がーるずとーく
大学の目の前にあるバス停の近くで真白は佇んでいた。
今日は一限だけだったので一度、部屋に戻った後、晴音たちとソフィの誕生日プレゼントを買いに行くために再度大学までやってきている。
午後、三時過ぎだから、今頃、総司は真白と交代したバイトに励んでいる頃だろう。
彼に感謝しつつ、友人らを待つ。
「お待た~」
「お、待たせた?」
「ううん。大丈夫、さっき来たばかり」
スマホで時間を潰していると、手を振りながら歩いて来る女子が二人。
晴音と小豆である。
本来は晴音だけの予定だったが、今日の一限の時に同じ講義を受けていた小豆とソフィの誕生日の話になり、彼女も同行することになった。
「おやおや、その感じ、愛しの彼氏様ともおんなじやり取りしてるっぽい?」
「あ、私も思ったわ。真白、彼氏持ちの女って感じが出て来たわね」
「全然。こんなやり取りしたことない」
会って二言目には、からかわれるが彼女は動じることもなく答える。
「なるほどぉ。司君が先に待ってるってわけだね?」
「アイツ、そういうの真面目だからなぁ。三十分前から待ってそう」
「ううん。出かける時は一緒に部屋から出るから。待ち合わせはほとんどしない」
「そういやそうだったわね。あんたら、同棲でもしてんのってくらいに、司の部屋にずっといるもんね」
彼女らは真白から総司との話を聞きたがって、色々と推察をしている。
彼と出会うまで真白は男の噂が無い少女だった。
そんな真白が彼氏を作ったのだ。やはり気になるというもの。何より、現在の二人には付き合っている男性がいないので、軽い羨ましさからちょっかいを掛けているのである。
「ね? ちゅーしたの?」
「いいから、行こう」
「あ、待ちなさいって」
「真白ちゃん、可愛いなぁもう!」
彼との進展を恐れることもなく小豆は尋ねて来る。
表情でバレると思ったので、回答せずに真白はネックウォーマーに口元を隠して先に駅まで歩いていく。
「あれはまだね」
「だねぇ」
後ろを振り向くわけではなかったが、おそらく二人はにやにやと下種な笑みを浮かべているのが分かる。
バレないように誤魔化したつもりでも、しっかりとバレているあたり友人らは侮れない。
真白は彼女らの相手をすることなく先を歩くが、耳を赤くしていることに気付いていなかった。
「何にしようかしら? 悩むわね」
「そう言えば、司君やトラ君たちは日曜日に買いに行ってるんだよね?」
「うん」
可愛らしい小物やインテリアからぬいぐるみまで、The女子と言った感じの雑貨屋で三人は物色中だ。
ソフィは少し変わった少女。日本語はペラペラだが外国人と言うこともあって、普通の日本の女子とは風変りで、三人には分からないことも多い。
前向きで友達想いの少女なので基本的にはなんでも喜ぶだろうが、やはりソフィにぴったりなプレゼントを見つけてあげたい。
その一心で探していて、三人の買い物はすでに一時間が経っていた。
「四人が何買ってたか知ってる?」
「知ってる。総司はプラモデル用の良いニッパー買ったって。馬竜はキーケースとアロマキャンドル、西留さんは入浴剤でとらっきーが加湿器らしい」
「アイツらまともなもの選んでるのね」
「ふーむ。トラ君は変なのを買ってると思ったんだけどな。男子たちは真面目路線なんだね」
男性陣の何人かがおふざけに走ると思っていたので、プレゼントのハードルは低いと楽観視していた。
四人ともちゃんとしたプレゼントを選んでいる。
こうなると、こちらのセンスも問われるものだ。
ただ、虎吉はソフィにローションを送ろうとしたのだが、総司が話していないのでそんなことは欠片も知る由は無かった。
三人は悩みに悩んでプレゼントを決めると、コーヒーショップで一息を付いている。
ついでに自分の買い物やら、見て回りたいものなども満足いくまでウインドウショッピングした所為で、三時間ほどかかった。
今は、買った物の話題で盛り上がっている最中。
「――そうそう。だから腰とか肩が痛くて、思わずマッサージ器買ったの」
「そっちはスポーツ学んでるのに、わりと座学まみれだもんね」
「と思ったら、たまに死ぬほど運動することになるんだけど。スポーツテスト前は地獄だし」
スポーツ学部の生徒である晴音は、最近肩こりがひどいらしい。
筋肉痛や運動の疲れで体が痛むのではなく、パソコン作業で痛んだ右肩を左手でさすりながら肩を回している。
「晴音、中年みたい」
と、そんな彼女をみて真白はボソッと呟く。
「真白に言われたくないわよ。あんたの趣味全部おっさんじゃない」
「総司は、それほどおっさんじゃないって言ってた」
「あたしからすれば十分におっさんよ。将棋に麻雀、野球観戦その他諸々、最近はお酒も好きなようだし。一つ一つは若者も嗜んでいるようなものでも。全部揃ったらそれはもうおっさんなの」
「あはは、けど、晴ちゃんが世界中のお金を集めてるのもおっさんぽいけどね」
「でも、他にぬいぐるみ集めたり、カフェ巡りだったり、女子学生っぽいでしょ。でも、趣味がおっさんの最終系みたいな女に言われたくないわよ」
真白に噛みつく晴音は小豆に指摘されるが、どうしても真白だけには言われたくなかったようで、ぷんすかと怒っている。
「あ、趣味で思い出したけど、最近は司君とボードゲーム屋さんに行ってないよね?」
これ以上、話を続けても喧嘩になるので、わざとらしく小豆は話をぶった切った。
「他の事で忙しかったから」
「デートでしょ? ハロウィンの日に遊びに行くって言ってたしね」
「総司のおうちにも挨拶して来た」
「「おお~!」」
総司と真白にはボードゲームやアナログゲームと言う共通の趣味があり、よくボードゲーム屋に遊びに言っていたが、付き合ってからはまだ一度も行っていない。
彼とはやりたいことが色々あってお互いの家に行ったり、バイトだったり、大学の予定が詰まっていたので最後に訪れてから二週間以上は経っただろうか。
時間が経つのが早いものだと真白は妙に黄昏れた。
「って、あんたらどっちも家族と顔見知りでしょ? いつも通りじゃないの?」
「そんなことない。最近はずっと初めての事ばかりだった」
手を繋いだこと、抱き合ったこと、ちゃんと好きだと口に出すようになったこと、デートにも出かけたこと、沢山あったがどれもが彼女にとって、新しいことを覚えたり体験したりするのが授業のような感覚だった。
そして真白は思い出し、少し赤く照れていた。
「へぇ。昼は全然、教えてくれなかったけど、ぶっちゃけどこまで進んだのかしら?」
「だねぇ。私も気になるよ」
「知ってるくせに」
ここぞとばかりに数時間前、真白にはぐらかされたことを二人は尋問する。
昼の時は、晴音も小豆もキスはまだだと推理をしていたが、それは本当だ。
彼女は見破られたことを警戒し、これ以上喋らないぞ、と抵抗する。
「ま、答えないならそれでもいいわ。何かしたら、あんたは分かりやすいからね。どうせ、手を繋いだとか、ハグをした程度でしょ」
「…………」
なんでそこまで分かるのだろうか。
ドンピシャで言い当てる彼女は、もしかしたらストーカーかエスパーなのでないかと疑いたくなる。
真白は全部バレていることが恥ずかしくて、フラペチーノをストローでちゅうーと吸うだけ。
「晴音、彼氏いないからってやっかみは良くない」
「あんた本当に可愛いわね」
「ほんとにね!」
苦し紛れに言い返してみるが、彼女たちはそんな調子でニヤつくばかり。いつもはクール気味でマイペースな真白も、恋愛経験のある先輩達にたじたじだった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価が日々の執筆の励みになっております。本当にありがとうございます。
話は変わりますが、実は今日の朝の五時くらいに推敲をしていない原稿をそのまま投稿するという、やらかしがありまして、そちらをお読みになられた方には大変申し訳なく思っております。
流石に読者の皆様にお見せ出来るものではなかったので、すぐに削除しました。
こちらが、正規の第19部でございます。
PCが固まった時にマウスやエンターキーを連打してはいけませんね。
それでは、反省と共に今後ともよろしくお願いいたします!!




