表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オダイカンサマには敵うまい!  作者: 斎木リコ
大陸謀略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

224/274

二百二十四 痛み分け

 茂みの奥からゆっくりと姿を現したのは、あのカタリナだ。いつぞや見た通り、外見だけは人形のような美しさがある。


 だが、街一つを表情も変えず焼き払ったのは、彼女だ。そのカタリナが、すぐそこにいる。


「……愚か者め」


 カタリナの言葉は、彼女の視線の先に転がるはさみ少年へ向けてのものらしい。つい先程、彼はヤードに斬り殺された。


 ティザーベル達が対峙していた巨漢も、カタリナ登場に固まっている。それは彼だけではない。レモが当たっていた若者もまた、驚いた様子で彼女を見つめていた。


「カタリナ……何故……」

「何故? この程度の村を焼き払うのに、どれだけの時間をかけているのか、自覚しているの?」


 ちらりと隠れ里の方を見たカタリナは、秀麗な顔を歪ませる。


「小細工を……!」


 ほんの少し、手を軽く払ったように見えた。ただその動きだけで、隠れ里に張った結界が全て壊されている。


「バカな! 這い出る隙もなかったはず!」

「転移か。あの婆相手の時には気を抜くなと、あれ程言ったのに」


 目の前で繰り広げられるやり取りに、口を挟む事も出来ない。カタリナは、ただそこにいるだけだというのに、金縛りにでもあったように体が動かない。


 そのカタリナの目が、こちらに向いた。


「お前……あの時の……」


 まさか、大聖堂内ですれ違った時の事を言っているのだろうか。あの時は、今と違う格好をしていたはずなのに。


 カタリナの顔は、みるみる怒りに変わっていった。


「その力。魔法を使うな? 魔法は神の教えに反するもの。お父様が排除なさるもの。それを使うお前は、お父様の敵。すなわち、私の敵」


 一歩、こちらに踏み込んだと、そう思った。だが、気がつくとカタリナはティザーベルの目の前にいる。


 重い衝撃が、体に走った。


「え?」


 気付くと同時に、目の前を風が吹く。


「カタリナ!!」


 誰かの絶叫と、よく知った者の声。


「ベル殿!!」

「嬢ちゃん!!」

「しっかりしろ!」


 それらの声を遠くに聞きながら、ティザーベルの意識は遠のいていった。



◆◆◆◆



 ベノーダは、目の前で起こった事が信じられなかった。声が喉から出てきたのも、意識してのものではない。


「カタリナ!!」


 あのカタリナが、右腕を切り落とされたのだ。誰も反応出来なかった。ベノーダはもちろん、両腕を切り落とされたオアドも、カタリナ自身も。


 背後から抱きかかえるようにして相手と引き離したカタリナは、空を見ていた視線を斬られた右腕に移す。


「あ……あああ……あああああああああ!!!」

「しっかりしろ、カタリナ! 今――」

「お父様にいただいたのにお父様にいただいたのにお父様にお父様」

「落ち着け! 今――」

「ふざけるな!! お父様にいただいたのに! その体をよくも!!」

「無駄だ! もういない!!」

「!!」


 カタリナを引き離した後、少し目を離した隙に、敵はいなくなっていた。おそらく、カタリナが言っていた転移の術を使ったのだろう。


 だが、向こうの魔法使いはやったはずだ。腹にカタリナの腕が貫通していたのだから。連れて帰ったところで、治療する手立てはないはず。いずれ死ぬ。


「だから、今回の仕事は失敗という訳では――」

「そんな事があるか!」


 腕を切り落とされて、痛みもあるだろうに、カタリナは敵憎しのあまりか声を荒げる。


「お父様からの命令は、マレジアを殺せとあったのだ! それが、マレジアどころかやつの仲間すら一人も殺せなかった! こんな結果で、お父様が満足なさるはずがない!!」

「教皇聖下だって、わかってくださる。こっちも、スニがやられてオアドも多分……」


 言い切るのは、さすがのベノーダにも苦しい。視界の端に映る彼は、肘から先をなくして、流れる血に顔色も相当悪い。このまま聖都に連れ帰っても、生き残れるかどうか怪しい。


 何より、教皇から賜った聖魔法具をなくしたのが大きい。切り取られた彼の前腕は、いつの間にか消え失せている。あれが敵の手に渡ったのなら、少々厄介だ。


 だが、今は何はともあれカタリナを無事聖都まで連れ帰らなくては。応急の止血はしたが、すぐに治療を受けないと彼女の命も危ない。


「戻るぞ」

「離せベノーダ! 私は――」


 カタリナの言葉を聞いている暇はない。緊急用に与えられている使い切りの聖魔法具を使い、文字通り聖都へと飛んで帰る。


 一体、マレジアという者は何者なのか。彼女を狙ったせいで、仲間を二人もなくす事になるとは。


 この上、カタリナに何かあったら。


「頼むから、もってくれよ」


 ベノーダの呟きを聞く者は、誰もいなかった。



◆◆◆◆



 深い眠りから意識が浮かび上がる。ああ、自分はいつの間にか寝ていたのか。そう実感して、重いまぶたを開けた。


「! ベル殿!! 目が覚めたのか!?」


 泣きそうな声が聞こえるけれど、本人の姿は見えない。


 ――あー、なんか寝過ぎでまぶたが重い感じ。よく見えないや……


 それでも何とかこじ開けて周囲を見ようとするけれど、よく見えない。どうやら、頭が動かないらしい。


 声を出そうにも出せない。一体、自分はどうなっているのか?


「嬢ちゃん! 目が覚めたって!?」

「大丈夫か?」


 レモとヤードの声だ。二人とも、心配そうな声をしている。


 ――……心配? そういえば、なんで私、こんなところで寝てるんだ?


 明るい室内をぼんやり見ながら、こうなる前の事を思い出す。確か、マレジアからヘルプコールが来て、隠れ里へ行って、それで――


「! 思い出した!!」


 声を出した途端、咳き込んだ。苦しいけれど、おかげで体が動くようになった気がする。


 起き上がって見回すと、そこは白一色の部屋だ。円形の部屋の中央にベッド。そこにティザーベルは横たわっていた。


 部屋の上の方には、こちらをのぞき込める窓がぐるりとついている。医療施設みたいだなあ、と思って、そういえばここは病院か、と思い至った。


 そっと腹部をなでてみる。痛みはない。まくって見てみたいけれど、上の窓からのぞき込んでいる存在が気になる。


「主様のお体に、傷跡など残す訳もありませんわ」


 そう軽やかに笑うのは、いつの間にか側にきていたティーサだ。では、あの場でカタリナによって腹に風穴を開けられたのは、本当の事だったのか。


「よく生きていたなあ……」

「向こうに気付かれず、私がご一緒しておりましたので」

「じゃあ、ティーサのおかげなんだね。ありがとう」

「恐れ多い事でございます」


 詳しく聞くと、カタリナに攻撃を受けた時点で、傷口の消毒、止血その他諸々、魔力のみで出来る事はティザーベル自身の魔力を使って行っていたそうだ。


 その甲斐あって、地下都市に移動してからの治療は割と短く済み、後遺症などもないのだとか。


「そういえば、ここって……」

「一番都市の医療施設です」

「そう。もう、起きても平気かな?」

「問題ありませんよ。主様は、ここで丸三日は寝ておられましたから」

「そんなに? ……そういえば、マレジア達は?」

「本来でしたら十二番都市へ移動願うところですが、あちらにはまだエルフ達がおりますので、空いている五番都市へ案内しています」


 パスティカは、マレジアに捕まって向こうの案内をさせられているらしい。ヤパノアも、隠れ里の全員を五番都市へ移す為に、隠れ里のカモフラージュに尽力してくれたのだとか。


 何はともあれ、マレジア救出という今回の依頼は何とかこなせた。そして、異端管理局と当たった事で、今後も自身の課題も見えてきたというものだ。


「次は、勝つ」


 誰に聞かせるでもなく、ティザーベルは呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=438273647&s
― 新着の感想 ―
[一言] ティーサえらい!ヾ(>ヮ<)ノシ 腕を分析して優位に立てるなにか手がかりが見つかるといいなぁ…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ