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たまには友人たちと 前編

 朝、ふと目が覚めると妙に気怠い感じが襲ってくる。


 自分の部屋に帰ってきてからも、真白と存分にハグをしたことに、興奮と現実感のなさから浮かれていて寝付けなかったせいだ。


 日曜の今日はバイトがある。いつまでも寝ぼけていられないので、顔をこすって起き上がり、時計を確認すると午前八時半過ぎだった。


 バイトの時間までは余裕があるため、ゆっくりとしながら支度をしていると電話が掛かってくる。


「もしもし? 真白?」

『うん。おはよう』


 電話の相手は真白だった。彼女が電話をしてくるのは珍しいが、口調はゆったりとしているので、急ぎではないだろう。


 だから、昨日の事もあってちょっとふわふわとした気持ちになった。


「朝からどうしたんだ?」

『朝早くにごめん』

「いいよ、なんか用があったんだろ?」

『今日、バイトだよね?』

「おう、十時からだな」

『お願いがあるの。今日の総司のシフトを私の明後日のシフトと代わって欲しい』

「良いけど、何かあったのか?」


 電話の内容はバイトのシフトの交代の申し出だった。


 真白と総司のバイト先は同じだ。

 基本的にバイトのシフトは真白と合わせてあるので、彼女との交代と言うのは中々無かったのでこうして電話がかかって来るのは滅多にない。


「今日、晴音と来週にあるソフィの誕生日のプレゼントを買いに行くって決めてて。でも、晴音に急な予定が入って、明後日しか選びに行く日がないから代わって貰いたくて」


 申し訳なさからか、真白は電話の向こうで何回かごめんと呟いている。

 総司も予定が変わると、彼女に助けてもらうこともあったのでお互い様だ。

 何より、彼女の助けになってあげられるというのは嬉しかった。


「そういうことか。もちろん引き受けるぞ」

「ありがとう。明後日は十二時からだから」

「了解」

「本当にごめん」

「いいって。それより、そっちは支度もあるだろ。店長には俺から電話しとくから。もう切るぞ。じゃあな」

「あ、待って」


 電話を切ろうとしたが真白はまだ何かを思い出したのか、総司にそう言った。


「ん?」

「総司、好き」


 スピーカー越しに、真白から囁かれる。


 昨日は何度も聞いた言葉だったが、まだ慣れない。総司も積極的になった自覚はあったが、彼女はそれ以上に積極的らしい。

 また、スマホを介して言われるのが初めてでぞくりとする。


「お、おう。俺もだ、じゃあな」 


 ばいばいと返事が来てから数秒待って電話を切った。


 まだ耳元には彼女の声が残っているようで落ち着かない。正直、電話越しに言われる方がドキドキする。 

 そんな感覚に総司はもしかして、自分がそこそこの変態かもしれんと思うのだった。


「さて、どうするか」


 背伸びをした彼からは、完全に眠気が飛び去っている。


 彼の身体はすでに働く気満々。

 予定が急に無くなるとその気になっていた身体が体力を持て余す。バイト先に電話をすれば、もうやることは無い。今日は何をするか迷った。


「あいつら、予定空いてたっけな」


 数分ほど考えて総司はソフィの誕生日プレゼントを買いに行こうと決め、ついでに友人たちを誘ってみることにした。


 メッセージを送ると飛角からは『ええで』の一言が返ってくる。また、虎吉と淳之介も夕方まで予定が無いらしく、隣町のショッピングモールに現地集合で待ち合わせをした。


                # # #


「はぁはぁ! 悪い、待たせた!」


 待ち合わせ場所に向かって、総司は慌てて走っていた。

 電車が遅刻したのだ。


 ダッシュした所為で汗をかいた総司はコートを脱いぎながら三人に謝った。


「しゃーないしゃーない。僕の方も五分遅れとって、さっき着いたばかりやし。ほな、早速男四人でむさ苦しく行こうや」 


 飛角はそう言いながら歩き出せば、他の二人もを労ってから彼に付いて行く。

 電車の遅延程度なら彼らへ、女性を相手する時より気をそれほど回さなくて良いので気が楽だった。


「それで、誕生日プレゼントっすけど、何が良いすかねぇ?」


 虎吉は当りの店をきょろきょろしながら、良さげなものは無いかと物色している。


「友人女性にプレゼントを贈ると言うのは、ハードルが高いものだからね。彼女無しのボクとしては、君たちにご教授頂きたいものだよ」


 自虐的に淳之介は彼女がいる三人の意見を窺う。

 その気持ちは分からなくもない。


 総司だって、つい最近彼女が出来たばかり。今でさえ、真白に贈り物をするとなれば悩むだろう。


 だから、そこはこの点において先輩である飛角と虎吉の回答に総司も期待を寄せた。


「そうやな。何が良いと言うより、贈ったらあかん物から考えよか。まず一番駄目なんはアクセサリーや。結構、仲良くないとやっぱり男から貰うのは気持ち悪いやろ。特に僕とトラ、総司は絶対にあかん。彼女がおるからな」

「ふむ。そう言うものなんだね」

「そうなんすよね。彼女以外の女子に気があると思わせるようなプレゼントは厳禁で。まじでアクセ系は駄目っす。基本的に身に着けるモノはNG。バッグとかも同じ理由っす。まぁ、キャップとかならアリっすね」


 二人の意見はとても腑に落ちる理由付きで、大変参考になるものだった。

 それに、逆に考えれば恋人や親密な女性には贈っても良いということだろう。


 真白にプレゼントをする時にも役立つ情報に感謝する。

 彼らの意見をもとに、ソフィに喜ばれるような品物を探す。


「これは、どうだろうか?」


 工作用品が売っている店で、総司は一ついいと思われるものを見つけたので、飛角と虎吉に聞いてみる。


「ええんとちゃう? ソフィ相手やったらこれは全然ありやな」

「それなら女子のみんなとも被らないと思うんで、イケると思うっすよ」


 彼が手に取ったのはニッパーだった。

 しかし、そのニッパーは電気工作やDIYなどで使ったりするものではなく、プラモデル用のニッパー。


 ソフィはプラモデル製作が好きで、部屋に大量のプラモデルを飾っているほど。


 既にニッパー自体は持っているはずだが、いつかは買い替える時が来るので予備はあっても困らないし、ちょっとお高い値段のニッパーを選んだので、貰って嬉しいはずだ。

 実用的で、男女の関係を想起させない友人としてのベストな贈り物だろう。


「じゃあ、これにしよう」


 二人からお墨付きを頂いたので、総司はレジで会計を済ませプレゼント用に包んで貰った。


 昼食までの時間は三人とのプレゼント選びを手伝い、途中ゲームセンターに寄ったりしながらショッピングモールを見て回った。

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