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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第六十四話 よし、パーティーしよう その四

 

「五十八番っ! 触手特化魔獣に──」


 もう無の境地であった。

 ワイワイ騒ぐ少女たちから離れた場所では干からびた魚のような目のリーダーが膝を抱え、座り込んでいた。誕生日会はリーダーの話題で持ちきりで、こっぱずかしい話題が飛び交っている。興奮しきった仲間たちを止めるのは不可能だろう。


「はぁ。本当にリーダーって思ってるのよね? その割にはメチャクチャ舐められている気がするけどっ!!」


「仲良しでいいと思うけど。……それに、ふふ。思わぬところで宝の山を見つけた気分」


 口元を綻ばせながらの言葉だった。少女たち、というかその『会話の内容』に興味津々なような?


「ねえエリス」


『好き』な相手だった。この感情の種類を明確にしてしまうと()()()()()と本能が悟っているのか、友達になりたいなんてもので誤魔化してはいるが。


 所詮は小悪党であるリーダーとエリスとでは住む世界が違う。そのことを強く意識してしまう。


「知らないと思うから言っておくけど、私はこれまで色々やってきたのよ。というか公爵令嬢を誘拐したのは知ってるはずだけど」


「ああ、それ『は』貴女のせいじゃないわよ。ゾジアックがスキルで後押ししたって感じみたいだし、本来であればあの事件は起きなかっ──」


「あの誘拐事件『は』、ってだけよ」


 そう。

 未だによく分かってはいないが、どうやらゾジアック(というよりも雇い主?)の目的のために誘拐事件は発生したらしい。それはそれで面倒な話だが、言ってしまえばそれだけだ。リーダーが小悪党であるという事実は消えない。


 なぜなら、


「私は犯罪行為に手を出してきた。エリスは正確に何をやってきたのか知らないと思うけど、こんな言葉じゃ実感なんて湧かないかもしれないけど! 窃盗やら暴行やら、とにかく色々やってきたっ!! ゾジアックから『逃げ出した』後だって、そうよ。生きるため、仲間のため、言い訳なんて並べようと思えば並べられるけど、結局やったことは変わらないっ。エリスと一緒にいられるような人間じゃないのよっ!!」


 だから。

 お願いだから。

 せめて切り捨てられたほうが()()()()()こともないから。



 ああ、だけど。

 そんな言葉でリーダーを見捨てるような奴でないことは既に証明されていたではないか。



「……これ妹にも言ってない、とびっきりの秘密なんだけど、さ。──あたしは『魂から響く声』を聞くことができるのよ」


「たま、しい?」


「言ってしまえば心を読めるのよ。まあ普段は読まないようにしてるんだけど、戦闘中は便利だから使ってるわね。で、この力近くの人間の『声』片っ端から拾うものだからさ……全部知ってるのよ」


「っ!?」


「貴女の過去も、これまでやってきた犯罪行為も、全部。分かる? その上であたしは貴女が『好き』なのよ。決して正義の味方ではないかもしれない。良い人なんかじゃなくて、それこそ正義がこぞって討伐にかかる小悪党の部類で、だけど、どうしようもないのよ。だから、逃がさない。絶対に離れてなんかやらないから」


 肩に手を回し。

 引き寄せて。

 耳元で囁く。


 それだけの動作がリーダーの心を激しく揺さぶっていることに果たしてエリスは気づいているのか。


 しばらく何も言えなかった。

 やがて、ボソリと、溢れる。


「……人の心、勝手に読んでたんだ」


「あ、いや、それは……っ! もちろんそういうのが良くないのは知ってるからできるだけ読まないようにしてたけど、勝率上げるためには仕方ないことで、ああでもそうよね嫌だったよねっ!!」


「別に……他の誰であってもあんまり気分がいいものではなかったけど、エリスなら、うん。別にいいから」


「え、あ……そう、はは、そうかぁ。ふふ、ふふふ。大好き」


「ぶふっ!? ああもう気安く言ってからにっ」


「好きなものは好きだもの。仕方ないじゃない?」


「ったく。変わり者め」


 なぜならこの秘密はあれだけ溺愛していた妹にすら話していないもので、そんな秘密をリーダーにだけは打ち明けてくれたのだから。


『隠す』のはもう一種の病気だ。おそらくエリスのそれは一生かけても治らない。どこまでいっても彼女は一人で背負うことで大切な人が傷つかないならそれが一番と思ってしまう人間だ。


 それでも。

『隠していた』って言いようはあったはずなのに、リーダーにだけは正直に打ち明けてくれた。


 ならば、もういい。

 ここまで『深い』のならば、下手な演技は必要ない。


 ()()()()()()()()のは自覚していたが、それでもリーダーは前に進む。


 これだけ『深い』想いを感じられた。

 この想いがあれば、我慢できる。


 だから。

 だから。

 だから。


「エリスは私がそこらの盗賊どもと同じくそったれな小悪党と知ってもすっ、すす、好きなんて言う馬鹿みたいね」


「そうみたいね。まあ好きなものは好きだし」


「うぐっ。だ、だからこそ話しておくことがある」


「?」


 不思議そうに見返してくるエリス。

 ゾジアックが歪めた価値観、心が正常化したからこそ抱く一つの結論までは()()()()いなかったのか、それとも()()前に能力を解除していたのか。


 何はともあれ結論は変わらない。

 エリスのことは好きだが、それでも状況が一緒に過ごすことを許さない。


「今日でお別れだから」


「…………、え?」


「数年、ううん数十年は会えなくなると思う」



 ーーー☆ーーー



 信者(ファン)が憧れを欲するなど考えてはならない。身も心も魂さえも手に入れようなんてもってのほか。干渉することなく、陰ながらその活躍を観察できればそれでいい。


 だけど。

 ほんの少し力を貸すことが憧れのためになるならば、干渉してしまってもいいのではないか?


 例えば、そう。

 どこぞのライバルであり親友の悪行を利用するなど、だ。



 ーーー☆ーーー



 理解できなかった。

 何を言っているのかちっとも理解できなかった。


「な、んで……? いや、そんな、どうして!? 数年、数十年会えない? 何がどうなったらそんな話になるのよ!?」


「必要なことだから」


「なんで!? 意味わからない、そんなの嫌だ!! こんなに『好き』なのよ? もう一生出会えないんじゃないかってくらい大好きなのに、そんな、貴女はあたしのこと好きじゃないの!?」


「そんなことないっ!!」


「うそっ!! 好きだったら数十年も会えないなんて、お別れなんて、そんな言葉出るわけない!!」


「うるさいわねっ! 私だって好きよ、大好きよ! こうして隣にエリスが座ってるだけで心臓がドキドキするくらいに大好きなんだから!!」


「じゃあなんで!? どうしてお別れなんてふざけたこと言ったのよ!?」


「私が犯罪者だから!エリスのような人と一緒にいられるような人間じゃないから!!」


「なっ! まだそんなこと言ってるの!? その話は終わったはずよ。あたしは気にしない、そんなの気にしない! これまでのことなんて知らない、これからが大事だからっ。これまではそんな生き方しかできないくらい追い詰められていたとしても、これからはそんな生き方をしないでいいよう力を貸すから!! だから!!」


「それでもっ! 私は過去を清算しないといけないっ。ゾジアックに管理されていた頃に行った殺人の数々、そして『逃げ出して』から生き残るために行った窃盗や敵対組織に対する暴行、とにかく全部っ。きちんと償わないと駄目なんだよ。今までは『逃げる』だけでも良かった、みんなと生きるだけならそれでも良かった!! だけど! エリスと一緒に生きるならきちんと償わないといけない。こんなのは自己満足なのかもしれない。牢屋に入ったって、規定の刑期こなして罪を償った気になったからって、スラムに『染まった』この身が綺麗になるわけじゃないかもしれない!! それでも何もしないなんて私が、私自身が納得できないっ!! 少なくとも自分がやったことから『逃げた』ままでエリスの隣に立つことはできない!!」


「あー……」


「だから、今日でお別れ。騎士団の詰所に出頭して、牢屋に入って、罪を償わないといけない。数年、数十年かけてでも、きちんと区切りをつける。その上で私はエリスと共に生きていきたいから!! ……だから、できれば、待ってて。そんな長い間待たせたら私のことなんて忘れてしまうかもしれないけど、ほんの少しでいい。心の片隅でいい。私のことを、覚えていて」


「言ってなかったと思うけど、多分罪を償うの、そんなかからないから」



 …………。

 …………。

 …………。



「え?」


「さっき()()()きたんだけど、本当はリリィローズ公爵令嬢誘拐云々の件で貴女たちはその日のうちに捕縛されていたのよ。でも身も心も魂さえも手に入れるとかいうふざけた計画のために四大貴族の一角たるガードルド公爵家当主が手を回して隠蔽していたみたい。まあガードルド公爵家当主は()()()()()()末路を迎えたわけだけど、その際にリリィローズ公爵令嬢はガードルド公爵家当主が計画の際に収集していた情報を確保しててね」


「ガードルド公爵家当主? いや、というか、リリィローズ公爵令嬢って私たちが誘拐した奴じゃ? え、え???」


「で、その中に貴女たちの情報もあったみたい。計画の部品のことは細部まで調べるってのがガードルド公爵家当主のやり方みたいで、ゾジアックに命令されて行った殺人やら『逃げ出した』後に行った窃盗やら暴行やら、本当に細部までね。結論から言うとゾジアックとやらに脅されてやらされた件に関しては()()()()()()()()()()と見なされるようで、そういったのは無罪になるようね。じゃないと洗脳系スキルで犯罪行為に手を出した奴が救われないもの」


「え、あ……でもっ! あそこから『逃げて』からも生きるために窃盗やら敵対組織相手に暴行を……っ!!」


「窃盗に関してはまあ普通に犯罪だから罪に数えられるとして、敵対組織も普通に盗賊やら何やらでしょ。知ってる? 盗賊って倒したら感謝されるもんなのよ。冒険者ギルドで依頼受けていれば()()()()()()()()()()()くらいに。そんなの犯罪行為にならないって」


「つ、つまり?」


「ぶっちゃけ数ヶ月くらいで出てこれるんじゃない? 詳細な情報をリリィローズ公爵令嬢がいい感じに提示して印象操作するみたいだし、情状酌量? とやらも含まれる見込みだから、一ヶ月かからない可能性もあるとか」


「あ、そう、なんだ」


 ……先ほどまであんなに決心が鈍るだなんだ思ってたのが恥ずかしくなるくらいシリアスも何もあったものではなかった。


「っていうか、そうよ! なんでリリィローズ公爵令嬢が力を貸す流れなわけ!? あいつ私たちに誘拐されたんだし、恨みはあれど力を貸す理由なんて──」


「あー……あたしの信者(ファン)だから、かな」


「……ふざけてるわけ?」


「い、いや、そんなことないって! 確かにそう()()()()んだって!!」


「……女たらしめ」


「あれえ!? うまいこと纏まったはずなのにあたしの評価下がってない!? あれ、あれれ?」



 そんなじゃれ合いを見ていた少女たちは呆れたように息を吐く。会話の内容まではよく聞こえていないが、間に無駄なシリアスが挟まっていたのは表情などで分かるものだ。


 呆れるにもほどがある。

 シリアスが長続きなんてするものか。


 ここから先、無駄にシリアスやら小難しい話やらが出てきたとしても、結局は抱きつきたいくらいに『好き』な相手の味方でいたいからエリスはここにいるのだということはとっくの昔に分かっていたのだから。


 くだらない蛇足は必要ない。そんなものが入る余地はない。そんなの幸せそうにじゃれ合う二人を見ていれば分かるというものだ。


 総じておしゃれさんは言う。


「仲良しだなぁ」

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