう。仕方がないので対処のために動くこととなるわけだが、

「何をしたら解決できるのかさっぱり分からないんだけど」

伊奈野には解決策など思いつかなかった。

どれほど頑張って牽制魔弾を撃ち込んでも意味などなさそうだし、だからと言って近接攻撃を仕掛けてきてはくれないため『龍落とし』だってできない。伊奈野の得意な土俵の上には向こうが立ってくれていないのである。

こうなると、何かしようと思ってもできることがない。

こういう時のために武器だって使えるようにしてあるのだが、それらも黒い本と一緒に頑張っているようだが抑え込むことは成功していないようであるし、手づまりなように思えた。

伊奈野には、黒い本以上の火力などないのだから。

「黒い本を本の状態に戻して私が殴り込みに行けば解決できるかな？でも、さすがにそれは失敗したときの事を考えるとリスクが大きすぎるか」

破壊すれば止まるだろうと予測した伊奈野は、黒い本を使ってどうにかできないかとは考えてみるものの考え直した方が良いだろうという結論に達する。

こうなるとやはり、できることがない。

持っているスキルなどの事を考えても簡単にダメージを出せるようなものがあるのならばすでに使っているし、魔法だって武器たちが出せる火力を超えるようなものはなかなかない。

それこそ、少し前に観ていたいくつかの武器が協力して発動させた攻撃などは伊奈野の知るどんな魔法より高威力で、それこそ黒い本を使って殴る時のものを超えていたように思うわけだ。

それでどうにもできないのなら、伊奈野が協力したところでどうにかなるはずもない。

おとなしく一旦ここは放棄して避難した方が良いのではないかと考えてしまう。

そんな時、

「そういえば、アイテムに火力を持て余してるようなものがなかったっけ？」

伊奈野の頭に浮かび上がってきたのは、以前火力の高さにより使用を封印した武器の記憶。

そのことを思い出すと、今回が使いどころなのではないかと思えてくる。

「黒い本！結構被害が出るけど、攻撃しちゃっていいかな？」

「あれをどうにかできるなら大丈夫だよぉぉ！！！」

「私が何をするか分かってんのかな？そんな簡単に許可を出していいとは思えないけど…………さすがに相手が動かないし、やれるでしょ」

黒い本もその武器の使用は目撃しているのだから、分からないということはないはずだ。伊奈野はそんな考えの元、特に念入りな注意喚起などは行わず早々に武器を構える。

その武器こそが、魔導銃。

魔力を消費して作成する弾丸を放つ銃だ。

とは言ってもこの魔導銃は伊奈野が以前使った時にはほとんどすべてのＭＰを消費していたような代物であり、弾丸を放つというよりレーザーを放つと言う方が近い状態の代物だった。

天使を撃つために使用して以来日の目を浴びてこなかったそれだが、今回は使う場所に人がいないということもあって使用をしないという選択をする必要はない。神の鉄槌だとかそんな話をされることもないわけだし、あまり周辺の被害も考える必要がないため気楽に使える。

一応黒い本が作っている上位存在さんのもとへとつながる裂け目には向かわないように位置取りを調整する必要があるが、それ以外は正直に言って失って困る物はあまりない。

「この辺の研究所でしか作ってないとかいう装置だけしまっておこうかな」

一部の貴重なアイテムは被害が出ないようにしておくが、それ以外の植物やコンベアなどの被害は考えずに攻撃を選択する。

それらは全て伊奈野の資金でいくらでも解決できるような物であるため、一切手加減をすることなく引き金を引くことができて、

「っ！？ご主人様、それ使うの！？全員退避ぃぃぃ！！！急いでぇぇ！！！？？？？？？」

攻撃を放とうとする少しだけ早い段階で伊奈野の持つ武器の凶悪さを知っている黒い本が気づき、周囲の武器に声をかける。今更ながらにあんな適当な返事をするべきではなかったと後悔しつつ、武器たちに被害が出ないように急がせる。

その呼びかけの必死さからマズい事が起こると理解した武器たちは皆一斉に動き出すわけだが、残念ながらすべての武器が上手く逃げられるわけでもない。

反応が遅れた一部の武器は完全に安全圏まで脱出する前に伊奈野の引き金が引かれ終わっていて、

「マズいっ！？」

黒い本がその位置にも攻撃が来ると気づいた時点では、あまりにも遅すぎた。

伊奈野の魔導銃からは光の柱と言ってもいいような太い光線が伸びていて、周囲のものを吸収している問題を起こす元凶へと向かって言っていた。

もちろんそれは武器にもあたるような伸び方をしていて、黒い本もその武器も消滅の危険を察知する。

しかしどうしようもできないとできる限り早くできる最低限の守りを整えたところで、

「あれ？曲がった！？」

魔導銃から出る光が、曲がった。

いや、正確に言えば、収束していった。

太かったはずのその光は見る見るうちに中心へと収束していくように細い物へと変わっていき、円錐を突くように伸びていく。

それはエネルギーが収束して強力な物へとなっていると考えればいい事のように思えるが、

「もしかして、吸収の力で集められてるの！？」

黒い本からはそのように見て取ることもできた。

だが、実際に以前見たときにはそのような現象は起こっていないのだから、そういう風に考えるしかないことも確かだ。

天使すら消滅させて見せたその魔導銃による攻撃はちょっとした実験によって生み出された、まだ何かも良く分からないようなものの影響を強く受けてしまったというわけである。

つまりそれは、魔導銃でもどうにもできない可能性があるということ。

黒い本の脳裏には、その魔導銃による攻撃すら吸い込んでよりその現象が凶悪になる未来がチラついた。

しかし、だからと言ってもう今更どうすることもできない。

黒い本としても止めたいところではあるのだが、さすがに今ほど強化された黒い本でもこの魔導銃の攻撃を止めることは不可能。

魔法も吸収できるようになったとはいえ、これを吸収することはまだ不可能だった。

余計なことをすればそれはただ攻撃の威力を下げるだけであり、ただ攻撃を吸収しやすくするだけのようにも思えた。

「うぅ～。これが上手くいってくれなかったら本当にここを放棄するしかないなぁ」

こうなってしまうともう、黒い本にはただ待ってうまくいくことを祈るほかない。

収束していく魔導銃の光線は、力の影響を受けながら、しかしそれでもまっすぐに、その力の根源へと迫っていく。

「うへぇ。ＭＰの消費が激しいね。でも、前回使った時よりはマシかな」

黒い本とは違い一応銃の反動に耐えて支えるという役目がある伊奈野の方は面倒そうな表情を浮かべていた。

前回使用した際にはほとんどＭＰを使い切っていたため現在はそれより成長してることもあってマシな状況ではあるのだが、それでもコスプレ魔王の封印を解く時よりも圧倒的にひどい事にはなっていた。

明らかにＭＰが減っているし、回復がどうにか間に合ってはいるがいつ何かが途切れてＭＰが尽きたとしてもおかしくはない状況だった。

伊奈野もさすがにそのようなギリギリの状態を見せられると不安となってくるわけで、

「ねぇ。鎌、悪いんだけどその辺にある薬の中でＭＰが回復できるものがあればとってきて食べさせてくれない？」