２８コマ目　未開拓領域

魔導銃を手に入れた翌日。

伊奈野がいつも通り図書館へ行くと、

「いや。ここまで押し込んだんだからもっと行って良いでしょ！」

「しかしだな。私たち騎士団としてはここまで一気に支配地域を広げると治安維持が心配だな」

「まあ私もそれは分かるわよ。ただ相手はモンスターなんだから治安もそんなに関係ないんじゃないかしら？」

「いえ。確かここは魔物の支配地域であると同時にいくつか盗賊団がアジトを作っていた地域のはずです。盗賊関係者が内部に入ってくれば治安は確実に悪化するかと」

「ふむ。難しいですね」

いつもより多くの人が集まって会議を行なっていた。

その場にいるのはいつものメンツである魔女さん司書さんうるさい人屈辱さんに加え、騎士さんや宗教勧誘少女ちゃん、そしてコレクターさんの逮捕にかかわっていた警備隊長さんまでいる。

「おはようございま～す」

「あっ。おはようございます師匠」

「ん？おはよう？」

伊奈野が挨拶をすれば慣れている面々は挨拶を返してきて、逆に慣れていないメンツが今は朝でないため首をかしげる。

（珍しい人が結構いるな～。ここまで人が多いとマターちゃんも寝にくいんじゃ………あっ。奥で普通にぐっすり寝てるね。なら良いかな）

ここまで集まって何かを話していると寝ることを妨げてしまうのではないかと思われたが、マターは全く気にする様子もなくスヤスヤと寝ている、

そして伊奈野は伊奈野で、

「じゃあ、私は勉強しますので」

「あっ。はい…………よし。話を続けるわよ」

「え？良いのか？ここで話したら邪魔になるんじゃ………」

「問題ないです。師匠はこの程度の雑音は気にされませんので」

「え？そ、そうなのか？」

話し合いが行われたところで伊奈野の集中の妨げになることはない。

集まった面々はその後伊奈野の集中によって生み出された圧を感じつつ、少し先ほどまでより引き締まった雰囲気で会議を行なっていくのだった。

そして数十分後。伊奈野が休憩に入り事情を聴いてみると、

「未開拓領域で、魔物と盗賊が大量に死んでいる、ですか？」

「そうなんです。調べてみたところどこからか得たらしい高品質の薬草に毒が混入されていたようで、それを使用した結果死んでしまったみたいなんですよね」

「え？薬草なのに毒が……………えぇ？どういうことですか？」

「それが私たちにも良く分からないんですよ。恐らく育てる際に毒を吸わせたのだとは思われますが、どうしてそんなことになっているのかもさっぱりでして」

何か理解できないことがあったようだ。

ただ本題はそこではなくそれによって起きた結果なようで、

「そこでかなり弱体化したモンスターや盗賊に攻勢を仕掛けるのは決まっているのですが、ペースなどでもめていまして」

「ああ。早く制圧すべきなのかゆっくり着実に制圧すべきなのかってことですか」

「そうなんです。今は弱ったと言えるので攻め時ではあるのですが、打ち漏らしがあると内部で暴れられてそれはそれで面倒くさいんです」

「なるほど………」

影響が出ているのは、第２の街の周囲に広がる森のフィールドの中でも特にモンスターの数が多く一般人は勿論冒険者であってもなかなか寄り付かない地域。当然手入れもされていないため好き放題に植物が群生しておりしっかりと探さなければ人やモンスターが隠れていたとしても見つけられない。

となるとゆっくり着実に攻めた方が良いように思えるが、

（毒で弱ってるのは今だけだから、今が１番攻め時ってことだよね？この後向こう側に持ち直されても面倒だろうし……………なんかこんなの考えるのって国家経営系のゲームしてるみたい）

「じゃあ、地域の制圧まではせずに一旦一気に攻めて数をさらに減らしてからじっくり侵略していけばどうですか？」

「侵略って………まあ侵略って単語は兎も角、その案は悪くないですね」

「ただ、攻め入るにしてもある程度囲っていないと逃げられる可能性があるよ？」

「それならどの程度の広さなのかは分かりませんけど、宗教勧誘少女ちゃんの結界を使ったらどうですか？結界で逃げられなくして、囲う人材をあまり多くせずに制圧すればいいのでは？」

「……………ありですね。それで行きましょうか」

伊奈野の発言により方針が決定する。

そうしてそのまま計画を王家に上奏するなどという段階にまで話は進んだところで、

「あの～。その一帯の支配が終わった後で良いので、良ければそこを案内してもらえませんか？」

「「「「……………え？」」」」

周囲は困惑する。

特に、いつものメンバーの驚きは強い。

何せ今まで、そんな土地に対して伊奈野が興味を示したことなど一度たりともなかったのだから。

とはいえ案内するだけなら問題はないということで伊奈野のお願いは了承され、計画が実行されるのを待つことになる。

その間に、

《称号『虐殺発案者』を獲得しました》

《称号『軍師』を獲得しました》

などとログが流れるが当然伊奈野は見ることも気づくこともないのであった。