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オダイカンサマには敵うまい!  作者: 斎木リコ
大陸西側編

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二百三十六 休養

 車を降りて休憩時間を取る。今は止めるだけの小休止だ。その間に、現在地の情報を得ておく。


「んーと、無事西に来てはいるんだけど……」


 何せ森やら沼やら湖やらがあるせいで、迂回路を採らざるを得ない場面が多い。おかげでまっすぐ進めず、最初の計算よりも日数がかかっていた。


 ティザーベルが運転を担当する際に、一番スピードを出して距離を稼いでいる。これは魔力の糸を使った、周辺の警戒結果を運転に反映した結果だ。


 人の作った道である以上、飛び出してくるのは動物や魔物だけとは限らない。それもあって、レモとフローネルが運転を担当する際には、あまりスピードを上げさせていないのだ。


 それにしても、丸二日遅れているのは痛い。厳密なスケジュールを組んでいる訳ではないけれど、目指す地下都市の再起動がなれば、この近辺の移動が今よりも楽になると思うと、急ぎたくもなる。


 休憩は多めに入れているが、やはり運転も車での移動も、疲労がたまるのだ。


 スケジュールの遅れを取り戻すべく強行軍で行くか、遅れもやむなしとして数日休息にあてるか。


 決断は、次の昼休憩に持ち越した。


「という訳で、多数決を採りたいと思います!」

「たすうけつ?」

「より賛成した人数の多い選択肢を採るって事。今回の場合、先を急ぐか、疲労回復をするか、どっちがいいかを選んで」


 フローネルの質問に答えつつ、選択肢を呈示する。ティザーベルを含めて四人しかいないのだから、どちらかにすぐ決まるだろう。


 結果、休養を優先する事に決まった。強行軍を主張したのはフローネルだけで、ティザーベルは棄権、ヤードとレモが休養優先を主張した。


「急ぐのではなかったのか……?」

「急ぐけど、それで体壊しちゃ意味ないでしょ?」

「それはそうなのだが……」


 納得出来ないようで、フローネルはまだ文句を言っている。彼女自身にも、疲労の色が見えるというのに。自身の力を過信するタイプではないから、疲れに気づきにくいだけかもしれない。


「じゃあ、ここで二日間の休養を取ります。出発は三日後の朝で」

「わかった」

「あいよ」

「仕方あるまい……」


 不満そうなフローネルに苦笑しつつ、昼休憩は終わった。




 昨日の決定通り、前回の昼からこの場で休養状態に入っている。移動の連続で、やはり体は疲れていたようだ。時計は既に十一時を指していた。


 窓の外からの音に、カーテンを開けると見事な土砂降り。これは、天も休養を薦めたという事か。


 着替えて一階に下りると、ダイニングにはレモがいた。


「おお、おはようさん」

「もう昼だけどね。二人は?」

「まだ寝てるみたいだぜ。やっぱり、休養を入れて正解だったな」

「だね」


 レモの前にはコーヒーカップ。帝国では普通にコーヒーも紅茶も緑茶も飲まれている。探した事はないけれど、ウーロン茶やプーアル茶などもあるかもしれない。


 ――転生の先人に感謝。


「飲むか?」


 レモが、自分のカップを掲げて聞いてくる。彼はコーヒーにはうるさいようで、他人が淹れるのを嫌う。仲間内では、コーヒーだけはレモに頼むというのが、お約束になっていた。


「う……ん、もらおうかな」

「はいよ」


 寝起きだからか、喉が渇いている。水でもがぶ飲みした方がいいのだろうが、今は彼の淹れてくれるカフェオレがいい。


 ちなみに、カフェオレ形式でのコーヒーも故国では出回っていて、名称もまんま「カフェオレ」なのだ。妙にひねらなかった先人に、感謝を捧げたい。


 簡易の仕切りがあるキッチンからは、コーヒーのいい香りが漂ってくる。それを楽しんでいると、背後で威勢のいい腹の虫が鳴った。


「腹減った」


 ヤードが立っている。挨拶よりも空腹を訴えたところを見ると、寝ぼけているようだ。


「おはよう、ヤード。キッチンにレモがいるから、目覚ましのコーヒー、もらってきなよ」


 彼は答えずにのろのろとキッチンに向かう。向こうでも、小声のやり取りをしているようだ。


 その様子に思わず笑いがこみ上げる。そうこうしているうちにフローネルも起きてきたので、遅い朝食兼昼食にする事にした。


「うう……まだ、怠い」

「疲れがたまってたんだろうよ」


 泣き言を言うフローネルに、レモが軽く返す。腹も膨れて人心地ついた今は、眠気が再び襲ってきそうだ。


「雨降ってるからかもね」

「そういえば、かなりの雨音だ」


 フローネルは、本当に怠そうだ。カップを両手で持って、コーヒーをちびちびと飲んでいる。彼女は猫舌のようだ。


 外の雨音は、相変わらず強い。そういえば、少し前に通った山間も、豪雨が降った後に増水した川の水で、橋が壊れていた。


 引っかかる。この辺りは、そんなに降水量の多い地域なんだろうか。内陸部であり、一番都市で見た地球儀のようなものによれば、赤道付近より大分北だ。中央アジアとまではいかなくとも、もっと乾燥しているような場所ではなかろうか。


 ――位置的には、アジアより若干ヨーロッパ寄りかな……


 移動倉庫から地図を取り出し、テーブルに広げる。三番都市のおおよその位置が書き込まれている場所は、山脈のど真ん中だ。


 山並みは三番都市とおぼしき地点を中心に、奇妙な形で伸びている。斜め右上と斜め左下が長い、歪な×印とでもいおうか。


 その山脈まで、まだかなりある。


 ティザーベルは少し考え込むと、移動倉庫をあさった。今回の旅に出る前に、一番都市で必要そうな魔法道具をいくつか作ってもらっている。


 その中から、いくつか選び出した。単体でも使えるし、組み合わせても使える優れものである。この先も雨が続くようなら、これらが活躍するだろう。


 ――車用に開発した訳じゃなかったけど、今のところ車に使うのが一番効率的だろうし。


 装着も取り外しも容易なのだから、使わない手はない。




 二日間、しっかり休養を取ったせいか、体が軽い。やはり、移動を続ける事はかなりの負担になっているようだ。


「とはいえ、進まないとねー」

「そうだな」


 本日も、運転担当はフローネルだ。本日の天気は曇天。降らないだけましという感じか。


 運転のローテーションは、本人の申し出によりフローネルに多めに回している。早く慣れたいそうだ。ティザーベルやレモよりも多くの時間運転しているせいか、最初の頃に比べると大分腕を上げている。


 ティザーベルは一緒に後部座席に座るヤードを見た。彼もフローネルと同じように、運転に関してはボロボロだった。


 彼も、フローネルのように時間をかければ、運転技術が向上しただろうか。


「……何だ?」

「いや、何でもない」


 運転ばかりは向き不向きがあるし、何より本人のやる気が大事だ。やる気がないヤードに運転させるのは、棺桶に乗るようなものだろう。彼が早々に諦めてくれたのは、全員の命の為には良かったのだ。




 休養の大事さを実感した為、そこから先は定期的に二日間の休養を入れるようにスケジュールを組んだ。計画が大分遅れる事になるけれど、全員の体調の方が大事である。


 そうして進む事約十日。とうとう目的の山まで来た。


「ここが……」


 魔力の糸を伸ばして、上空から山の全体像を見る。地図と照らし合わせても、確かにここが歪な×印の山脈だ。


 周囲に人が住んでいる形跡は見られない。当然、山にも道らしきものはないだろう。


 これでどうやって進むというのか。ティザーベル以外の三人の顔には、そんな感情が浮かんでいる。


「さて、じゃあ車で上りましょうか」

「はあ?」

「あ、ここからは私が運転代わるね。さあ、乗って乗って」


 驚く三人にそう言うと、ティザーベルはさっさと運転席に乗り込む。ハンドルの奥、メーター類の下にはちょっとした隠し棚があるのだが、そこに用意しておいた魔法道具を起動させてからセットした。


 今にも車を発進させそうなティザーベルに、ヤード達は慌てて車に乗り込む。全員が乗ったのを確認してから、ギアを入れた。

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