たまには友人たちと 後編
「いやぁ、ええ買いモンしたわ!」
「お前、自分の欲しいやつばっか買ってたな。ソフィの誕生日プレゼントはちゃんと買って来たのか?」
昼ご飯はフードコートで各々好きなものを注文し、飛角はハンバーガーショップのセットだった。
彼はナゲットを片手にほくほく顔で、その足元には複数の買い物袋が置かれている。
「大丈夫やて。ちゃんと買うてきたで」
「何買ったんだ?」
「キーケースとアロマキャンドルや。どっちがええか悩んだんやけど、高いもんでもないしな。二つにしたわ。そや、淳之介はえらい悩んでてみたいやけど何にしたん?」
「彼女、和風なインテリアが好きらしいから、模造の日本刀にしようかと思ったんだけどね。ちゃんとしたのは値段もするし、提灯形の関節照明にしたよ」
飛角は贈り物として間違いのない物を選び、淳之介はセンスの良さそうなプレゼントだった。
どちらも使いにくいものではないし、女性が貰って嬉しいものだろう。
「んで、トラは? 途中、どっか行ってたけど」
「俺はローションにしたっすよ」
「んな⁉」
「ぶほ!」
「…………」
虎吉は買い物袋から、よくドレッシングなどの容器として見かけるようなボトルに、透明な液体が入ったソレを取り出して机の上に置く。
総司と淳之介は良いリアクションをし、飛角は唖然としていた。
しかもよく見れば、彼の買い物袋の中には同じものが十本ほど入っている。
「アホや、アホがおるわ」
「いやぁ、何にするか迷ったんすけどローションにしました」
彼は悪びれる様子もなく、ボトルを手元で遊ばせながら言う。
「俺にくれたアドバイスはなんだったんだよ。嫌がらせに思うやつとか、セクハラになるプレゼントは駄目だって教えてくれたじゃねぇか」
最初に教えて貰ったアドバイスの他に、総司は買い物をしながら不快になるような品物は駄目だとも補足で教えて貰っていた。
だが、虎吉はぶっちぎってそれに当てはまるようなものを買ってきている。
正直言って、少し引く。友人女性にローションを送ろうとするなど血迷ったとしか思えない。
「いやいや、彼女がこの間、ローション相撲したいって言ってたんで買ってきたんすよ。欲しい物なら、これぐらいであれば大丈夫っすよ」
「ええわけないやろ。いくら欲しいとしてもそれはヤバいわ。てか、アイツも何しようとしてんねん」
「そうっすか? 一応、誰かと被った時ように買っておいたやつがあるんすけど」
「そんなもん、誰とも被らないだろ! てか、もう一個の方も怖いな」
ローションを仕舞った彼は、ガサゴソと買い袋を漁っている。
虎吉の事だ。何を買って来たのか未知である。戦々恐々としながら三人は何が出て来るのか待つ。
「これっす」
言って、虎吉が出して来たのは加湿器と書かれている箱だった。
「普通だな」
「普通やな」
「普通だね」
どんな変なものが来るのか身構えていた三人は、虎吉の出して来たものが案外まともで拍子抜けしていた。
「いや、もしかしたら普通の加湿器じゃないかもね」
「どういうことだ?」
「加湿器って、普通は水を入れるけど、彼の買って来たやつはローションを入れる特殊な物で、部屋中に蒸発したローションが散布されるタイプかもしれない」
「そんなもんあってたまるかいな! 加湿どころかねちょねちょになるわ。エロ漫画の世界やないんやぞ」
訝しんだ淳之介が考察するも流石にあり得ないので、飛角はツッコみを入れているが内心で総司はあるかもしれないと思ったことは黙っておく。
「普通に水を使うやつっすよ」
だそうである。空気中にローションが散布される加湿器は見てみたい気持ちはあったので少し残念だ。
「そらそうやろ。なんで最初からそれにせえへんねん」
何故こちらにしなったのかと言う意見には総司も大いに同意する。
「じゃあ、こっちにするっす。でも、この大量のローションどうするすっかね?」
「返品してきたらええんとちゃう?」
「四人でローション相撲でもするっすか?」
「やらへんわ! オールスター謝謝祭り見てるだけ十分やろ」
「じゃあ、彼女と使うっすね。飛角君と総司君もいるっすか?」
「いらねぇよ」
「いらんわ」
ローション相撲を飛角に一周された虎吉はローションを二人に勧める。
そんなものを貰ったところで使う予定はない。ないはずだが、本来の用途を考えると絶対と言うことは無いので、総司は密かに後で調べておくことにした。
# # #
本日の目的は達成したわけで、このまま解散しても良かったが、虎吉がバッティングセンターに行きたいと言ったので、ショッピングモールの隣にあるバッティングセンターに四人は移動する。
「バッセンも久しぶりやわー。半年くらいか」
「ボクは初めてなんだよね」
「まじかいな」
「だって、バッティングセンターって陽キャリア充が『きゃっきゃうふふ』する場所だと思ってたからね」
バッティングセンターの偏見を言いながら、準備運動がてらに淳之介は素振りしている。
以外にフォームは綺麗だった。
「でも隣に、そんな場所でひたすら野球少年みたいにバントしてるやついるぞ?」
四人で二つのケージを使うことにして飛角と淳之介、総司と虎吉にで分けている。
総司は虎吉に先を譲り、その彼はすでに始めたていたがバッティングをしておらず、ずっと真面目にバントをしている。
「ほっとけ。そいつ、バッセン来たらいつもそんな感じやし。そのうち、普通に打ち始めるから」
「おお! でも結構バントも楽しいよ」
「「お前もかよ!」」
総司と飛角が話している間に、淳之介がスタートさせていて、その彼も虎吉のようにバントをして遊んでいる。
何が楽しいのだろうか。
と思って、虎吉に代わって貰い総司はバントをしてみる。
「マジだ! バント面白っ!」
以外に面白かった。総司は野球を見に行ったりはするが、やる方は素人なのでバットを振っても中々当たらない。
だが、バントならほぼ確実に当たる。
打ち返す快感は無いが、この馬鹿らしさが妙に楽しい。
「バントも面白いっすけど、真ん中に立って来た球を真顔で避けるって遊びをすると、漫画の強キャラの気分を味わえるすっよ」
「危ないからやめなよ」
ひとしきりバントで遊んで、飽きた総司がバッティングケージの外のベンチで座って休んでいると、虎吉がまた馬鹿な事を始めていた。
「なんや、一人で黄昏て。疲れたんか?」
飛角がスポーツドリンクをこちらに放り投げながらやって来る。
「さんきゅ。いや、こういうのもたまには悪くないって思ってただけ」
「急に気持ちの悪いやっちゃな」
「うるせぇよ」
変なものでも見るような顔する飛角に総司はそっぽを向いて言うと、彼はまたケージへ戻っていく。
こうして意味の分からないことを四人でするからこそ、真白を連れて来た時とはまた違った楽しさがある。これは彼女が出来て初めて気づいたことだ。
総司は三人が遊んでいるのを眺めながらそんなことを考えていた。




