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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第九十一話 よし、やっちゃおう その一

 

 過去の一幕。

 ミリファやエリスが生まれ育った田舎町にて。


『ミリファーっ! パンツちょーだいっ』


 ミリファの私室のベッドの上でのことだった。ぐーたら堪能中のミリファへと抱きつき、頬ずりしながら金髪碧眼のバニーガールがおねだり中であった。


『あ、待って。できれば汗だくでびちゃびちゃなヤツちょーだいっ』


 マキュア。

『炎上暴風のエリス』という特大の金字塔がすぐそばにあるため知名度はそこまで高くはないが、あのエリスと対等にやり合えるだけの実力がある冒険者であった。


 ……ただし問題行動が目立つ女でもあったが。というか今まさに問題行動真っ最中であった。


『マキュアがまたなんか言い出したなぁ』


『うっ、蔑むような視線が、は、はうう!!』


『もおまたブルブルし始めたしさぁ』


 エリスと同じ歳のお隣さんであり、エリスと共にミリファを見守ってきた『もう一人の姉』同然のマキュアだが、どうにもエリスに対するそれとは違ったカテゴリに入っているようだ。


 どことなく呆れたようにミリファが口を開く。


『で、今日はなに?』


『わおっ、これまた信頼ゼロ的な感触だねっ』


『……これまでの積み重ねだって、もお』


 ぐーたらがミリファの代名詞ならば、マキュアの代名詞は適当であるだろう。やることなすことその場のノリが全てであり、気分で意見がころころ変わるのもザラであった。


 だけど、そんなマキュアにも一本の軸があるのだが、幸か不幸かミリファは未だ知らずにいる。


『あのねミリファ。ワタシ金欠なんだよねっ。それはもうスッカラカンってね。いやあ()()()()()()()()()()()()ねっ。流石に依頼もせずに過ごしていたらお金がなくなるってものだよねっ』


『なにやってるんだか』


『だから、ほら、下着の一つも買えないって感じでさ。だから、はう、うっぐ……ぱ、パンツちょーだいっ!!』


『えー。どうしても?』


『どうしてもっ。ほっ、ほら、早くちょうだい今すぐちょうだいレッツお着替えターイムっていうかあれあれパンツ洗うの面倒だろうし今履いているヤツちょうだいなんなら思いきり運動してびちゃびちゃにしようそうしよう名案だね運動した後の洗濯の手間が省けるんだからうん完璧そうしよういいよねパンツの一つや二つくれたってさほらワタシたちの仲じゃん、ねっ、ねっ!!』


『まあ貸すくらいならいいけど』


『マジかよ信頼されてるのされてないのどっちなのってな感じだけどとにかくやったーっ!! よ、ようし、それじゃあ脱ぎ脱ぎしよう脱がせてあげよう脱ぎたておぱんつひゃっはーっ!!』


『またなんか言ってるしさぁ。昔じゃないんだからパンツの一つや二つ自分で脱げるって』


 もう一人の姉同然のマキュアはミリファがまだ一人でお着替えができなかった頃からの付き合いである。文字通り姉同然であり、服の貸し借りも気軽にできてしまうほどに距離が近いのだ。


 だから。

 だから。

 だから。


『こんの変態がーっ! 何を羨ま、じゃない!! ミリファのパンツに手を出してるんじゃないわよっ!!』


 ゴッ!! と。

 扉が吹き飛び、炎と風を纏うエリスの拳がマキュアを襲う。


『チッ!』


 並みの冒険者であれば一撃でノックアウト確定の一撃であったが、それをマキュアは掌で軽々と受け止める。そう、彼女の実力はエリスに匹敵するほどなのだ。……その精神構造が、その、ちょっとアレなせいで冒険者ギルドが総出でその存在を隠蔽しているだけであり、本来であれば『炎上暴風のエリス』みたいに二つ名が広まるレベルである。


『エリスめまたもワタシの邪魔をするつもり!? ミリファのパンツよっ、まさしく聖遺物を追い求めているだけなのにっ』


『うるせーストーカーっ!! 金欠なのは趣味とか言って()()()()()()()()()()()()()()()()()からだし、それを建前にパンツを奪おうとしているだけでしょっ! つーか本当にパンツ買う金がないとしてもミリファのはやらないわよ! 今履いているヤツを使い回せっ』


『馬鹿め! ワタシはノーパン主義者よ!!』


『胸張って言うことじゃないでしょうがあ!!』


 ドンゴンバンドッゴォン!! と凄まじい拳の応酬があったが、ミリファにとっては見慣れたものだった。その一つ一つが大型魔獣を粉砕するほどであったとしても、小さい頃から散々見ていては慣れるものだ。


 そう、慣れるものだった。

 慣れればストーキング云々だって聞き流すことができる。


『で、パンツどうするの?』


『しゃぶしゃぶでお願いっ!!』


『しゃ、ん?』


『こんの変態があ!! それが本音よねごちゃごちゃ言ってたけど、結局それがしたかっただけよねえ!!』


『だけじゃないっ! クンカクンカするし、頭からかぶるし、ニオイ成分保存するし、何なら成分の繁殖に挑戦するわ馬鹿め!!』


『あれ、パンツの話じゃなかったっけ???』


『パンツの話よ! ってなわけでちょーだいっ!! ううんもう駄目我慢できない奪ってやるう!!』


『させるか変態っ! ミリファのパンツはアタシが守るっ!!』


 これが第七王女と出会う前のミリファの日常であった。だからだろうか、パンツ騒動の時のようにマキュアは何度だって適当な建前を使い欲望を満たそうとしてきた。


 その一つ。

 都会では友達同士でキスするのが流行だから、ワタシたちもぶぢゅっといっちゃおう、というものがあった。


 それ自体はエリスの乱入でうやむやになっていたが、どうやらマキュアも想定していなかった形で花開いているようである。



 ーーー☆ーーー



 女王シンヴィア=リギスス=アンリファーンが首都の外に出る。そのまま近郊の森に入り、半分ほど消失した小高い丘の上まで移動する。


 まるで人がいない場所を選ぶように。


「ここならいいでしょーよ。で、何か用?」


「ミリファを解放しろ、クソ野郎」


 ブォッワァ!! と。

 姿を現したエリスが魔石を掴み、風と炎を剣の形に整え、突きつける。


 尾行がバレていたことは想定内であった。()()()()()()のだから。


 そう、エリスには相手の思考を読み取る特技がある。普段は『魂から響く声』を聞かないようにしているが、ミリファの唇が暴れたあの時は別だった。戦士としてのエリスの直感に従い、女王の真意を読み取るために『魂から響く声』を聞いたのだ。


 ゆえに女王の狙いは全て把握している。中毒性のある幸福感の植え付けによる支配。そんなものにミリファが捕らわれているというのならば、下手人ぶっ飛ばしてでも解放しなければならない。


 ゆえにエリスは女王シンヴィアを尾行していた。不意打ちを仕掛けられれば一番であったが、『魂から響く声』を聞くことで尾行がバレていることは把握できた。こうして人気がない場所まで誘導されていることもだ。


 ゆえにやることは変わらない。相手が大陸中原でも屈指の超魔法大国の頂点だろうが関係ない。妹を傷つける奴は誰であろうがぶちのめす、それが姉であるのだから。


「此方は貴女を知ってる。『炎上暴風のエリス』、冒険者ギルドにおける最上位ランカーの一人でしょーよ」


「田舎では最強ってだけよ」


「こちらの調査では最上の評価である『特筆戦力』に分類されていたようだけど? あの魔女やエルフだって瞬間的にならば超えられる素養があるでしょーし」


「ごちゃごちゃうるさいわね。そんなのどうでもいいのよ。アタシの要求はさっき言った通りよ。つまんないスキル(キス)でミリファに手を出しやがって。今すぐクソみてえな幸福感の誘発を解除して、ミリファを解放しろ」


「流石は『特筆戦力』、此方のスキルを一目で見破ったようで。まー解放なんて絶対しないんだけど」


「殺すぞ、クソ野郎」


「ふふ、姉妹揃って幸福な隷属に沈めてやるでしょーよ」


 それ以上の問答は不要であった。

 ゴッガァ!! と真正面から女王と姉が激突する。



 ーーー☆ーーー



 何がどうなっているのか、ファルナには理解できなかった。ただ一つ言えるのは目の前の憧れがキスを欲しているということである。


(まっ、待って、その、えっと、展開が早いっ。だってキスってそういうことなわけで、いやでもミリファさんなんか勘違いしてるわけで、つまりそういう意味でのキスじゃなくてあくまで友達同士の戯れ的アレソレなわけで、あの、なんかそれって違う気がするっ)


 何かがあるのだろう。

 蕩けた目も緩んだ口元も赤い頬も熱い吐息も、ファルナが望んでいる感情が原因ではない。都会ではキスが流行っている、だったら気持ちいいことしたって構わない。その程度だ、そこにファルナの望む感情は含まれていない。


 分かっている。

 分かっている。

 分かっている。


 だけどほんの僅かだけ、そこにファルナの望む『好き』があるのではないか、と。淡い期待を抱いてしまうのだ。


(……その、止めないと)


 何かを勘違いしている。

 都会ではキスなんて流行ってない。たったそれだけの簡潔な事実を告げるだけでいい。それだけで……だけど、それを知ったら、ミリファはどう思うだろうか?


 ノイズであった。

 余計な思考であった。

 現実を知るのは早いほうがいい、そんなの十分に分かっている。でも、それでも、ミリファが悲しむのだと思っただけで、躊躇してしまった。


 ほんの僅かの停滞。

 開かれた口がぴくっと軋み動きを止めた、その時だった。



 ふわり、と。

 ファルナの後頭部にミリファの両手が回されたのだ。



「わ、わひゅっ!?」


「んへへ。ファルナちゃん、しよ?」


 熱い、熱い、熱い。

 ファルナの望む『好き』ではないと、勘違いが発端となった戯れだと分かっていても、求められて冷静でいられるわけがなかった。


 あの、ミリファが、である。

 ホテルに連れ込んで、ベッドに引きずり込んで、そのままぐーたら睡眠タイムに突入する少女が、今まさにファルナを求めているのだ。


 蕩けるような瞳に射抜かれるだけで心臓が強く震える。震えて、焦がれて、壊れそうになる。


(……だめ)


 違う。

 これはファルナの望む『好き』ではない。


(だめ、なのに)


 ああ、だけど。

 抗えるわけが、なかったのだ。

はい、というわけで今年最後の更新となります。……今年最後の半分くらいが変態で占められていますが。


新年には活動報告にでも番外編を書こうと思いますので、そちらも読んでもらえると嬉しいです。


それでは来年もよろしくお願いします。

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