彼女は少しご機嫌ナナメ?
大きなトラブルもなく、午前の仕事は一通り終えることが出来た。
人気店であるため、忙しさはこれからさらに増すだろう。
手伝いである総司と真白の二人は一番忙しい時間を避けられるように、配慮されたシフトとなっていてこれから休憩に入る。
戻って来るのは今日の学祭終了時間直後の片付けの作業の時だ。
よって、今からは待ちに待った学祭デートの時間である。
「二人共、ソフィも帰ってきたし、そろそろ上がって頂戴な」
「あ、佐枝部長、了解です」
「総司も真白もありがとね。こっからは私が引き継ぐから目いっぱい学祭を楽しんできて」
ソフィと総司はハイタッチして、位置を入れ替わる。
「あ、そうそう、ソフィ。引継ぎだが、俺からいくつか良いか?」
「どうしたの?」
「俺の予想だけど、このままの売れ行きだと今日の分と見積もってた、たこ焼きの材料が三時頃に切れるはずだ。その辺は注意した方が良いな」
「ほうほう。んじゃ終わり次第、早めにここは店仕舞いして他のメニューを捌こう」
「だな。それと今日、二回たこ焼きに紅しょうが無しの奴に、それが入ってるってクレームが来た。そっちも気を付けてくれ。俺からは以上だ」
「オッケーよ。ありがとう。そういうの、めちゃくちゃ助かるのよ。ホント」
午前中の仕事中に気になったところを、総司はピックアップしてソフィに伝える。これはバイト経験からくる癖みたいなものだ。
報告連絡相談は基本中の基本。これが出来るから、総司がこの手伝いでみんなから褒められていたのである。
「いや、本当に司君は優秀ね。このままウチのマネージャーを務めてみないかしら?」
佐枝は総司に両肩に手を置き、真剣に提案してくる。
隣にいたソフィがうんうんと頷いているし、周りにいたサークルのメンツも期待の眼差しを向ける。
「む……」
すれば、隣で明らかに不機嫌そうな声を漏らしながら、真白が総司の服の裾を掴む。
「……いや、俺はいいです。のんびり学生生活を送りたいので。でも、こういう催し物の時は呼んで頂ければ手伝いに来ますから」
「そうね。そこの可愛い彼女ちゃんが不満そうだし。ごめんごめん。ましろんちゃん、大事な彼氏を取ったりしないから。ね?」
総司は察してコメントを返し、佐枝も同じく嫉妬の波動を感じ取って、真白にフォローを入れた。
彼女はある程度納まったのか表情が和らいだ。
「別に取られるとは思ってませんが……」
「あら、そうかしら。んふふ、司君はとっても可愛らしい彼女がいて羨ましいわ」
「ははは、そうですね。ま、と言うわけでそろそろ俺たちは出かけてきます。行こうか、真白」
「うん。お腹すいたし」
「いってらしゃーい」
あまり、話していても仕事の邪魔になるし時間ももったいない。
二人は佐枝とソフィに見送られて、学祭デートに繰り出した。
遊歩道に並ぶ周りの屋台を見渡しながら二人は歩く。
「初めは何処に行く?」
手を繋ぐ真白に彼はそう尋ねる。
「総司……」
「どうした?」
「さっき、ちょっと誘われて迷った? 部長さんも綺麗な人だし」
真白は一度手を放して、不安そうに聞いて来る。
「そうだな、お前と付き合ってなかったら、入ってたかもしれんな。でも、学業と真白との関係に加えて、サークル活動まで出来るとは思わないし、あのまま断ったのが本音だぞ」
「そう。私に遠慮しなくていいよ。だって、総司は楽しそうだったし」
「あーそれな。正直、皆には悪いけど、俺が楽しかったのは真白と一緒だったからだぞ? そうじゃなかったら、しんどいだけだったかもしれん」
彼女は総司が自分に気を使っているのではないかと考えていた。
真白も同じ立場なら総司に遠慮するし、絶対に彼との時間を減らしたいとは思わない。
だが、総司はどうなのだろうかと心配なったのだ。
それに、佐枝は控えに言っても美人である。今日、店には佐枝目当てで来た客も多かった。
総司が彼女に惹かれてしまわないかと言う心配もあった。
「ほんとに? って、これじゃ面倒くさい女のひとみたい、ごめん」
「いいよ。気にするなって。俺だって同じだよ。真白も未だに色んなサークルに誘われたりしてるだろ。その度に、俺の彼女を取るなって思うし。な、一緒だろ?」
「そっか」
「こんな可愛い彼女を放って他の事をする気にもなれんし」
「最近、総司が私の扱いを覚えてきた気がする」
真白のその言葉に、総司はついに気付かれたかなと思った。
そう、付き合ってからは可愛いとか好きだと言えば何とかなってきたという、彼の雑さが目立っていた。
真白はようやく気付いたらしい。
「不満か?」
「ううん。お世辞でも、嘘でも嬉しい」
真白は首を振る。もちろん、総司だって同じである。格好良いだとか好きだと言ってくれるだけで嬉しいのだ。
カップルなんてそんなものである。
「世辞とか嘘とか、そんなことねーよ」
「知ってる。総司も私にべったりだし」
「そうそう。そうなんだよ。心配せずに学祭楽しもうぜ」
「うん。変な事言ってごめんね。じゃあ、いこ?」
「ああ」
真白が笑って、手を出してくる。
どうやら、午前中からの不安は無くなったらしい。これで心から学祭を楽しめるだろう。
差し出された手をいつもより少しだけ強く握ると、彼女も同じ強くだけ握り返してきた。
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